襲撃された理由
アスラント同盟国の兵士達に伝えられた侵攻作戦の説明は、一通り終了する。
それを聞いていたエリク達もまた、行われる侵攻作戦の最大の目的を理解した。
参加する兵士達の覚悟を再確認したシルエスカは、頷きながら次の作戦に説明を移そうとクロエに視線を移す。
「――……それでは、次の説明を行う。先程言った通り、我々は三番艦の
「ハッ!!」
「それに合わせ、本日中に一番艦と二番艦の
「!」
「一番艦はアズマ国に赴き、二番艦は連絡が取れている存命国に、各残存兵力を乗船させ今作戦に参加してもらう。これは我が国だけの戦いではない。人間大陸に残る人類全てが、魔導国の侵略を終わらせる為の戦いに身を投じる」
「……!!」
「我々が乗船する三番艦で出航するのは、一週間後の夜。それまでに各自、準備を怠らぬようにしてほしい」
「了解!」
そうして説明するシルエスカは、作戦の開始時刻を伝える。
今回の侵攻作戦は同盟国軍だけではなく、各国の残存勢力も合流する。
先に完成していた
その説明を終えようとした時、座って聞いていたマギルスが先程の兵士の真似をするように手を挙げて聞く。
「はいはーい!」
「マギルスか、どうした?」
「フォウル国の魔人達は、参加しないのー?」
「そちらもアズマ国を経由し応援は頼んだが、連日に続く魔導国の侵攻が継続しているらしい。フォウル国は余裕があれば戦力となる人材を乗船してもらい、余裕が無ければそのまま現状を維持するよう頼んでいる」
「えー、来れないかもしれないの?」
「フォウル国が陥落してしまえば、魔導国に唯一対抗できる最大戦力を失う。地上に魔導国を落とす事に成功さえすれば、仮に我々に何があってもフォウル国だけで対処できるだろう」
「ふーん、そっかぁ」
「……他に、質問がある者はいるか?」
シルエスカは会議室にいる全員に視線を向けて、他の質疑が無いかを聞く。
その言葉に反応して周囲を一目見たケイルが、同じように手を上げた。
「ケイルか、何を聞きたい?」
「その魔導国の都市が空高くにあるのが本当だとして、作った飛空艇でそこに乗り込むのは分かった。……だか、その都市が浮かんでる場所は把握してるのか?」
「!」
「アタシは空を飛んだ事が無いから知らんが、空はこの大陸や海よりずっと広いのは間違いないだろ? ……仮の話だが、魔導国はあんな魔導人形さえ動かす魔導技術がある。都市を浮かせられるくらいの技術を持ってるなら、浮かんだ都市を動かす技術を持ってても不思議じゃない。違うか?」
「――……流石はケイルさん。その通りだ」
ケイルの疑問に沈黙を宿した場に、クロエが微笑みながら口を開く。
それに怪訝な目を露わにしたケイルは、答えたクロエの方を見て聞いた。
「やっぱ移動してるのか?」
「浮遊した都市は元々存在した大陸の上空には、既に居ないだろうという話は既にあるんだ」
「じゃあ、何処にその都市があるのかは
「各大陸に出現している敵飛空艇の出現頻度からある程度の位置を算出は出来ているんだけど、どれも予測の域を超えていない。確実にここにいるって場所は、明確にはなってないよ」
「それじゃあ、侵攻しようも無いだろ。何処にあるか分からない空中の都市なんて、探すだけでも年単位は掛かりそうじゃねぇか?」
「その通り。でもさっき言った通り、所在の予測場所はある程度まで絞れてるんだ。……そしてその予測が確実性の高いモノだという証言を得る為に、ここに集まってもらった人達がいる」
「?」
「それが貴方達だよ。エリクさん、ケイルさん、そしてマギルス」
「!?」
クロエにそう言われた三人は、意味が分からず不可解な表情を見せる。
周囲に居る者達もそれを聞き、エリク達とクロエに交互に視線を移した。
「それは、どういう事だよ? アタシ等は、その都市が何処にあるかなんて知らねぇぞ」
「魔導国は上空から各大陸を監視し、人間が居る場所を襲っているというのは、聞いているよね?」
「ああ」
「では質問だ。……君達が砂漠で目覚めた時、何か偽装魔法を施して姿を隠したりしていたかい?」
「!」
「貴方達は姿を晒したままあの大陸を移動し、マギルスの馬車に乗ってあの港町に到着したと聞いている。……それはつまり、貴方達の姿は魔導国に捕捉されていた可能性が高いということだ」
「……!!」
「そして港町から戦艦に乗り、貴方達はこの大陸の港都市に向かった。そして到着予定の港都市は、到着時刻と重なるように魔導国の襲撃を受けた」
「……まさか……?」
