穿たれる壁


 『天界エデン』で繰り広げられる戦況の一つ、ウォーリスの側近である機械人間サイボーグアルフレッドとの戦いに変化が生まれる。

 アルフレッドが操る人形達は魔鋼マナメタルで形成されている為に破壊できず、武玄ブゲントモエを含む実力者の五名は数において絶対的な不利に追い込まれていた。


 そんな彼等が窮地に陥る直前、義体アルフレッドの自爆に巻き込まれそうになったトモエは『青』に救われる。

 すると直弟子であるテクラノスに託した『青』は、そのまま神殿の大階段に飛翔しながら向かった。


 テクラノスは召喚魔法を駆使し、箱舟ふねに積載していた百体の新型魔導人形ゴーレム達を戦場に転移させる。

 そして右手に持つ錫杖つえを振るいながら、襲撃して来る敵勢力アルフレッドの人形達と相対させた。


『――……!!』


 三メートル程の全長で走る銀色の新たな魔導人形ゴーレム達は、人型の姿を見せながら両手の指を前に突き出す。

 すると十本の指が魔力の光を灯し、全方位から押し寄せる黒い人形達に向けて魔弾を連射し始めた。


 放たれる魔弾によって、魔鋼マナメタルの人形達を傷付ける事は出来ない。

 しかし放たれる魔弾の威力は凄まじく、一発命中しただけでも黒い人形達を数十メートル先まで吹き飛ばしていた。


 それによって黒い人形達の密集地帯は散らされ、押し寄せる勢いは完全に失われる。

 するとテクラノスは周囲に立つ者達に向けて、声を向けながら言い放った。


人形やつらの相手は、我と魔導人形ゴーレムで行う! お前達は、敵拠点あそこにいる敵を倒せっ!!」


「助かる! ――……行くぞ、バリスッ!!」


「はい!」


「任せたぞ、テクラノス」


 テクラノスの言葉に応じ、元七大聖人セブンスワンのシルエスカとバリスが最初に走り出す。

 それを追うようにゴズヴァールも走り、殿軍しんがりを務めるテクラノスに人形達の対処を任せた。


 そうした最中、意識を戻したトモエが膝を立たせて起き上がる。

 その容態を確認する武玄ブゲンは、トモエに肩を貸しながら問い掛けた。


「……っ」


トモエ、やれるか?」


「……無様を晒しました。……やれます」


「分かった。――……行くぞっ!!」


「はい!」 


 武玄ブゲントモエの状態を確認すると、互いに応じる形で三人の後を追う。

 そしてテクラノスと魔導人形ゴーレム達の援護を受けながら、彼等は敵拠点となっている黒い塔を目指した。


 それに対して、黒い人形達の攻勢が止められた光景を投影された映像越しに塔内部のアルフレッドは確認する。

 すると迫る五名に意識を向け、その迎撃を行う為に塔自体の迎撃機能システムを作動させた。


魔導人形ゴーレムが加わった程度で――……この拠点を落とせると思うなっ!!』


 黒い塔の表面に再び棘のような砲塔が出現し、そこに巨大な魔力が収束し始める。

 その狙いは迫って来るシルエスカ達であり、狙われる側の者達も迎撃が来ることを察した。


 そして五秒にも満たない時間で、黒い塔から凄まじい魔力砲撃こうげきが放たれる。

 その威力を知るシルエスカ達は、なんとかそれを回避しようと四散しようとした。


 しかし次の瞬間、殿軍しんがりを務めているテクラノスが大声で叫び伝える。


「散るな! そのまま走れっ!!」


「!」


 テクラノスの声で四散しようとする五名の足が止まると、彼等の前に走り出た五体の新型魔導人形ゴーレム達が上空へ跳躍する。

 そして五体が両腕を前に突き出すと同時に作り出した範囲の広い結界が展開し、放たれた魔力砲撃を受け止めて見せた。


 しかし魔導人形ゴーレムの母船すらも易々と破壊した魔力砲撃を、数体の魔導人形ゴーレムが作り出した結界で防げるはずがない。

 そう考えるアルフレッドの声が、塔の外部に響き渡った。


『馬鹿め、そんな魔導人形ゴーレムの結界で――……っ!?』 


「……我の作った魔導人形ゴーレムを、甘く見るな」 


 侮りの声を向けたアルフレッドに対して、テクラノスは鋭い眼光と言葉を向ける。

 すると魔力砲撃を受け止めた魔導人形ゴーレム達の銀色に覆われた装甲が剥がれ落ち、黒い装甲が見え始めた。


 その黒い装甲が露出されたことで、テクラノスの操る魔導人形ゴーレムがどのような性能を持つかが明らかになる。

 それは未来で造られた劣化希輝鋼ミスリル魔導人形モノとは異なり、無尽蔵の魔力を保有する魔鋼マナメタルで造られた魔導人形ゴーレムだった。


『まさか、こちらと同じ魔鋼マナメタル魔導人形ゴーレムだと……っ!!』


「お前達の人形風情と、一緒にするなよっ!!」


『なっ!?』


 アルフレッドの驚愕に対して、テクラノスは苛立ちを含む声でそう告げる。

 すると前面に展開させた結界で受け止めた魔力砲撃は、結界を通じて魔導人形ゴーレムに吸収され始めた。


 弾くでもなく逸らすでもなく、膨大な魔力砲撃を魔鋼マナメタルで吸収する。

 それを魔導人形ゴーレムの性能として組み込んだテクラノスの技術力は、未来のアリアを確実に上回っている事を証明していた。


 更に左右に展開していた別の魔導人形ゴーレム達が、その場に歩み出て来る。

 そして二体の魔導人形ゴーレムが黒い塔に両手を向けると、両腕が変形しながら砲塔のように組み合わせた。


 すると一体の魔導人形ゴーレムが、腕の砲塔から巨大な魔力砲撃を放つ。

 そして敵側の砲塔に対して砲撃を逆に浴びせながら、相手の砲撃を完全に押し返した。


 そうした光景を間近で見上げるシルエスカや武玄ブゲン達は、各々に驚愕の表情を浮かべながら言葉を発する。


「これは……こんな魔導人形ゴーレムが……!?」


「……やはりコレは、あの時の魔導人形ゴーレム……!」


「テクラノスめ、こんなモノを作れたのか……!」


「……異国の絡繰りも、やはり侮れんな」


「そうですね……」


 テクラノスの造り上げた魔導人形ゴーレムに対して、シルエスカは今まで見た事が無い性能に驚くしかない。

 一方でバリスの方は、帝国のローゼン公爵領地を襲撃した魔導人形ゴーレムとテクラノスの魔導人形ゴーレムが同じモノだと察した。


 ゴズヴァールもまた、魔法師としての技量しか知らないテクラノスが、こうした技術力を持つ魔導師だった事を改めて理解する。

 そして武玄ブゲントモエは閉鎖的な自国アズマに無い魔導人形からくりの技術に驚き、感心するような表情を見せた。


 そうした五名に対して、再びテクラノスが叫び伝える。


「任せろと言ったぞ! ……お前達も、使命を果たせっ!!」


「おうっ!!」


 その言葉を受け取った五名は、各々に自分達が託された使命を果たす為に動く。

 迎撃と防御をテクラノスの魔導人形ゴーレムに完全に任せた五名はそのまま駆け抜け、敵拠点の黒い塔まで一気に近付けた。


 そして全員が顎を上げると足を止めると、黒い塔の天辺うえを確認しながら言葉を向け合う。


「上は、もういていないっ!!」


「いつの間にか、閉じられていたようですな」


「ならば、やる事は一つ」


「私達の全力ちからで――……」


「このかべを打ち砕くッ!!」


 出入り口の無い黒い塔に対して、五名はそれぞれにやるべき事を統一させる。

 その手段として各々が身構え、魔鋼マナメタルで形成された黒い塔の表面に身体を向けた。


 シルエスカは長槍と短槍を組み合わせて一つの赤槍に組み合わせ、生命力オーラと魔力で形成した『生命の火』を纏わせる。

 その傍らでバリスは右腕を伸ばしながら長剣を突き出すと、生命力と風属性の魔力を合わせ練りながら踏み込みを強くした。


