死の淵で
しかし
そしてグラドの戦車と通信が途絶した頃から、各部隊に犠牲者が出始めていた。
「――……グワァッ!!」
「アアッ!!」
「敵の砲撃です!」
「下がれ! 下がるんだ!!」
「起きろ! 早く逃げ……クソッ!!」
『――……第八号戦車、弾切れです! 車輪も破壊されて、動けません!』
「中から出ろ! 装甲が無事なら、盾代わりに出来る!」
「隊長! こちらも、弾が……!」
「弾が足りません! 敵の数が、多すぎます!」
「クッ……!!」
応戦する中で兵士達の弾は切れ、戦車は動けずに大破し、更に夥しい数の魔弾を浴びた兵士は死に、建物などに隠れても強力な魔砲によって蹴散らされた。
各部隊は包囲網を抜ける為に動くが、それを予測するように
次第に各部隊は工場地帯から抜け出せなくなり、ある地点へ誘導されるかのように追い詰められた。
そこは工場地帯の中にある、荒れ果てた大きな
それは魔導国が地上にあった頃に建築されたモノであり、魔法を学問にしていた頃に用いていた会場として、本来ならば魔法学園の学生達が新たな魔法や魔導技術を披露する場であり、魔導国の国民が賑わい喜ぶ場所のはずだった。
会場の四方から生き残った部隊は入り込み、各入口から中で合流する。
集まった兵士達の数は、百五十名前後。
各部隊と共に合流して辿り着いた戦車は、二号車と五号車、そして十二号車の三機のみ。
負傷した者や戦死した者達、また合流できなかった部隊を加味しても、都市北部に集まった七割強の兵士達がこの会場に追い詰められた。
広い会場内にそれぞれが辿り着くと、薄暗い中で銃を突き合わせながら互いが味方である事を確認する。
「――……第二部隊か!」
「……そっちは、第三部隊だな!」
「こちらは、第四部隊です!」
「第五部隊もいます!」
各部隊の隊長がそれぞれに声を発し、自分達の存在を教え合う。
そして集まった部隊全員が中央に集まり、無事な戦車も会場内に入った。
そこで各隊長達が中央へ集い、互いの情報を伝え合う。
「……集まったのは、これで全員か?」
「第一部隊……。グラド将軍は?」
「……十分程前から、連絡が途絶えました……」
「!!」
「戦車も、これだけなのか……」
「近くに居た戦車の乗組員は、一緒に連れて来ました。ただ、他は……」
「全滅か……」
「……ッ」
各部隊の隊長は表情を強張らせ、苦々しい表情を浮かべる。
特にグラドの息子であるヒューイは、連絡が途絶えた父親の事を思いながら表情を歪めた。
集まった兵士達も全てが健在ではなく、軽度から重度の重傷を抱えた者や、大きく疲弊し息を吐く者、そして精神的に疲弊しその場に座り込んで泣く者もいる。
しかし絶望へ沈む時間すら惜しむように、各入口から響く音に全員が気付いた。
「――……!!」
「……来やがった!」
「負傷者は中央に集めろ!」
「戦車で入り口を塞ぐんだ!」
「入り口の数と、戦車が合わないぞ!?」
「もう一つには、そこらにあるモノをバリケードにするんだよ!」
「誰か、弾を持ってないか!?」
「負傷者から弾を受け取れ!!」
「銃が持てる者は、応戦の準備を!!」
各部隊は命令を飛ばし、負傷者を中央に集めて中央に続く道に戦車を詰め、更にバリケードを築く。
そして応戦できる兵士達は銃を持ち、負傷者達が持つ弾も受け取った。
しかし入り口となる通路から各型の
それを察した第二部隊の隊長が、通信で戦車内の兵士に伝えた。
「……そうだ。戦車の砲撃で、通路を塞げるか!?」
『やってみます!』
それに合わせて戦車が通路の上部へ砲撃を加え、轟音と共に通路を塞ぐ。
それで三方の入り口を塞ぎ、残る一つの入り口に戦車が移動した。
「そこの入り口だけは、死守するぞ!
「無事な者は、あの通路の防御へ!!」
「――……待ってください!」
「!」
各部隊が最後の入り口に集結しようとする時、第四部隊の兵士が大声で呼び止める。
それに各部隊の隊長達が反応し、呼び止めた兵士に視線を向けた。
「どうした!」
「
「それは、当たり前じゃないか!?」
「戦車でも索敵してください! もしかしたら……」
「どうしたんだ!?」
「……これは、敵の罠です!」
「!!」
その兵士の言葉に、各隊長達は驚愕の表情を見せる。
それと同時に異変が起きたのは、残った最後の出入り口からだった。
「――……な、なんだ? この音……」
「……まさか、入り口が……!?」
「!」
最後の出入り口に集まっていた兵士達は、その奥から聞こえる轟音に気付く。
更に各方面からも同じような轟音が響き、それで何が起こっているかをヒューイを始めとした隊長達も気付いた。
「……まさか!」
「奴等、出入り口を破壊したのか……!?」
「!!」
「敵は、我々をここに集めて逃げ場を失くしたんだ。……そして――……」
「……!!」
各隊長が推測を浮かべる中で、その場の兵士達が周囲から響く音に気付く。
会場に集まる兵士達は戦車も含めて、周囲に意識を向けながら自然と後退して中央に戻る。
そして周囲に響く音は大きくなり、各兵士達は現れた光景を目にした。
会場の周囲には観客席があり、その出入り口から
そして観客席を覆うように続々と
百体以上の
その状況になって、自分達が逃げ込んだこの場所そのものが敵の罠だと全員が悟った。
下の出入り口を破壊し、
そして上を取れる観客席から包囲し、中距離から長距離砲撃が可能な
非常に単純な作戦だったが、各部隊が状況の理解に精一杯で、敵の作戦や対抗手段を考える暇すら無かった事が、この致命的な状況を生んだ。
絶望的な状況を見て、兵士達の中には銃を落とす者もいる。
そして、それぞれに口から言葉が零れた。
「……もう、ダメか……」
「俺達、頑張ったよな……?」
「……そうだな。爆弾は取り付けられたんだ……」
「爆破まで、あと二十分くらいかな……?」
「……それで、
「そうだな……」
「これで、
兵士達は死を感じながらも、自身の役割を終えた事に満ち足りた表情を浮かべる。
製造施設に爆弾の取り付けを終えた事で、第二目的は達成された。
あの製造施設の中に
その事実が兵士達に達成感を与え、自身の死を受け入れさせていた。
しかしその受け入れは、一人の声で否定される。
それは銃を握り
「――……まだだ」
「……ヒューイ隊長……?」
「将軍の言葉を思い出せ」
「!」
「この作戦に参加する時に、問われたはずだ。死にたいと考えて、この作戦に参加したのかと」
「……」
「死ぬ覚悟で参加するなんて言った連中は、全員が落とされたんだぞ」
「……!」
「俺達は生きる為に戦ってるんだ、死ぬ為に戦ってるんじゃない。……だから、最後まで諦めるな……!」
「……ッ」
ヒューイの言葉を聞いた兵士達は、グラドが告げた言葉を思い出す。
そしてグラドから訓練を受けた各部隊の兵士達は、ヒューイの言葉に賛同するように銃を持ち直した。
そして戦車の隠れながら、布陣を整え直す。
それに応じるかのように
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