悪魔の契約
ゲルガルドから逃れる
それを見送るしかなかった弟ジェイクは、メディアと共にリエスティアを託された。
しかしその場に残る二人にとって、思わぬ存在が接触して来る。
それは
しかし理解し難い
『ヴェルフェゴールね。やっぱり名前付きの悪魔ってことは、そこそこの
『はい、
『へぇ、
ヴェルフェゴールが爵位持つ
するとヴェルフェゴールは僅かな沈黙の後、閉じていた言葉を明かし始めた。
『私は
『バフォメット? ……確かその名前って、
『はい』
『それで、なんでこんな場所に?』
『私の使命は、
『……なるほど。|
『御察しの通りですねぇ。……しかし
『そうかしら? その割には、随分と近くから見てたじゃない。――……しかも私じゃなくて、
『……え?』
高揚感を含んだ声を浮かべるヴェルフェゴールに対して、メディアは訝し気な表情を浮かべながらジェイクを見る。
そして視線を向けられ自分の事を話しているのだと理解したジェイクは、呆気に取られた表情を浮かべた。
そんなジェイクに悪魔も実体の無い
『えぇ。……彼は人間という種族の中で、とても素晴らしい魂を御持ちだ』
『!?』
『まるで夜空に
『……な、何を言っているんだ……?』
『あぁ、これは失礼を。
『!!』
『貴方の魂は、実に美しい。特に今は、その輝きを一層強く増しておられる。……まるで次の瞬間にでも消え入りそうな、素晴らしい輝きを放っておられる』
『……』
『それに、貴方のお兄さん。あの方も美しい魂を御持ちだ。貴方達の魂は、まさに宝石箱に飾られた宝玉です。……あぁ、使命を果たしながら趣味にも
『……うわっ、変態さんだ……』
歓喜するような
そしてジェイクの方を意識し視ていた理由を聞いたメディアは、溜息を漏らしながら再びヴェルフェゴールへ問い掛けた。
『それで、貴方は
『どうにかする、とは?』
『ほら、悪魔って魂を食べるんでしょ? この子も魂も食べるんじゃない?』
『食べる? ……あぁ、もしや魂を収集する事ですか』
『収集?』
『人間大陸の方々は、我々のような悪魔を誤解なさっているようですが。そもそも我々は、世界に満ちる
『じゃあ、悪魔が魂を食べるっていうのは嘘?』
『いいえ、食べられますよ。ただ好んでは食べません。……そうですねぇ。貴方は汚泥に塗れた果実をそのまま食べたり、宝石を好んで食べたりしますか?』
『まさか。果実の場合は洗って食べるし、そもそも宝石は人間の食べ物ではないもの』
『
『……つまり収集って言うのは、美しい魂を集めるってこと?』
『はい。我々は
『……なるほど。
『恐縮です。なので
『……契約……?』
悪魔の在り方について説くヴェルフェゴールから漏れ出た言葉に、ジェイクは僅かな反応を示す。
それを聞いていたメディアもまた興味を示し、『契約』について問い掛けた。
『契約って?』
『契約は契約ですよ。魂を持つ
『!?』
『人間風に言えば、魂を代価にした取引と言うべきでしょうか。
『そ、そんな……。だってさっきは、無理矢理は取らないって……』
『そうですねぇ。……例えば、この世界には長く生きる
『!』
『長く生きる者ほど、魂が汚れも深いですからねぇ。そうした魂を保管すると、保管場所も汚れてしまいますし。管理している天使達からは文句も言われる。悪魔としては、そうした困り事を解決する為に設けたのが契約という
『……な、なんというか……想像するような話と違うような……』
『だから誤解なのです。特に短命な人間からは、
『……魂を奪われるんじゃ、あんまり誤解でも無いような気がするんですが……』
『そうですか? 我々が糧にした場合、魂は消失してしまいますが。契約の場合は糧にはせず、保存するだけですよ。消えるのと保管されるのでは、大きく違うのでは?』
