実験室の再会
隣領地を挙兵させ異母弟ジェイクとエカテリーナ達を脱走させたウォーリスだったが、その
それ等の行動は許されず処分されそうになるウォーリスとアルフレッドを救ったのは、自ら正体を明かすように現れた『黒』のリエスティアだった。
ウォーリス達への
そしてアルフレッドに命じてウォーリスを実験室に監禁するに留め、ゲルガルドはリエスティアを伴いながら屋敷へと戻った。
それからウォーリスは、否応も無く実験室での監禁生活が再び始める。
幼少期時代を過ごした同じ牢獄に囚われ、アルフレッドの監視と管理によって食事を施され続けた。
しかし唯一の違いがあるとすれば、実験と戦闘訓練は行われないこと。
ゲルガルドはウォーリスに対する興味を完全に失ったかのように
『――……アルフレッド。……リエスティアは、無事だと思うか……?』
『……分かりません』
『……奴が、リエスティアに何かするとしたら。
『それも、分かりません』
『!』
『ゲルガルドは、こうした施設をこの国に幾つも有していると話していた事があります。なのでこちらの
『……お前でも分からないのか?』
『私が管理しているのは、この
『……ッ』
牢獄を挟む形で声を向け合うウォーリスとアルフレッドは、ゲルガルドに連れて行かれたリエスティアの状況が分からぬまま時が経ち続けている事に焦燥感を強める。
帝都までの途上で親交を深める事が出来た二人にとって、その切っ掛けとなったリエスティアの安否を気にしている事が自覚でき、彼女に対する情を宿しているのを否定はしなかった。
しかしそれ以上に、ゲルガルドがリエスティアを使い次に何を企み、その結果として自分達の身がどうなるのか。
二人はそうした危機感を共有しているからこそ、ゲルガルドとリエスティアの状況を知りたがっていた。
しかしここで自分達が動けば、ゲルガルドは容赦も躊躇いも無く殺すことを二人は理解している。
安直な思考や状況を打開できる策も無いまま動けず、二人は自分自身で状況を動かせる立場にない事を悔いるような内情を浮かべていた。
故に二人は、その状況を変化させ得る者を待っている。
それが出来るのはゲルガルドと接触しているリエスティアだけだと考える二人は、彼女の行動に何かしらの意味がある事を願っていた。
しかし状況も変わらぬまま、時間は一ヶ月程が経過する。
その間にアルフレッドは実験室のある庭園周辺の監視を行いながら、徐々に屋敷側の状況をウォーリスは伝えた。
『――……屋敷の人間が、出入りをしていない?』
『はい。この一ヶ月、監視を続けていましたが……屋敷に務めていた者の姿が、まったく確認できません』
『……ということは、エカテリーナの反逆と連動して、屋敷の者達も処分したのか。それとも、私達が到着する前に別の職にでも回しでもしたのか』
『処分したと考えるのが、妥当でしょうね』
『……ということは、ゲルガルドは私達を処分し、あの屋敷を……いや、この領地自体を初めから放棄するつもりだったのか?』
『そう考えれば、屋敷の状況にも辻褄は合います』
『だとすれば、ゲルガルドは別の拠点に移り……リエスティアを連れて行ったのか。……待て、ゲルガルドも屋敷から出ていないのか?』
『はい。あの日以降、ゲルガルドもリエスティア様も屋敷からは出ていません。……しかし、別の移動手段を用いている可能性も』
『……あの屋敷だ、秘密の
『確かに。……ただ、もう一つ可能性があるとすれば』
『?』
『あの屋敷にも、
『屋敷にも施設が……!?』
『私はこの
『!』
『思い返せば幾人もゲルガルドが乗り移る為の
『……まさか、屋敷に肉体を乗っ取れる為の施設があるのか……!?』
『いえ、肉体自体を乗っ取る方法は秘術による
『……なるほど、秘術を用いる際の
『そうです。……しかし、そうなると……。……いや、まさか……』
『どうした?』
『……ゲルガルドがこうして生き永らえてまで叶えようとしている望みは、世界を掌握できる
『……まさかっ!!』
『今まさに、ゲルガルドはその望みを叶えているのかもしれません。……リエスティア様の肉体を乗っ取り、
『しまった……ッ!!』
ウォーリスはこの状況へ至り、自分が拘束されたまま放置されている意味を察する。
それはゲルガルドが次の
牢獄に囚われたままのウォーリスは立ち上がり、魔封じが施されている手枷と足枷を膂力だけで引き千切る。
そして牢獄の鉄格子を容易く捻じ曲げて出ると、それを止めるようにアルフレッドが止める声を発した。
『御待ちください、ウォーリス様。何をなさるつもりです?』
『決まっている。……リエスティアを、奴の肉体になどさせない』
『先程の言葉は、全て私の憶測にすぎません。情報も定かでないまま動くのは危険です』
『そうだとしても、その危険が十分にあるのなら。確かめなければならない』
『ウォーリス様……』
『……すまない、アルフレッド。……私は行くぞ』
牢獄から離れながら歩むウォーリスは、アルフレッドの脳髄が保管された室内まで辿り着く。
そして
しかし次の瞬間、二人の耳に僅かな音が届く。
それは
『ウォーリス様、誰か来ます。警戒を』
『……ッ!!』
突如として現れる足音に、ウォーリスは警戒を抱きながら部屋の物陰に身を潜める。
そしてアルフレッドも黒い人形を複数体ほど出現させ、侵入者と対峙する為に待ち構えた。
そして階段を降り終わった足音は、続くように
しかしそこで発せられた声に、二人は内心を驚愕させた。
『――……アルフレッド殿っ!!』
『!』
『……この声、まさか……!』
アルフレッドを呼んでいる声の主は、そう言いながら脳髄が保管されている
そして
『ジェイクッ!?』
『兄上っ!! ……良かった、無事だった……!』
二人が居た
ゲルガルド伯爵領地を脱出させたはずのジェイクが再び
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます