未来の構築式 (閑話その五十八)
マシラ王ウルクルスの息子アレクサンデルが述べる
まず王宮内の地下牢に収監されていたテクラノスが一時的に解放され、まず悪夢の内容を語るアレクの状態が確認された。
二人の周囲ではウルクルス立ち合いの下、ゴズヴァールと共に付き従う元闘士達が監視し、テクラノスが少しでも奇妙な行動をした際に対応できるようにしている。
しかしテクラノスは白髪となった髪と堀の深い表情に急激な老いを見せており、少し前まで五十歳前後のように見えた容姿が八十歳を超えた老人になっていた。
そうして老いるテクラノスに左腕を触られる幼いアレクは、生気の無い瞳を見ながら喋り掛ける。
「――……テクラノス老師」
「……何かね?」
「僕は、貴方に魔法を教わった記憶があります」
「……我は、お
「いいえ、今の話ではありません。……これから先、未来の話です」
「……」
「僕は父上が死んでしまった後、ゴズヴァールと貴方に弟子入りをしました。ゴズヴァールには体術を、そしてテクラノス老師には魔法を教わりました」
「……なかなか、愉快な夢を見たようだ」
アレクの言葉にテクラノスは小さな嘲笑の息を漏らし、信じる様子を見せない。
それに対してアレクは幼くも真剣な表情を向けながら、左腕を触るテクラノスの細い指に右手を重ねた。
「じゃあ、貴方に教わった魔法陣を見せます。それで、僕の話す
「……と、言っとるようだが。それは我は決めることではない。どうするね? 王、そしてゴズヴァールよ」
アレクの提案にテクラノスは答えず、代わりにウルクルスとゴズヴァールに問い質す。
それを受けて二人は一考し、確認という形でアレクの提案を受け入れた。
アレクはそれに対して羊皮紙と魔法陣を描く為のインクとペンを用意するように頼むと、十数分後にそれ等が用意され机の上に置かれる。
そしてアレクはペンを持ち、一枚の羊皮紙に魔法陣を描き始めた。
「……これは……」
その魔法陣の書き方を後ろから無気力に見ていたテクラノスが、驚きの表情を見せ始める。
その上擦った声にゴズヴァールや周囲の者達も気付き、アレクが書く魔法陣に注目した。
数分後、アレクは幼い手で魔法陣を書き終える。
それは一つの円形の中に描かれる、五つの方陣で成り立つ魔法陣。
テクラノスが得意とし扱う、
「……馬鹿な。我の
「テクラノス。お前は本当に、王子に魔法式を教えていないのだな?」
「教えてはおらん。第一、魔法陣とは基礎的なモノを除けば、魔法師が重ね築き独自に編み出し発展させていく
「つまり王子は、お前が魔法を使う際に使う構築式を模倣して書いているのではなく、教わったように書けているということだな?」
「……ああ、間違いはない」
ゴズヴァールの問いにテクラノスは頷き、アレクが教えていない自身の構築式を描けている事を教える。
周囲の者達はそれに驚き、アレクの話に一つの信憑性を持たせる事に繋がった。
しかしアレクは、まだ残っている羊皮紙に何か違うモノを書き始める。
周囲の者達はそれを不可解な視線で見つめる中で、アレクはテクラノスに向けて話し始めた。
「テクラノス老師」
「……?」
「貴方は未来で、教えを受けていた僕の傍でこう言いました。『まだ
「……!」
「未来のテクラノス老師は、僕やゴズヴァールと共に惨劇の元凶たる悪魔に立ち向かい、死んでしまいました。……でも最後に、僕に見せてくれたんです」
「……これは……」
「これが、貴方が十五年後に書き上げ完成させた構築式です」
「……お、おぉ……おぉお……!!」
アレクが書き上げた差し出した魔法式を見て、生気の無かったテクラノスの瞳に輝きが灯る。
そして差し出された羊皮紙を奪うように手に取ると、目を大きく見開きながら魔法陣に描かれた造形と構築式を確認しながら呟いた。
「……そうだ、そうか。他の
「未来の
「……!!」
「『
「……この式を、我が本当に……?」
「はい。――……そして、こうも言っていました。この式を導き出せたのは、あの
「……!」
「貴方が僕に魔法の教え頂くきっかけになったのが、貴方の言ったその
「なに……!?」
「その
「……」
「そうなる前に……。あの
必死さと切実な様子を見せながら話すアレクの言葉に、周囲の者達は驚きを含めながら静寂を漂わせる。
テクラノスしか忠実に描けない魔法陣を淀みも無く書き、更にその発展型とも言うべき
それでもウルクルスやゴズヴァールなどの心には、まだ猜疑心に近いモノが滞留している。
そうしたモノが生み出した僅かな沈黙を破ったのは扉を叩く音であり、それに応じたのはゴズヴァールの声だった。
「……入れ」
「――……失礼します! ゴズヴァール殿、実は……」
「どうした?」
「門の前に、ウルクルス陛下とアレクサンデル殿下に御目通りを願っている者が訪れておりまして……」
「……何故、それを俺に言う? そうした者達は、
「い、いえ。それが……」
「?」
「訪れている者は、『青』の
「なに……?」
「ただ、以前に訪れていた『
「!」
訪れた元闘士の一人がそう告げ、来訪者の素性が人間大陸の守護者である
そうした中で驚きと共に目を見開いたアレクは、父親であるウルクルスの方に顔を向けて頼んだ。
「――……父上、その人との謁見許可を!」
「アレク……?」
「お願いです、父上!」
アレクが必死に頼み、『青』との面会を求める。
それに困った様子を見せるウルクルスは、ゴズヴァールの方へ顔を向けた。
ゴズヴァールも訝し気な面持ちと心を持ちながらも、今のアレクと連動するように現れ悪夢に関しての用件だと告げる『青』と名乗る男が気になっている。
そして妥協案として、答えを求めるウルクルスに対してこう述べた。
「……ウルクルス様。その『青』と名乗る男、
「い、いいのかい……?」
「アレクサンデル様が述べている
「……何かね?」
「お前には、訪問者に対する警戒と、王と王子への防備を命じる。……向こうに害意や敵意があると俺が判断した時には、訪問者に対して攻撃を行え。いいな?」
「……了解した」
「アレクサンデル様」
「!」
「貴方の要望には、最大限にお応えしましょう。しかし貴方やウルクルス様に危険が及ぶ事を向こうが述べ行動するような者であれば、私は一切の容赦も無く相手を打倒します。それでよろしいな?」
「……はい」
ゴズヴァールは各々にそう述べ、訪問者である『青』と名乗る男を王宮内に招き入れる事を受け入れる。
そして一時間後。
王宮に設けられた謁見の間にて、『青』と名乗る男が元闘士達と共に入場した。
その男は若く二十代前後の年齢に見え、しかし異質な青い髪を持つ。
服は青い生地で編みこまれた魔導師と思わせる服装であり、またその頭には青い大きな帽子を被っていた。
そして右手には長い錫杖を着きながら歩き、進み終えると左手で帽子を外す。
謁見の間で待つマシラ王ウルクルスと王子アレク、そしてゴズヴァールはその人物の顔を見た。
「……!」
「やっぱり……!」
ゴズヴァールはその人物の顔を見て、僅かに驚きを持つ。
同時にアレクはその人物の顔立ちや髪色を見て、
そんな『青』と名乗る若者が、三名の前で名乗りを上げる。
「――……こちらの要望を叶えて頂き、感謝しよう。……私の名は、ミューラー=ユージニアス。この
『
こうして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます