国々の動き
『黄』の
その間に人間大陸の国家間では、ルクソード皇国を中心とした状勢の変化が現れていた。
変化した内容は、以下の三つ。
一つ目が、三代目となる『赤』の
二つ目が、四代目としてケイルという名の女傭兵が新たな『赤』の
三つ目が、暫定的ながらも
またルクソード血族が皇国で絶えている今、唯一の血脈として証明されているシルエスカが皇王になることも、各国や同盟国は不自然さを感じなかった。
むしろ各国や皇国内で疑問視したのは、新たな『赤』の
『赤』の聖紋は他と違い、初代『赤』のルクソードに連なる血族から選ばれている。
しかしそうした繋がりの無い者が『赤』に選ばれ、更に各国が大国の要請に応じて犯罪者として指名手配し追っていた人物でもある事態から、各国に動揺と疑問を浮かばせた。
それに関して皇国宰相を務めるダニアス=フォン=ハルバニカから、新たな『赤』の
『――……彼女は、二十年前に没した第二十一代皇王エラクシス=サミアン=フォン=ルクソードが妾としていた庶子の隠し子であり、今まで傭兵として活動していました。彼女の血筋と身分の保証は、正式に皇国の名においてさせていただきます』
その言葉を各国の代表者に向けたダニアスは、ケイルの身分を保証する。
実際には偽称された身分だったが、それが嘘である事を証明するモノは無い。
また先々皇エラクはランヴァルディアという隠し子がいた事も皇国内では知られており、ケイルの髪色が『赤』の血を継ぐ事を証明するモノだったので、皇国内部ではそれほど不可解な話に思われなかった。
ケイルは皇国内で、ルクソード皇族の血脈に名を連ねる者と認められる。
そして皇族の一員として、『ケイティル=フォン=ルクソード』という皇族名を与えられる事となっていた。
しかし『赤』の
それに関しては本人に異論は無いことも魔道具を通じて各国に伝えられ、ケイルの顔と右手に刻まれた聖紋が各国の代表者達に見せられた。
その際、他の大国に所属している『青』と『黄』の
しかしアズマ国に所属する『茶』のナニガシは魔道具越しに参列し、『赤』となったケイルの顔を見ていた。
「――……ふむ。あの娘、確か前に団長殿と話しておった女子じゃな」
ナニガシはそう呟き、記憶の片隅にあるケイルの顔を思い出す。
そうしてケイルが『赤』の聖紋を継承している事が証明されると、各国に対する要望がダニアスの口から伝えられた。
『――……ここで御伝えした通り、ケイル殿は新たな
「!」
『また彼女と共に同行していた仲間達も同様に賞金に懸けられ、追われる立場にあります。彼女だけは皇国で保護するに至りましたが、他の者達は安否すらも定かではありません』
「……ッ」
『我が国の
「そ、それは……」
『数ヶ月前、我が国にフォウル国の使者が訪れました。その際に使者殿から、再び問題が起きた場合に彼の国に助力を請えるよう、許可を頂いております」
「!」
『もし我が国の要望に御答え願えないのであれば、盟約の
ダニアスは終始、口調を強くしながら要望を伝える。
一見すれば滅茶苦茶にも思える要求だったが、
盟約に参加していない国は四大国家と同盟関係を結べず、物流や人の移動に関して大きく制限が設けられ、人間国家の中で孤立無援となってしまう。
更に
先日、
フォウル国がそれだけ脅威となる存在だと認識している代表者達は、盟約から外れフォウル国と敵対してしまう事を恐れ、その条件を飲むしかなかった。
こうして
「――……これで、晴れて自由の身ってことだな」
「そうですね。お疲れ様でした」
「まさか、フォウル国を脅しの道具にしちまうなんてな」
「【
「これだから貴族ってのは……」
各国で指名手配が解かれたケイルは、その情報を宰相室に居るダニアスに聞く。
室内に置かれた
そしてケイルは、向かい側に座るシルエスカを見て話し掛ける。
