遺跡の役割
この別世界の砂漠が『
そして廃村で発見した旅人の遺体が一年前に死んでいた【結社】の魔法師だと分かり、残された荷物と手帳から持ち主がこの別世界に迷い込んだ理由を調査した。
それに同行するエリクは、二人で遺体があった家とその周辺を確認し始めた。
「――……エリクの方は、何か見つかった?」
「いや……」
「やけに状態が良い物とか、家具の古さに見合わない道具とか」
「無いな。やはり死体が持っていた荷物以外、無いんじゃないか?」
「いいえ。荷物の中に、あるはずの物が足りないの」
「足りない物?」
「逆に質問するけど、魔法師が必ず持っている物は何だと思う?」
「……魔法を使う杖か?」
「正解。もしくは、それに類する物ね。今の私が使ってる手袋と同じ、魔法を行使する為に必要な魔石付きの道具よ」
アリアが探している物を理解したエリクは、更に家の中と周辺を探索する。
しかし魔石の付いた道具は何処にも無く、アリアとエリクは遺体を埋め直して拠点としていた建物に戻った。
そして虚ろだった様子からアリアは一変し、死んだ魔法師の手帳に描かれた暗号文を解析し始める。
アリアが精力的に動き始める様子を確認したエリクは、心に安堵を宿しながら次の指示を待った。
更に三時間後、自身が持つ紙に手帳に書かれた暗号を解析したモノを、アリアは写し終えた。
それをアリアは読み聞かせるように、エリクと話し始める。
「――……暗号の解析が出来たわ。随分と複雑な書き方をしてあったわね」
「そうか。何が、書いてあったんだ?」
「この手帳の持ち主が、どういう研究を行っていたか。主にそれが主軸だったわ。どうやら、遺跡探索者としては
「専門家か」
「そして、この手帳とミイラ化していた遺体の持ち主が同じだとすれば、彼はフラムブルグ宗教国で魔法を専門とした僧侶だったみたい」
「フラムブルグの……?」
「エリクとケイルが読めないと言っていた部分。あれはフラムブルグ宗教国で使われてる古代文字で、他の国では普及されたモノじゃないの。それを使うとしたら、フラムブルグに所属する魔法専門の神官か僧侶しかあり得ない」
「そうなのか。……それで、どうしてその僧侶がこの砂漠に?」
「フラムブルグ宗教国の大司祭から密命を与えられて、この大陸と砂漠に入ったそうよ。三十年前に終わったはずの戦争区域で、ホルツヴァーグ魔導国が何かしらの動きをしていた事を観測したみたい」
「それを調べる為に、一人で?」
「それだけの実力者でもあったんでしょう。……そして彼は、ホルツヴァーグ魔導国が砂漠で魔法実験を行っているのだと当たりを付けて、砂漠地帯の中心を目指した」
「例の遺跡だな」
「ええ。ただ、問題はそれからだった」
「問題?」
「彼は遺跡の発見に成功し、入り口を見つけ出した。そして遺跡の内部を探索したけど、そこはホルツヴァーグ魔導国が実験を行っているような施設も、そして遺跡として機能する魔道具も存在していなかった」
「……?」
「遺跡が遺跡と呼ばれる所以は、太古に使用されていた魔法文字が構築式として機能し、遺跡そのものが魔道具のような装置的役割を果たしているの。……エリクは、私達が滞在した樹海の遺跡を覚えてる?」
「ああ」
「樹海にあった遺跡も、崩れてはいたけれど遺跡そのものの機能は失われていなかった。あの遺跡は魔力を利用して土地を豊かにし、こんな砂漠にしないようにする装置としての役割を担っていたのよ」
「!」
「樹海の森林が巨大に育っていた理由は、その遺跡が少し働きが強まる誤作動を起こしていたから。それはこっそり、修正しておいたけど」
「そんな事をしていたのか?」
「ええ。……話を戻すけど、この砂漠の遺跡にそうした機能的役割が無い事を、専門家だった僧侶の彼もすぐに理解した。そして砂漠から去ろうとしたら、彼も私達と同じようにこの『
「……」
「ただ私と違って、彼はその現象がどういうモノかを理解していなかった。でもこの現象そのものが、ホルツヴァーグ魔導国が行っている魔法実験なのではと考え至ったようね」
「……この世界が、魔法の実験で作られた世界?」
「あり得ない話じゃないわ。魔力とは、それだけ万能な物質なのよ。こんな世界を作り出す事も、確かに可能と考えても不思議じゃない。……私の見解とは異なるけどね」
「?」
「僧侶の彼は、この現象がどういう物かを記録し続けた。……砂漠地帯を抜けたと思ったら、いつの間にか入り口に逆戻りされる。その都度、彼の周囲で砂嵐が起きていたそうよ」
「砂嵐……」
「どうやらこの砂漠に発生している砂嵐自体が、この世界に閉じ込める為の入り口であり機能を役割としているみたいね。……私達も、自然の砂嵐とその砂嵐に見分けが付けられず、この別世界に巻き込まれてしまった」
「……!!」
「彼の場合、私みたいに『
「……」
そして手帳を解析し記された事を話すアリアは、最後に記されていた事を述べた。
「彼は最後に、こう推測している。この世界は現世に近しい環境であり、現世とは異なる法則によって生み出されている。恐らく魔力が無い理由も、その法則性に関わるものだろうと。……魔法師として、彼を尊敬するわ。最後まで考える事を止めず、この世界の中で正気を失わずに生き延びようとし続けたんだから」
「……」
「そんな彼のおかげで、この世界がどういうモノなのか、私にも理解できたわ」
「!」
アリアが手帳から目を逸らし、その視線をエリクに向ける。
それから告げる言葉は、エリクを驚かせながらも微笑ませた。
「……いつもの君らしくなってきたな」
「そう? ……でも、理解は出来ても手が足りない。それは変わらない事実よ」
「どういう意味だ?」
「私も、そして死んだ
「……何も、出来る事は無いのか?」
「……」
「昨日言っていた方法は、どうなんだ?」
「駄目よ。その方法だけは、絶対にしない」
「俺が、死ぬからか?」
「……ええ。貴方を犠牲にしてこの世界から抜け出すくらいなら、他の方法を探し続ける。死ぬまでね」
「……」
断言するアリアに、エリクは渋い表情を見せる。
そして溜息を吐き出しながら、アリアは水筒に入れていた水を飲んだ。
「……この世界が、『
「……問題は、この世界からの脱出か?」
「ええ。……気になるのは、やはり
「ただ失くしただけではないのか?」
「魔法師にとって、魔法を使う為の触媒は必須よ。よほどの事がない限りは、うっかり失くしたりしないわよ。……彼の手元にそれが無いとしたら、必ず何かに使ったはず。それが分かれば……」
「どうする? それを、また探すか?」
「……そうね。探しながら、遺跡に行ったケイル達を待ちましょう。もしかしたら、遺跡にそれらしい物があるかもしれないし」
自身の考察を話し終えたアリアは、再び外に出て廃村の探索を行う。
それにエリクは同行し、僧侶が持っていた魔法の触媒を探した。
しかしその日、二人はそれを発見できなかった。
そしてケイル達も戻らない事で、向こうが遺跡を発見したのだと判断する。
こうしてその日は終わり、二人はケイル達が戻るまで廃村の中を探索し回った。
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