死霊の行軍
突如として押し寄せる万を超えた
それに対して懸命に抗う帝国宰相セルジアスは、生き残っている者達を指揮し陣頭に立って貴族街への避難を行わせた。
しかし削られた兵力は長時間の防衛によって大きく疲弊し、貴族街に持ち込めた食料や武器も極僅か。
限りある備蓄で無限にも思える
そうした折に、生き残った帝国貴族達を各領地へ届けた
すると市民街に侵入していた
「――……パール殿!
「なんだ、よく聞こえない!」
「私を、その
しかし数十メートル上空で
それを解消すべく、セルジアスは飛竜に騎乗する選択を行う。
それを伝えるべく最大の声量を向けると、それに応じるようにパールを乗せた
そして身を屈めて乗り易い姿勢になる
「乗るのかっ!?」
「ええ!」
「なら、来いっ!!」
左手で角を掴み、右手を差し出しながら招くパールに、セルジアスは応じながら
そしてパールの右手を掴みながら頭まで乗り込むと、僅かに動揺した面持ちで尋ねた。
「
「コイツの首と頭の
「分かりました」
「よし、じゃあ飛ぶぞっ!!」
「ガォオッ!!」
「うわ……っ!!」
頭部の左角を掴むパールは、逆の右角を掴むようにセルジアスに伝える。
それに応じる形で右手で角を掴んだセルジアスを確認したパールは、再び
そして市民街を覆う夜の暗闇に紛れて押し寄せる赤い光の大群を確認しながら、左手の指で指し示すように伝えた。
「
「ああ! ――……分かるな、あそこだ!」
「ガォオオオッ!!」
パールに命じられる
まずは大通りに面する四箇所の道路に火炎弾を撃ち込み、建物を崩しながら
それから小さな道路や通路にある建築物を火炎弾で燃やして崩し、正門まで続く市民街の通路を悉く潰していった。
これにより夥しい数の
そうした状況を作り出した光景を見下ろすパールは、セルジアスを見ながら口元を微笑ませながら問い掛けた。
「それで、これからどうする?」
「
「分かった。――……アリスが尊敬するだけはある」
「え?」
「お前が力だけではなく、知恵もアリスの兄であるという事が知れた。……行くぞ、しっかり掴まっていろっ!!」
夜空を駆ける
更に侵入口となっている南方側の外壁部分や、他の侵入口にも火炎弾で侵攻を止める。
そして貴族街を隔てている内壁に押し寄せている
一時間程で事態は好転し、
それにより兵士達の疲弊を癒せるだけの時間の猶予が得られ、火の手が留まらない市民街と流民街は黒い煙を上げながらも夜に闇に溶け込んだ。
そして貴族街側に着地した
そこに
遠巻きながらも避難して来た民間人も
それは恐れというよりも、絵物語で聞かされた
「あ、あれが……伝説のドラゴン……?」
「あの数を、たった一匹で……」
「……凄い」
そうした者達を横目に聞くセルジアスは、その
更に自ら頭を下げながら、
「ガゼル子爵家の
「な、なんだ? 急に……」
「素直な感謝ですよ。貴方のおかげで、ここに居る者達は救われたのです。彼等もまた、自分達を救ってくれた者の名を知っておきたいでしょう」
「……!」
唐突に感謝をされるパールは、セルジアスの視線を追うように横目を向ける。
そこには多くの兵士達や民間人達が集まりながら、伝承上でしか存在を知らない
その視線には歓喜や羨望、そして涙を含んだ感謝を見せる者達もいる。
それを見ながら複雑な表情を見せるパールは、セルジアスを睨みながら話を切り替えた。
「それより、コレはどういう状況だ? これも、悪魔とやらの仕業なのか?」
「
「ああ。すぐ
「まさか、他の領地も?」
「いや。お前の領地がある
「西側と北側は無事で、南側も一部は無事。一番酷いのは、
「ああ。それと、さっきの奇妙な
「!?」
「
「……まさか、同盟都市の建設地っ!?」
「そう、多分それだ。そこから更に
「……同盟都市を経由して、オラクル共和王国から死者が雪崩れ込んで来る……!?」
パールは身振りで方角を示しながら、帝国内部で起きている各領地の状況を教える。
それを聞いていたパールと傍に居る騎士達は目を見開き、驚愕を浮かべながら東側を見つめた。
セルジアスもまた東側を見つめながら、苦々しい表情を強める。
「まさか、あの死者は帝国民ではなく……。だとしたら、ウォーリスが共和王国を必要となくなったという意味は……っ!!」
「どうしたんだ? いったい」
「……今回の襲撃は、死者を操る禁忌の秘術で起こされています。……もし敵が、共和王国の民まで殺し、死体にして攻め込ませていたら……!」
「……!!」
「共和王国の人口は、帝国と同等かそれ以上のはず……。……最悪の場合、百万の
「百万……!?」
「そうなれば、各領地の兵力と合流したとしても圧倒的に数の差は覆らない……。……もし敵の狙いが、
拳を握り締めながら唇を噛み締めるセルジアスは、鋭い眼光を見せながら東側を睨む。
そして敵が帝都にだけ
「……この事態は、我々を滅ぼすというだけではなく……
「
「多くの死体で帝都を襲いながら、他の領地には向かわせない。我々を帝都から逃がさず、そして逃げたとしても逃げた領地を襲う。その意思表示と考えて、間違いないでしょう」
「!?」
「私達は、
死霊術で死体を操る
明らかに帝都を狙うような進路を辿る
更に道中の村や町はともかく、万数を超える
そうした不自然な行動の意図を察したセルジアスは、
そして今まさに、その死体が集められながら進軍する帝国と共和王国の国境付近に赴き、その同盟都市建設現場に近付いている者達がいる。
それこそが旧ゲルガルド伯爵領地から北上し動く
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