覚悟の士気


 グラド達と同様、シルエスカが率いる同盟国軍も都市内部に出現した魔導人形ゴーレム達と対峙する。


 突如として出現した四足型ビーストに襲われた各部隊の兵士達は自動小銃アサルトライフルで迎撃するが、やはりグラド達と同様に命中しない。

 しかも開けた表通りメインストリートに布陣している部隊や戦車が多く、それ等が変形した球体型ボールの腕に備わる魔弾や魔導砲撃によって狙い撃たれた。


『――……』


「グ、アァアッ!?」


「隊長ッ!?」


「新型の球体型は、戦車で迎撃を!」


「歩兵は、犬もどきをやれ!!」


 各部隊の兵士達はそうした事態の中で混乱しながらも、何とか対応しようとする。

 しかし次々と飛び出す魔導人形ゴーレムの数は尋常ではなく、


『――……第八部隊です! 隊長が、敵魔導人形ゴーレムの砲撃で負傷!』


『こちら第九部隊! 隊長が搭乗している十五号戦車が大破! 無限軌道キャタピラと砲塔を噛み砕かれ、迎撃も移動不能です!』


『第七部隊! 大多数の敵に包囲され、負傷者多数! 至急、救援を!!』


「――……クソッ!!」


 各部隊の悲鳴にも似た通信を聞き、外に出たシルエスカは険しくも憤りを宿した表情と声を見せる。

 傭兵ギルド付近にも魔導人形ゴーレムを出現させている黒い箱が地下から突き出た。


 そしてシルエスカと共にいる第六部隊と第十部隊の兵士達を襲うように、多くの魔導人形ゴーレム達が出現する。

 それを見た兵士達は驚愕し、銃を構えながら傭兵ギルドの出入り口や窓を利用して迎撃を整えようとした。


「ッ!!」


「げ、元帥!?」


 二人の隊長は驚きながら、出入り口の前に立ち尽くすシルエスカに呼ぶ。

 シルエスカはその声に反応しなかったが、行動として腰に収めた大小の赤槍を引き抜き、二槍の構えを見せた。


 そのシルエスカに四足型ビーストが六体も同時に襲い掛かり、鋭い爪と牙を振動させながら迫る。

 それを一瞥すらしないまま、シルエスカは灯した炎と共に二つの赤槍を数閃させ、襲って来た四足型ビーストを全て斬り溶かした。


「!!」


「す、全て一気に……!」


「――……第六部隊は、周辺部隊を支援。第十部隊は、戦車部隊と共に包囲された第七部隊の救援に向かえ」


「りょ、了解!」


「他の部隊は、魔導人形ゴーレムを迎撃しつつ後退。傭兵ギルドの施設内まで辿り着け。動けない戦車は放棄して構わん」


『了解!』


「生きて、ここまで辿り着け!」


 シルエスカは凛々しくも引き締めた表情で通信越しに各兵士達にその言葉を伝え、赤槍を握る両手に力を込めて駆け出す。

 そして周辺に出て来る魔導人形ゴーレム達を溶け斬るように破壊し、各部隊の支援と救援を掩護した。

 それに応えるように同行していた第六部隊と第十部隊も動き、指示通りに支援と救援に向かう。


 十数分後。

 包囲されていた第七部隊は約半数近くが負傷し、死傷者を出しながらも傭兵ギルドの跡地まで辿り着いた。

 更に第八部隊から第九部隊も損害はあれど、支援を受けながら後退して合流を果たす。


 しかし八台だった戦車は半数が大破し放棄され、傭兵ギルドの出入り口を破壊しながら壁や瓦礫を利用して布陣する。

 そして中に侵入して来る魔導人形ゴーレム達を相手に、各兵士達は武器を持ち直して応戦した。


 二百五十名程いた兵士達は、二百二十名近くまで減少する。

 しかも第七部隊と第八部隊の隊長を含めた四十名以上が負傷し、戦える兵士は七割近くまで減っていた。


 そうした兵士達を送り届け、最後に傭兵ギルドへ戻ったシルエスカは迎撃を戦車と第六部隊の兵士達に任せ、負傷した兵士達が集まる広間ホールへ赴く。

 そのシルエスカの姿を見た負傷兵や救護兵達を見ながら、シルエスカは伝えた。


「――……敵の球体型は、粗方は片付けた。残りは四足型イヌもどきが大半のはずだ」


「……」


「今、箱舟ふねの周辺でも同様の事態が起こっているらしい。急ぎ離陸させ、安全な場所を探して着陸するよう命じている」


箱舟ふねも……」


「グラド達が無事なら、箱舟ふねと共にこちらの救援にも来れる。それまで耐えろ」


「……ッ」


 シルエスカはそう話し、負傷者達に向けて声を掛ける。

 しかしその反面、シルエスカはグラド達も同じ事態に陥っている事を察し、こちらと同等かそれ以上の損害を受けている可能性がある事を考えながらも明かさなかった。


 逆に士気を向上させる為に、シルエスカは一抹の不安すら見せないように声を張り上げ、通信機を用いて各部隊の兵士に伝える。



「……負傷した隊長達の代わりは、副官が務めよ。そして第七部隊から第九部隊は、負傷者と共に施設内で敵の侵入を防げ。第六部隊の隊長に、ここの指揮は任せる」


「!」


「第十部隊は我と共に地下へ入り、敵施設を発見して破壊するぞ」


「!!」


「この作戦が成功すれば、戦いは終わる。……目的を果たすぞ」


「……ハッ!!」


 その言葉を受けた兵士達は、応じるようにシルエスカへ敬礼を向ける。

 それを見届けたシルエスカは力強く頷き、突入する人員を伴い破壊した地下の大金庫を目指した。


 残された百名以上の兵士達は戦車と共に武器を持ち、次々と侵入して来る魔導人形ゴーレムを迎撃する。

 その銃音や声が背後から響き聞こえる地下で、シルエスカは同行させた兵士と共に大金庫に設けられた地下に続く階段を下りた。


 こうしてシルエスカも、浮遊都市の地下内部に侵入する。

 十五年以上も続く戦争を終わらせるという目標を果たす為に、シルエスカを含んだ兵士達は不安を抱きながら、それぞれの役目を果たそうとしていた。

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