黒い矛
『神』と対峙する『青』は、互いに魔法での激しい攻防を繰り広げる。
その激闘において、アリアに師匠と呼ばせた『青』が放つ魔法の扱いは間違いなく人類の頂点を極めていた。
「――……『
「クッ!!」
白い翼を羽ばたかせ飛翔する『青』は、右手で振り持つ錫杖の先から音速に近い射出度の細い水流を撃ち放ち、『神』の胴体を狙う。
それを二つの翼を前方へ囲み包み防御した『神』は、鋭く高い威力を持つ水に押され引いた。
それに合わせ既に左手で中空に円を描き瞬く間に構築式を成した『青』はそれに合わせ水流に金色の閃光を交わらせる
「『
「!」
『神』の黒い翼に触れていた鋭い水流に、閃光のような稲妻が走る。
それが水に触れていた『神』に目に見える電撃を与え、『神』が靡かせていた金色の髪を僅かに逆立たせながら身体に電撃を駆け巡らせた。
しかし電撃を受けた『神』は余裕の笑みを零し、『青』が放った電撃を全て右手に持つ杖に流し込む。
それに気付いた『青』は目を見開き電撃を止め、更に杖から放つ水流を停止させた。
「――……返すわ」
「!」
そう呟く『神』は杖を向け、その先端から凄まじい雷光を生み出し放つ。
『神』に浴びせた魔力の電撃が吸収された事を察した『青』は、瞬く間に自身の周囲に重厚な結界を張り巡らせた。
そして返された巨大な雷光は『青』の結界に弾かれ、それが都市部の建物に直撃する。
瓦礫すら残さず一瞬で灰と化した建物を横目に見てすぐに視線を戻した『青』は、更に『神』が行う動きを目視した。
「――……『
「ヌゥッ!!」
『神』は杖を回し持ちながら夜空に掲げ、一つの光を上空に撃ち放つ。
そしてそれが夜空に戻るような逆の流れ星となったように見えた瞬間、『青』の真上から太く巨大な
恐ろしい魔力密度の光線を受けた結界は一秒にも満たない時間で破壊され、『青』を飲み込む。
そしてその真下にある地上にも降り注ぎ、都市の地面に巨大な穴を空けた。
そして杖を持つ右腕を振り
しかし『神』は素早く後ろを振り向き、杖を向けた。
杖を向けた先には、無傷の『青』が空中に浮遊したまま同じように錫杖を構えている。
互いに杖を向け合い睨み合う中で、
「――……『
「その口振り、やはり
「……ッ」
「以前のお前には教えていなかっただけだが、今のお前は儂の魔法研究を全て盗み見たはず。ならば転移も用意であろう。――……にも関わらず転移できぬのは、やはり過ぎたる力を身に宿したからだろう」
「……『神兵』の
「当たり前であろう。――……『神兵』の
「要は欠陥品でしょ? そんなモノを未完成のまま放置して誇るようなアンタの研究も、底が知れてたわ」
「――……しかし、本物の『
「!」
「その身に不老不死の力を束ね持ち膨大なエネルギーを蓄えているにも関わらず、数多の
「……死ぬ前に言いたいことは、それだけでいいかしら?」
「ならば、置き土産にもう一つ述べよう。――……記憶を失う前のお主、アルトリア=ユースシス=フォン=ローゼン。あの娘は完成されていた」
「……!」
「あの幼く未熟な精神と身体に『化物』を棲まわせ、にも拘わらずそれを完璧に抑え込み、『人間』であろうとする矛盾した存在。――……故にアルトリアは、この世で最も完成した『人間』だった」
「……矛盾した存在が、完成されてるですって?」
「人とは元より、矛盾を抱えた存在。高い知性を持つ存在へ進化しながら感情に流され、時には獣以上に醜悪な姿を晒す。個であるにも関わらず群で無ければ活かされず、個に陥る事で破滅する脆弱な生命なのだ」
「……」
「アルトリアは自身の『
「……ッ」
「『
「……そう。なら勝手に信じて、死ねばいいわ」
『青』の語りに苛立ちさえ超えて無表情となった『神』は、杖の持ち手である魔石から再び黒い矛を作り出す。
それを薙ぎ振りながら、黒い翼を羽ばたかせて『神』は急速に接近した。
『青』はそれに対して白い翼を動かし身を引かせ、自身の周囲に結界を張り巡らせ、同時に新たに作り出した『
しかし『神』も結界を作り弾丸を防ぎ弾くと、黒い矛を振り『青』の結界に接触した。
すると結界は無視されるように黒い矛の通過を許し、『青』は目を見開き錫杖に刻まれた術式の一部を起動させ再び転移し、『神』の傍から離れる。
不可解な表情を浮かべた『青』が遠く離れた背後に出現した事を察した『神』は、振り返りながら杖を向け、黒い矛を黒い閃光に変えて放ち撃った。
今度は白い翼によって移動し回避した『青』は、黒い閃光が直撃した都市部を見る。
閃光に飲まれた場所は瞬く間に消失し、破壊された断面に黒い霧を残してる光景を目にした。
「……アレは、
『神』が生み出す黒い矛と黒い閃光の効力を察した『青』は、結界が易々と突破された理由を推察する。
あの黒い矛や閃光は、魔力で維持する結界の魔力を触れた瞬間に腐敗させ、結界の構造維持そのものを破綻させていた。
それに物体が触れれば、同じように構造を腐らせ瞬く間に消失させられる。
この黒い矛で人体を腐らせ消失させれば、腐り死滅した細胞を修復や治癒させる事は不可能だろう。
ただし、一部の例外を除いては。
「――……あの馬鹿皇子と同じように、お前も魂ごと腐らせ消滅させてあげる」
「……
『青』は自身の錫杖を振ると同時に、自分と『神』を囲むように一帯を覆う氷の壁を出現させる。
四方一キロメートル程を囲み天井も氷壁で覆われ閉じ込められた二人は、青い光を迸らせる氷壁内部で互いに向かい合いながら対峙した。
しかし『神』は周囲を覆う氷壁を見ながら、つまらなそうに呟く。
「……この程度の氷柱結界で、私を封じたつもり?」
「これは封じる為のモノではない。――……儂等の戦いで、この都市を崩壊させぬ為だ」
神の呟きを予想したのか、それとも自身に覚悟を抱かせる為なのか。
『青』は氷の結界に閉じ込めた『神』と対峙し、錫杖を振り再び構え振る。
それに対して『神』は不遜に構え、形成した黒い矛を手に再び『青』に襲い掛かった。
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