「……シルエスカ。結局アンタ、
「仕方あるまい。誓紋が無い以上、我に皇位継承権を戻すよう各貴族達から声が上がってしまう。それを拒否すれば、再び各地で内乱が起こる可能性があるのだ。今は大人しく就くしかない」
「今は、か?」
「そうだ。皇王の地位に座れば、ダニアスと共に
「そういう政治は、アンタ等で勝手にやってくれ。……役目は果たした。約束通り、アタシは自由に動かせてもらうぞ」
ケイルはそう言いながら立ち上がり、出口の扉に向けて足を進める。
その背中を見送るダニアスは口を開き、ケイルを呼び止めた。
「本当に、一人で行かれるのですか?」
「ああ」
「アズマ国に向かうのなら、馬車や船はこちらで用意させて頂きますが」
「そういうのはいい、一人の方が気が楽だ。……それに、まだ完全に安全とは言えないからな」
「アズマ国側にも、連絡をしなくても構わないのですね?」
「ああ。何処から情報が漏れるか分からない以上、出来るだけアタシの動きを悟られたくない。『赤』が就任してすぐ所属してる
「そうですね。……
「分かってる、有難く使わせてもらうさ。――……じゃあ、三年以内には戻るわ」
「はい」
「気を付けるのだぞ」
ダニアスとシルエスカはそう述べ、ケイルを見送りの言葉を向ける。
扉に手を掛けたケイルは、そんな二人に対してこう述べた。
「アンタ等も、半年後に御嬢様が起きた時に気を付けろよ。記憶が無くて、暴れるかもしれねぇからな」
「!」
「どうしようもない時は、御嬢様の故郷に戻しちまってもいい。その間までは、御嬢様の世話を頼んだぜ」
ケイルはそう言い残し、扉から出て一時間後に皇都から出立した事が伝えられる。
それを宰相室で見送ったダニアスとシルエスカは、互いに顔を向けながら話を交えてた。
「――……シルエスカ、改めて聞きたいのですが。貴方はケイルが話していた
「……正直に言えば、信じ難い内容だ。だが、真に迫るモノがある。何より、我々が秘かに考えていた新たな国作りの構想をケイルは知っていた」
「確かに。……アルトリアが目覚めた場合には、ガルミッシュ帝国に戻しても構わないとケイルは言っていますが。事態を避ける為には皇国に留め続ける必要もあります」
「だがそうなると、ベルグリンド王国に潜む【悪魔】とやらが表に姿を現さない可能性もある。そうなると、ケイル達が目的とする【悪魔】の殲滅が叶わない」
「ガルミッシュ帝国に、この情報を届けるべきでしょうか?」
「我々ですら半信半疑なのだ。ケイルと接点の無い帝国が信じる可能性は低い。逆に情報を知らせて帝国が王国側を強く警戒してしまえば、【悪魔】が事を起こさない可能性もある」
「……そうなると、
ケイルから
そして先手を打ち事に対処しようと考えるダニアスに対して、長椅子に腰掛けていたシルエスカは立ち上がり案を述べた。
「帝国と王国の和平に関して、
「それは?」
「信用し、信頼できる者を集める。その者達を鍛え上げ、四年後の出来事に対処させる」
「!」
「皇国内部だけで集めるのではなく、他国にも秘かに呼び掛ける。それ等と連携すれば、
「……確かに、可能かもしれません。……しかし他国に言っても、【悪魔】と対峙できる人材を持つ国は少ない。傭兵ギルドも【結社】側である以上、【特級】傭兵達を雇うのは危険度が高いです。そして
「【特級】傭兵や
「……確かに、あの国だけですね。その条件に当て嵌まるのは」
シルエスカはそう述べ、その国が何処かをダニアスに教える。
それに納得し頷いたダニアスは、皇都の復興と並行しながら
こうして一行が各々の為に修練へ赴く中、皇国でも
それは同時に、ある結び付きを生む結果ともなった。
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