新たな仲間


 ガルミッシュ帝国やベルグリンド王国がある大陸と違い、南方大陸は全体的に湿度が低く気温が高い。

 更に南に行けば砂漠地帯もある中、海に面する地域を移動しているアリアとエリク達は、湿度の低さと気温の高さから多少は免れている。

 海や湖が多くある地域に生える海の風を防ぐ為に伸びた高い樹林地帯を、アリアとエリクを乗せた商団は通過していた。


 高く太く伸びる木々を眺めつつ、その森の中で道となっている通路を通る最中、眠るように座っていたエリクが突如として目を開けて呟いた。


「――……誰か、見ているな」


「え?」


 それをアリアはエリクに目を向け、同乗していたケイルが馬車の引き手に話し掛けた。

 ケイルは荷馬車から軽やかな身のこなしで降りると、中央の馬車まで走りながら移動した。

 そして馬車に乗るリックハルトに話を通すと、命じられた商団全体が動きを止めた。


 そして降りてきた傭兵達とリックハルトが、降りたエリクが居る場所に集まった。


「エリク殿、誰かからの視線があると、ケイル殿に仰ったそうですが」


「ああ、この先で今も見られている。数は一人だが、この森の規模で監視者が一人だけというのは、おかしい」


「なるほど。皆さん、少しお待ちください」


 エリクの進言を聞いたリックハルトは馬車から何かを取り出すと、商団の先頭に部下の一人を走らせ、取り出した道具を使用した。

 その道具を見つつ、エリクはアリアに聞いた。


「あれは?」


「魔道具の一種ね。多分、発光を順序よく点けたり消したりして、相手に暗号を伝える方法で利用してるんだと思う」


「……そ、そうか」


「はいはい、後で教えるから。……あら、反応あったわね」


「ん?」


 向かう先から違う発光が見えた事で、全員がこの先に誰かが居る事を確信した。

 そして全員にその相手を教えるように、リックハルトから話があった。


「この先に、ドルフさんが用意した傭兵達が待っているようですね。皆さん、再び乗車して下さい。合流して、共にマシラまで目指しましょう」


「大丈夫なのか?」


「ええ。私も聞いていますが、彼等はマシラの傭兵ギルドの中でも信用の置ける者達であり、ある程度の信頼をマシラの中で得ている者達です。そんな彼等と共に行けば、怪しまれる事は少なく首都マシラへ入る事が叶うでしょう」


 そうリックハルトが推し進め、再び商団は移動した。

 そして十数分後に商団は、道の途中で止まっていた馬と人々に合流した。

 そこに居たのは十数名の傭兵の身形をした男女であり、先頭に歩み寄ってきた男が話し掛けた。


「俺達はマシラの傭兵ギルドから雇われた、【赤い稲妻サンダーレッド】の傭兵団長、【一等級】のジョニーだ。お前さん達が、北の港から来た依頼の商団で間違いはないか?」


「ええ、私はリックハルト。彼等は護衛の傭兵達と、私の部下です。そして……」


「そっちの二人が、例の二人組か。よろしくな」


「しかし【赤い稲妻】ですか。ドルフ氏も、また有名な団を用意してくれましたな」


「今回の依頼は内容も単純で報酬が良かったからな。まぁ、新しく来た傭兵諸君を出迎えぐらいは、マシラでトップの俺達がやるのも良いだろ」


 合流した【赤い稲妻】の傭兵団を加え入れ、リックハルトが率いた商団は【赤い稲妻】に先導され、案内されるように首都マシラへと向かった。


 半日を過ぎて夕刻に迫る時刻に樹林地帯を抜け、予定通り夕刻には首都マシラに商団は辿り着いた。

 そして予め話を通していたかのように、リックハルトの商団は淀み無く【赤い稲妻】と共に巨大な門を通過し、首都マシラへと馬車の輪を踏み入れた。

 そして馬車の中から街並みを眺めるアリアが言葉を零した。


「……ここが南国の首都、マシラ共和国なのね」


「共和国?」


「分かり易く言うと、マシラは複数の国が集まって出来た一つなの。だから共和国なのよ。国同士の戦争だって、滅多に無いらしいわ」


「そうか。それは、凄いな」


「凄いでしょ。帝国と王国とは全然違うわよね」


 そんな話をしている二人を見ていたケイルが、そのアリアの言葉に反応して話し始めた。


「平和過ぎるのも、考えものだけどね」


「え?」


「戦争が無ければ雇われてる兵士は腐るし、武器なんかの需要も高まらない。そのくせ、裏で動く連中は多いのなんの。辛うじて魔物や魔獣がいるから、軍の保有や傭兵家業の助けはいるけど、もしそれさえ絶えたら、この国は手の先から腐って、いつか自分の指さえ食う始末になるだろうさ」


「ケイルさん、この国に詳しいんですね」


「ああ。アタシ、この国には随分前に住んでたからね」


「えっ、それ初耳だわ」


「お前に話してないんだから、当たり前だろ」


「エリクは知ってた?」


 そう聞いたアリアに応えるべく、エリクは思い出す為に頭を働かせた。

 その結果は、期待通りにはいかなかった。 


「知らなかった」


「いや、三年前に自己紹介した時に言ったろ」


「そうだったか?」


「名前といい、本当に覚えてない男だね。……今度は、覚えておけよ」


「ああ、分かった」


 そうした二人のやり取りを見ていたアリアが、ケイルに視線を向けて改めて尋ねた。


「ケイルさん」


「ん?」


「マシラには到着しました。なのでこの間の返事を、聞かせてくれませんか?」


「!」


 勧誘の返答を求めるアリアは、エリクにも聞かせるように話を進めた。


「貴方はエリクの喋る事を素早く理解出来て、周囲に対応してくれる優秀な方です。何より、エリクからも信頼されている。そうよね、エリク?」


「ああ。ケイルは頼りになる」


「エリクや私の信用に足る貴方が傍に居てくれれば、私達の助けになるでしょう。勿論、私やエリクが貴方の力にもなります。だから、私達の仲間になってくれませんか?」


 そう伝えたアリアの真正面からの勧誘に、ケイルは表情を強張らせつつも息を吐き出し、呼吸を整えて目を閉じた。

 そして十数秒後に目を開けて、口を開いた。


「……幾つか条件がある」


「聞きます」


「まず、仕事の分け前は順当に等分で寄越す事だ。魔物や魔獣の討伐依頼だったら、貢献度に関わらず素材の売り上げ金も人数での等分だ。報酬金額や素材金額の受け取りにはアタシも立ち合わせてもらうよ」


「はい。そうするつもりです」


「あと、アタシは馴れ馴れしいのが好きじゃない。依頼の仕事以外の時には、自由にさせてもらうよ」


「ええ。それで構いません」


「……あと、たまにエリクを貸せ」


「私が同伴で宜しければ」


「……」


 最後の部分だけは憮然とした表情を浮かべたケイルは、溜息を吐き出して頭を掻きながら答えた。


「……分かった。仲間になってやるよ」


「そう、良かったわ。これでケイルは、私達と同じチームよ」


 そうして了承を得た事を教えたアリアは、エリクに言葉を促すように目配せをした。

 エリクはそれに気付き、ケイルに向けて言葉を告げた。


「助かる、ケイル」


「別に。これはアタシの打算でもあるんだ」


「そうか。それでも助かる」


「……マシラに着いたら、色々やる事は多いんだ。準備しときなよ、アリア、エリク」


「ああ」


「ええ」


 そうして互いに名前を呼び合い、アリアとエリクに新たな仲間が加わった。

 深い赤髪のケイル。

 彼女が加わる事で、アリアとエリクは多大な助けを得る事となった。

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