噛み合わない
そんな二人の会話を聞いていたメディアは、納得を浮かべながら二人のすれ違う話を収束させた。
『なるほどね。悪魔にとって重要なのは魂が消失するかしないかの違いだけで、私達みたいな
『!』
『生物にとって死は、肉体が滅びる仮定で
『残念ながら、そういう事です』
生死に関する価値観が異なる
しかし今までの話を聞いていたジェイクは、ある話題に強い興味を示しながらヴェルフェゴールに問い掛けた。
『そ、その契約というモノをすれば……どんな願いでも叶えてくれるんですかっ!?』
『どんなと言うと、語弊がありますねぇ。ただ
『か、叶えられる範疇……。……例えば、人と人が繋がる
『無理ですねぇ。そこの
『……だ、だったら……ゲルガルドを殺すのは……!?』
『それも、
『……だったら、何も叶えてくれないのと同じじゃないか……』
契約による願いの成就に関して問い掛けたジェイクだったが、それ等は
それに落胆し失望した表情を俯かせたジェイクだったが、僅かな沈黙を浮かべたヴェルフェゴールがある事を口にし始めた。
『完全な救済は叶えて差し上げられないかもしれませんが、一時的な救済であれば可能ですよ』
『……えっ?』
『
『……!!』
『ただその為には、互いに
『よ、
『身体ですよ。縛りの
『……それって、誰かの肉体を乗っ取らないと使えないってことなのか……!?』
『そういう事ですねぇ』
『そんな……。……それは結局、ゲルガルドと同じ事をやろうとするだけだ……!!』
ヴェルフェゴールの
しかし二人の話を聞いていたメディアは、自身の意見も付け加えた
『でもその方法なら、ウォーリス君はゲルガルドに完全には乗っ取られない』
『!?』
『例え
『……でも、それは……』
『そして何より、時間稼ぎにもなる。だから意外と、良い案だと思うけど』
『時間稼ぎ……?』
『
『!』
『このまま何もしなければ、ウォーリス君は精神と魂を消されてゲルガルドに乗っ取られるだけ。そして乗っ取られたウォーリス君の記憶がゲルガルドに読み取られ、貴方達が生きている事や居場所が特定される』
『なっ!?』
『結局のところ、このまま事が進んでもウォーリス君達の足掻きは無駄になる。……ジェイク君。このまま
このまま推移する状況を深く察していたメディアは、このまま皇国に逃げても
それを聞かされたジェイクは驚愕に包まれながら身体を僅かに震えさせると、次の瞬間に覚悟を秘めた翡翠色の瞳をヴェルフェゴールに向けた。
『……ヴェルフェゴール殿』
『はい』
『私と契約をしてください。そして、兄上がゲルガルドに乗っ取られるのを防いでほしい。……報酬は、私の魂です』
『フフフッ。その願い、御受けしてもよろしいですが。……それで、私の
『……私の
『おや、よろしいのですか?』
『自分の魂を報酬にする時点で、死は覚悟しています。……それにどうせなら、この
『……やはり貴方は、美しい魂を御持ちだ。良いでしょう。この契約、御受けしました』
『!』
嬉々とした声色の
するとジェイクの肉体が黒い霧に包まれながら、体内に黒い霧を侵入してきた。
そうして僅かな苦しみを浮かべるジェイクは、跪く形で地面に顔を近付けながら俯かせる。
しかし一分程が経つと、その意識を戻しながら俯かせていた顔を上げて立ち上がり、驚きの声を浮かべた。
『これは、どうなって……。……メディア殿……?』
『……ふぅん、そんな感じで憑依するんだ。凄いね?』
『えっ』
メディアの奇妙な言葉を聞き、ジェイクは首を傾げる。
そして
こうして兄ウォーリスを救う為、ジェイクは悪魔ヴェルフェゴールと契約を交わす。
そして
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