窮地の再会


 クロエとエリクを守る為に精神武装アストラルウェポン戦車チャリオットでケイルを共に乗せてマギルスは、『神』との追走劇を続ける。

 都市中央部の道を幾度も曲がりながら瓦礫や倒れている黒い人形達を踏み超える戦車チャリオットを右手の手綱で巨体の青馬に指示し、『神』が放つ光球と瓦礫の弾丸をギリギリで避け進んだ。


「次は右!」


「うん!」


 マギルスの左腕で腰を支え持たれたクロエが、戦車の行く先を指示する。

 予知が出来るクロエの指示を素直に信じているマギルスは、疑いも動揺も無く戦車を走らせた。


 それを上空から六枚の黒い翼を羽ばたかせて追撃する『神』は、苛立ちを含んだ表情で戦車とそれに乗るクロエを見て呟く。


「――……奴さえ殺せば、人形達の制御を取り戻せる……!! 奴さえ……!」


 『神』は忌々しく呟きながらクロエを殺す事を優先し、戦車の進行経路を見て周囲に浮かべた瓦礫と光球の弾丸を撃ち放つ。

 そして戦車の進路に存在する地面と周囲の建築物を破壊し、建物の瓦礫と粉砕された地面で道を塞ぎに掛かった。


 それに気付きエリクを抑えながら前を見ていたケイルが、焦るように叫ぶ。


「道がッ!!」


「分かってるよ!」


 マギルスは右手で掴む手綱を強く握り、更に自身の体内から戦車に流れる魔力を放出させる。

 すると魔力で姿を成している青馬と戦車の足元に魔力障壁バリアが展開され、青馬に空を駆けさせる時と同様に戦車が空を駆け始めた。


 そして塞がれた道を飛び越えて突破し、破壊されていない先の道へ着陸しながら青馬と戦車は再び地面を走り始める。

 ケイルは戦車も飛び駆けさせる光景を見た後、唖然とした表情で呟いた。


「――……す、すげぇな……。こんな戦車まで空を飛ぶのかよ……」


「……でも、もう無理かも!」


「え?」


「そろそろ、僕の魔力がヤバめ!」


「!!」


 マギルスは苦々しい声で額に冷や汗を掻き、自身の限界が近い事を二人に知らせる。


 多大な魔力を消費し形成される精神武装アストラルウェポンは、どの形態も強力ながら使用者マギルスの魔力を膨大に消費する。

 戦車を作り青馬を巨大化させ更に魔力での加速増幅を促している現在、マギルスの魔力は尋常では無い速度で消耗を強いられていた。


 しかも既に、短時間ながら地下で『攻撃形態アタックフォルム』と『防御形態ガードフォルム』で体内魔力の半分以上を使い、僅かに回復しても黒い人形達との戦いでも消費している。

 この『戦車形態チャリオット』を既に一分以上も維持し、更に速力と形状を維持し保つだけでマギルスの魔力は尽き始めていた。


 そんなマギルスの焦りを聞いていたクロエが、マギルスの腰を掴む右手で軽く揺らして伝える。


「マギルス、大丈夫だよ」


「!」


「次のかどを左に。――……そうしたらすぐに、この戦車チャリオットを解いて」


「え……!?」


「なっ……!? 戦車これを解いたら、追い付かれるぞ!?」


「私を信じて、ケイルさん。マギルス」


「……うん!」


 ケイルの懸念を跳ね退けるように、クロエは二人にそう告げる。

 そしてクロエの言葉を信じたマギルスは、更に魔力を振り絞りながら青馬と戦車の速力を高め、先に存在する曲がり角を見た。


 そして数秒の内に辿り着き、凄まじい速度のまま青馬に大きく揺らされる戦車はかどを左に曲がる。

 その揺れで落ちそうになる意識の無いエリクをケイルは必死に抑え込み、戦車の後部部分が建物に衝突しながらも曲がり終え、マギルスは汗を流し息を荒くしながら告げた。


「もう、限界……!」


「解いて!」


 マギルスの魔力は限界に達し、精神武装アストラルウェポンの戦車を維持できず紐解けるように青い魔力が四散していく。

 そして戦車が消失して行く中でケイルはエリクを背負いながら地面へ跳び、マギルスも手綱を離してクロエと共に降りた。


 巨大化していた青馬も元の大きさに戻ると、青い四輪の戦車チャリオットは完全に消失する。

 飛び降りたマギルスは着地した後、クロエと共に膝を着いた状態で大きく息を吐き出した。

 

「――……ハァ、はぁー……!」


「お疲れ様、マギルス。頑張ったね」


「はぁ、はぁ……。うん……!」


 マギルスはクロエに褒められ、嬉しそうに微笑む。

 それを微笑み返すクロエだったが、同じく着地しエリクを抱えたままのケイルが二人の傍に駆けながら伝えた。


「おい!」


「!」


「――……これで終わりよ。ゴミ共……!!」


 ケイルが視線を向ける上空を、マギルスとクロエも見る。

 そこには苛立ちの表情を浮かべた『神』が黒い翼を羽ばたかせ、周囲に夥しい量の瓦礫と光球を滞空させていた。


 そして『神』はクロエ達を見ながら忌々しく呟くと同時に、右手に持つ杖を向けて数え切れない瓦礫の弾丸を放つ。

 既にマギルスは立ち上がる足に力を込める事すら間に合わず、ケイルもまたエリクを降ろし剣を持つ暇さえ与えられず、ただ夥しい瓦礫の襲来を見ているしかなかった。


 そうした絶望の状況で、たった一人だけ微笑んでいる。

 それは『黒』の七大聖人セブンスワンとして予知の能力を持っていた、クロエだった。


「――……ッ!!」


「……え?」


「な……っ」


 クロエ達に着弾し圧し潰すはずだった万を超える瓦礫の弾丸が、突如として空中で停止する。

 瓦礫を放った張本人である『神』は驚きを浮かべたが、クロエ達の方を見た。


 そうした中でマギルスとケイルは空中で止まった瓦礫と同時に、目の前に出現した人物に驚きを浮かべている。

 そして微笑んだままのクロエは立ち上がり、その人物に話し掛けた。


「……久しぶりだね。『アオ』」


「――……久しいな。『クロ』」


「!」


「……『青』の、おじさん……!」


 窮地だった四人の前に現れたのは、青い衣と帽子を被り長い錫杖を持った長い青髪の男。

 太古から存命し現代の人間大陸に魔法の技術を広く伝え、アリアを含む多くの魔法師達を育てた偉大な魔法使い。


 人類最古の【大魔導師ハイウィザード】にして、『青』の七大聖人セブンスワン

 マギルス達と別れ『青』が再び合流し、旧知の仲ながら殺し続けていた『クロエ』の前に姿を現した。

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