「あの港都市は、上空と周辺からは廃墟にしか見えないよう偽装が施されていた。なのに、あの襲撃に新型を携えた戦力を魔導国が送り込むということは。確実に殲滅できる対象がいる事を向こうは把握していた……あるいは予測していたという事になる」
「……予測できたのは、アタシ等があの港に行って戦艦に乗って出発したのを、見られていたからだと言うつもりか?」
「そう予想しているという話だよ」
クロエが微笑み伝える表情に、ケイルは強張った表情で睨む。
あの港都市が襲撃された現場に居合わせたヒューイを始めとした幹部兵達が、その話に驚きながらエリク達の方を見た。
仮にクロエが話す事が本当なら、あの港都市が襲撃されたのはエリク達の存在が起因していると言ってもいい。
それさえ無ければ、港都市は今も密かに稼働して漁港として大陸の人々に重要な食料源となっていた。
そう考える兵士がいれば、
それがケイルには分かるからこそ、クロエの言葉に反論しようとした。
「そうだ。それはあくまで、お前の予想――……」
「――……確かに、見られていたかもしれない」
「!?」
ケイルの反論を遮ったのは、それを認めるように言うエリクの言葉。
エリクは真っ直ぐにクロエを見ながら、互いに視線を合わせて証言を述べた。
「あの砂漠に戻ってから、俺達を上から見ているような感覚があった」
「エリク!?」
「あの時は、人間や魔物に見られている
「……!!」
「俺達は
「……ハァァ……。この馬鹿……」
「――……アレは、お前達のせいで……!?」
エリクが素直に見られていた感覚に気付いていた事を話してしまい、ケイルは大きく溜息を吐き出しながら顔を手で覆い振る。
それを聞いた幾人かの幹部兵達が立ち上がり、エリクに向けて憤りに近い感情を向けようとした。
しかしそれを遮るように、後ろで座っていた議長ダニアスが声を発する。
「全員、静粛に」
「!」
「……クロエ。君に聞きたい事がある」
「何かな?」
「彼等が姿を見せたという報告が届いた時、君は彼等が戻って来たと言い、私とシルエスカに彼等をここまで招くよう進言した」
「そうだね」
「……つまり君は、あの港都市が襲われる可能性も考えていた。そういう事か?」
「そうだね。むしろ、砂漠の大陸にある軍港も襲撃されておかしくないと思っていたよ」
「!!」
ダニアスの質問に、あっさりとクロエは頷いて答える。
その場の全員がクロエが港町襲撃を予期していた事を知り、驚愕した目を向けた。
「……ならば何故、君はそれも言わなかった? そうすれば、この基地からの増援も間に合ったかもしれない」
「例え間に合ったとしても、この国に残る貴重な戦力がいなくなるだけだっただろうね」
「……!!」
「魔導国はかつて、彼等三人に手痛いしっぺ返しを食らった。それを思えば、彼等を確実に排除するか、それを囮にして接触した敵勢力を纏めて葬ろうとする事は、今までのやり口で分かるよ」
「……ッ」
「仮にこの基地から迎撃できるだけの大規模な戦力を増援に向かわせたとしたら、敵は確実にその動きに気付く。大規模の移動だと、偽装魔法の効力では隠しきれないモノもあるからね。それに合わせて敵も数を増やせば、良くて相打ち、悪ければこちらが全滅していたかもしれない」
「……」
「その可能性が多くあるのなら。私は港都市に増援を向かわせない方が良いと考えていたから、黙っていたよ」
「ッ!!」
その話を聞いていた一同の中で、幾人かの幹部兵がクロエを睨む。
それは襲撃された港都市に居た者達であり、エリク達に向けていた憤怒の思いをクロエに向かわせた。
そうした者達の視線を受けながらも、クロエは微笑みを絶やさずにエリク達に視線を向ける。
「エリクさん。貴方達はあの砂漠に戻って来た時点で見られている感覚があった。そうだね?」
「ああ」
「その証言で、私の予測は確定に変わったよ」
「……?」
「魔導国が現在、都市を浮かばせている場所。それこそが、エリクさん達がこの時代に出現した真上。――……つまり、ここさ」
「!!」
クロエは壁門の映像を変え、人間大陸の世界地図を映し出す。
そしてある場所へ指を向け、全員に分かるように場所を示した。
そこは、『
かつて百年にも及ぶ各国の戦いが繰り広げられた跡が、砂漠となった大地。
あの砂漠の大陸の遥か上空に、魔導国の都市が浮遊しているとクロエは予測した。
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