 ゴズヴァールは右腕に備わる籠手を突き出すように動くと、そこから打拳ナックルを外して右手に備え掴む。

 更に自身の肉体を瞬く間に魔人化させ、牛鬼族ミノスの姿となりながら自身の体内を巡る生命力と魔力を全身から右腕に込め始めた。


 武玄ブゲンは抜いていた長刀を鞘に収め直し、月影流おのれが出せる最大の斬撃を放つ為に肉体を脱力させる。

 そしてトモエも左脚を軸にしながら右脚を前に出し、肉体に纏わせる生命力を右脚に集中させた。


 すると全員が身に着けている装備ふくが、僅かに肉体を膨らませる。

 既に全員がエリク達と同様の装備そうびを『青』から与えられており、各々が数十倍まで高められた肉体能力で同じ個所に攻撃を仕掛けた。


「――……『穿つ紅蓮の槍ガルムベルグ』ッ!!」


「『疾風の突剣エアリアルスピア』ッ!!」


「月の型、『弦月げんげつ』ッ!!」


「『旋風脚せんぷうきゃく』ッ!!」


「――……オォオオオッ!!」


 それぞれが己の全力を発揮し、魔鋼マナメタルの外壁に攻撃を加える。

 シルエスカは赤槍を投げ放ち、それに合わせてバリスが放った生命力と風属性の魔力で形成された突きが魔鋼マナメタルの壁に凄まじい衝撃で激突した。


 そして武玄ブゲンの抜刀した長刀の気力斬撃ブレードが赤槍の底柄を打ち、その槍刃を表面に食い込ませる事に成功する。

 その食い込みを深くするようにトモエの右脚も赤槍の底柄を殴打し、更に食い込みを強くさせながら表面に亀裂を生じさせた。


 それに呼応するように、ゴズヴァールは赤槍の底柄に右拳を打ち付ける。

 自らの体重と速度、そして何十倍にも増幅された渾身の拳が赤槍の食い込みを加速させると、黒い魔鋼マナメタルの表層に巨大な亀裂が生じた。


 すると次の瞬間、赤槍が奥まで差し込まれたと同時に亀裂部分の魔鋼マナメタルが割れ砕ける。

 それによって黒い塔の壁面に穴が出現し、それを見た五名は歓喜を見せぬまま穴から壁内へと飛び込んだ。


「行くぞっ!!」


「狙うは、敵拠点ここの施設破壊っ!!」


「そして、敵勢力の側近アルフレッドを討伐!」


「ついでに、囚われておる女子達おなごたちがいれば――……だな!」


「はい!」


 全員は各々に声を向け合い、自分達の役割を改めて再確認する。

 そして塔内部の真下から内部を探り、人形達を制御し操っているアルフレッドの討伐を目指した。


 それに対して侵入を許してしまったアルフレッドは、自分の居る室内で苦々しい声を漏らしながら呟く。


『……ただの聖人や魔人に魔鋼マナメタルが壊され、しかも侵入された……。……ふっ、はは……ハハハ……ッ!!』


 この状況に唖然としながらも笑いを浮かべるアルフレッドは、同じ室内に儲けられている細長い球体状の機械ポットを起動させる。

 するとその内部から外で戦っていたアルフレッドの姿と同じ義体からだが現れ、それが赤い光を灯した瞳を開けながら出て来た。


 更に他にも設置されていた機械ポットから、同じ造形の義体からだが続々と現れる。

 合計で五体の義体からだが意思を宿すように赤い瞳を見開くと、それに向けてその室内に居るアルフレッドは命じるように声を向けた。


『――……侵入者を排除しろ』


 アルフレッドが命じる声に対して、その義体からだ達は無言のまま走り出す。

 そして開け放たれた出入り口から出て行くと、それぞれが侵入して来た五名を排除する為に向かって行った。


 こうしてウォーリスの側近アルフレッドとの戦いは、テクラノスとその魔導人形ゴーレム達の参戦によって終幕が近付く。

 追い詰められたアルフレッドは自身に残された義体からだを全て操り、侵入して来た五名の排除に全力を注ぎ込み始めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る