楽園追放
神の理想についてシルエスカに諭された青年は、精神的な衝撃に耐えられずに膝を着く。
周囲の子供達は青年の動揺振りを見て、駆け寄りながら心配していた。
そうした中で兵士達が待つ森の方へ進んだシルエスカは、呆れ気味に口元を微笑ませながら呟く。
「……我とした事が、子供相手に大人気なかったな」
齢百歳を超えている自分自身の行いをそう述べ、シルエスカは自嘲する。
そして前を向いて歩もうとした時、シルエスカは世界を揺らすような衝撃を感じた。
「――……ッ!?」
地下空間の大自然が突如として地鳴りと共に大きな揺れを生み、森や山から多くの鳥が飛び立ち、動物達が逃げるように移動する。
そして遺跡の町に住んでいた少年少女達も大きな揺れに動揺し、不安と恐怖を抱きながら身を縮め、互いに寄り添う合うように守り合っていた。
その揺れが収まり始めると同時に、兵士達が森から出てシルエスカの傍に駆け寄る。
そうした兵士達に驚く遺跡の子供達を横目に、シルエスカは兵士達に呼び掛けた。
「――……お前達、大丈夫か!?」
「はい! 元帥、この衝撃は……!」
「……恐らく、グラド達が仕掛けた時限爆弾だ」
「!」
「第二目標、
「……や、やったぁああ!」
「これで、
シルエスカは都市の地上で聞いた報告を照らし合わせ、それがグラド達の作戦が成功した事を推測する。
仕掛けから一時間が経過した
その衝撃は仕掛けた当事者達が思っていた以上に高く、クロエが開発した爆弾が予想以上の威力である事を成果として物語っていた。
それをシルエスカから伝え聞いた兵士達の喜び様に、シルエスカは僅かに口元を微笑ませる。
しかしすぐに表情を引き締め、兵士達に告げた。
「――……まだだ。まだ終わっていない」
「!?」
「向こうは目標を達した。ならば我等も、その目標を達せなければならぬ」
「……はい!!」
「このまま町を抜け、北部へ向かう。他にも通路があるかは不明だが、鉄壁があればそこを破壊し、通り抜けるまでだ」
「了解!」
シルエスカはそう述べ、兵士達を伴い北へ向けて歩き出す。
それに追従しようとする兵士達の中で、一人が子供達を見ながらシルエスカに聞いた。
「元帥。あの子達は……?」
「神の理想とやらに踊らされた、ただの子供。それだけだ」
「そ、そうですか……。このまま、置いて行くんですか……?」
「彼等が神を信じ、ここを楽園だと思うのなら。ここに残るしか彼等に生きる選択肢は無い。……そうでないのなら、自分達でこの楽園から出るだろう」
シルエスカはそう述べ、怯える子供達から視線を外して北へ向かおうとする。
しかし幾人かの兵士達はそうした子供達の様子を気にしている様子を見せた為、鼻で溜息を漏らしながら告げた。
「……仕方ない」
「!」
シルエスカはそう声を漏らし、子供達がいる方へ向かう。
そして寄り添い合うように怯えた子供の傍を通りながら、膝を着いたあの青年に話し掛けた。
「少年」
「……お前達が、これをやっているのか?」
「さっきの衝撃か? その通りだ。我々の仲間が、お前達の神を阻む一つの作戦に成功した」
「……なんてことを……ッ!!」
「我々も、今から神の理想を阻む為に向かう。……お前達は、外に逃げたらどうだ?」
「な、何を言って……!?」
「我々の目的は、お前達が住むこの大地を地上へ落とす事だ。もしそれが成功すれば、ここにいる全員が死ぬだろう」
「……そんな事にはならない! 神やミネルヴァ様が、お前達を倒すッ!!」
「そう信じるのは勝手だが、既に我々の作戦は一つが達せられたのだ。次も達成する為に、我々の仲間も別の場所で動いているだろう。……その時が起こるのも、時間の問題だと考えろ」
「……ッ」
「お前達はそうやって怯えながらここに残り、何も成さずに死ぬのか。それとも、死を逃れる為に醜悪な世界でも生きるのか。……神から言われて従うのではない。自分達で選べ」
「……俺達は……ッ」
「皆に問い、どうするか決めろ。それが、
シルエスカはそう伝え、青年に選択を迫る。
青年とそれほど歳の違いが無さそうなシルエスカだったが、百年以上を生きた貫禄と威圧感は青年を断念させ、他の子供達に呼び掛けた。
「『……皆、聞いてくれ。この地はもうすぐ、外の者達によって滅ぼされる』」
「『え……!?』」
「『なんで!? 神様や神官様は、ここは安全だって言ったよ!』」
「『ああ。……ッ!!』」
「『キャアッ!!』」
子供達が話し合っている時、再び地下全体に大きな揺れが起こる。
グラド達が起こした爆発の余波が新たな衝撃を生んだのか、それとも別の要因か。
それが分からず、また安全な場所だと思っていた子供達が危険を感じ取る程の状況となり、全員が不安と動揺に満ちた表情を浮かべていた。
そんな子供達に対して、青年は表情を強張らせながら伝える。
「『……俺が神に与えられた御業と、ミネルヴァ様に与えられた役目は、お前達を守る為に使う。……ここを出て、安全な場所まで避難しよう』」
「『で、でも。どうやって……?』」
「『どうやら、あの者達が知っているらしい』」
「『で、でも! あの人達、外の人なんでしょう?』」
「『ああ、そうだ。彼等は、神の理想を阻もうとしている』」
「『!?』」
「『だ、だったら! 僕達があの人達を止めないと!』」
「『忘れたのか? 神の教えを』」
「『……争っちゃ、いけない……』」
「『そうだ、俺達は争ってはいけない。例え奴等が醜悪な外の人間でも、俺達も争えば奴等と同じ醜悪な存在となり、神の恩恵を得られなくなる』」
「『……』」
「『今は耐え、ここから避難しよう。……でも信じるんだ。こんな奴等、我等の神と、そしてミネルヴァ様が浄化してくれる。そして、ここに戻って来よう』」
「『……うん……』」
青年の説得に子供達は頷き、避難する事を受け入れる。
まだ僅かに揺れる中で青年は立ち上がり、シルエスカを見ながら告げた。
「……俺達は避難する。だが、神やミネルヴァ様の行いでお前達が浄化される事を望む」
「そうか。それで、お前達が行ける逃げ道があるのか?」
「外に通じる通路がある。ここから西に行った場所が近い」
「西か、位置的に我々が来た場所だな。だが山道に子供の短い脚では移動も遅かろう。他に道は無いのか?」
「東にある。だがそこは外に行くには遠いし、ミネルヴァ様に立ち入るのは禁じられている」
「ならば、
「……あっ、しま……っ!!」
「子供とは、そう素直であるべきだ。……西の出入り口に行くなら、こちらの
「……礼は言わない。俺はお前達が、浄化される事を信じる」
「そうか。……ではな、
青年は僅かに憎々しい瞳をシルエスカに向け、それに対して微笑みながらシルエスカは再び背を向ける。
そして兵士達の中から五名を選び、子供達と共に道を戻り、都市に居る部隊と合流するよう命じた。
こうしてシルエスカ達は、青年から話を聞いて次の場所へ向かう。
子供染みた理想の世界を築こうとする、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます