魔法適性
魔法の使用で精神力と体力が共に落ち、模擬戦を行っていたアリアはエリクに中断を宣言した。
「ハァ……ハァ……ッ。エリク、模擬戦はここまでにしましょう」
「ああ、分かった」
「すぅ、はぁ……。……次は、エリクの魔術……もとい、魔法の訓練よ」
そう伝えたアリアは小さな魔石を幾つか持ち、エリクに手招きをして傍に座らせた。
座ったエリクの周囲を囲むように魔石を置き、別々の色合いを見せる魔石を見ながらエリクが聞いた。
「どうするんだ?」
「うん。この魔石は各種の属性魔石で、私が溜め込んでた魔力そのもの。基本的に使い捨てだけどね」
「これを、使うのか?」
「うん。でも少し待ってね。まだ準備があるから」
そう伝えたアリアは予め見つけておいた木の棒を持ち、エリクを中心に魔石を線で繋ぐように円を描いた。
そして描き終えた円の中と周囲に、更に文字を刻み始める。
「ここを、こうして。これをこう繋げて……」
「何をしているんだ。これは?」
「これは魔法陣と言ってね。地面に円を描いて魔力を大地から引き上げつつ循環させるの。そこに特定の魔法文字を描く事で、魔法の特性検査が出来る魔法装置と同じ効能を持つのよ」
「まさか昨日、君が言っていた装置という物か?」
「そう。昨日の夜に寝ながら思い出してたんだけど、魔法学園の研究に装置を使わずに魔法の適性検査を行う方法があったのよ。ただそれは不完全な理論だったけど。それを私が自己流に改造して、魔法の適性検査をエリクにしてみようと思って」
「……つまり、今から初めてそれをやるのか?」
「そうよ?」
「……大丈夫なのか?」
「私を信じなさいって」
「そ、そうか」
笑いながら信じるように伝えるアリアに、エリクは内心で心配した。
そして円と魔法文字を書き込み終えたアリアは、木の棒を離しつつ膝を地面に置いて両手も着けた。
「じゃあ、魔法陣を発動させるわ。エリク、貴方は目を閉じて、意識を集中させてね」
「……何に集中するんだ?」
「自分の中にある魂。つまり心ね」
「心?」
「私達のような魔法師は、魂を経由して体外の魔力を集めて、肉体を介して言葉に乗せて魔法を発動させるの。つまり、魂の存在そのものを私達自身が認識しなきゃいけない」
「……そんな事が、俺に出来るのか?」
「そうね。まずは、自分の心臓に意識を向けてみて」
「俺の、心臓にか」
「心臓に意識をしたら、自分の心臓が動いているイメージをするの。それに数分間没頭してれば、自分の魂に意識を集中できるようになるわ」
「……分かった。やってみよう」
エリクはアリアに導かれるままに目を閉じ、自分の心臓に意識を向けた。
その様子をアリアは観察しながら、呼吸が整ったエリクに合わせて、魔法陣に手を触れて発動させる。
アリアの周囲が色彩様々な魔力を巡り、描いた円と魔石から魔力の発光が行われた。
目を閉じているエリクはそれに気付かず、アリアはエリクに語りかけた。
「エリク、そのまま自分の心の中を見て」
「心の、中を見る?」
「今までの人生の記憶。貴方が生きて来た中で見てきた情景を思い出すの。その中で最も色濃い記憶が、貴方の魂に干渉できる記憶だということ」
「……難しいな」
「とにかくやってみて」
そうアリアに言われたエリクは、目を瞑ったまま自分の記憶を思い返した。
今までのエリクの人生。
捨てられた貧民街で生きて来た。
そして魔物や魔獣を殺し、人間を殺す生業となった。
そんな中でも仲間と出会った。
今までの記憶を思い返すエリクは、ある記憶を思い出した。
それは、アリアと初めて出会った時。
光の矢を放って自分を攻撃した人物の黒い外套が脱げ、そこで見えた美しい金色の髪と、美しい青い瞳。
そして今までエリクが見てきた中で、最も美しいと感じた少女。
そして自分に微笑んだアリアという少女の姿。
それがエリクの記憶の中で、それが最も強い情景だった。
「!」
エリクがそれを思い出した時、八つの属性魔石が互いに共鳴し合い、茶色と黒色と赤色の魔石が砕けた。
アリアはそれを見た瞬間に魔法陣から手を離すと、魔法陣と魔石の光が収まり、その場に静寂が訪れた。
その途端に息が乱れるアリアは、エリクに話し掛けた。
「ハァ、ハァ……。エリク、目を開けていいわ」
「……もう、いいのか?」
「ええ。魔法の適性検査は無事に終わったわ。結構しんどいわね」
「大丈夫か?」
「普通は適性検査装置が各種属性に魔力を流す役割と、各個人に対する反応を演算処理してくれるんだけど。それを全部、私で引き受けたから。結構しんどいわね、もうやりたくない……」
「……すまない」
「エリクがそんなことを言わなくていいの。……それより、エリクの魔法適性、分かったわよ」
「!」
立ち上がるアリアを見たエリクも魔法陣から出て、アリアの話を聞いた。
「ほら。赤い魔石と、黒い魔石。茶色の魔石が砕けてるでしょ?」
「ああ」
「砕けた魔石の属性が、貴方が持つ潜在的な魔法の特性を表してるの」
「じゃあ、これは……」
「赤は『火』。黒は『闇』。茶は『土』。凄いわねエリク。貴方、
「トリプル?」
「大抵の魔法師は
「それは、良い事なのか?」
「ええ。光や雷、
「……そ、そうか」
「あ、分かってないわね。とにかく貴方には、三つの属性魔法を扱える才能があるの。そして訓練すれば、魔法を使えるってこと。分かった?」
「ああ、分かった」
「……あるいは、貴方の中に存在する魔力が、その三つの属性に最も適しているのかもしれないけどね」
「俺の中にある、魔力か」
「魔族の血が混じっている貴方の体内には、血液と同じように魔力が巡ってるはずなの。それが私の回復魔法を阻害したんだけど、表面的な傷や内出血程度なら私の魔法で癒せた。これがどういう意味か分かる?」
「どういう、意味になるんだ?」
「普段の貴方は、魔力を何らかの理由で体内に閉じ込めてるってこと。だから表面上の皮膚や血管に干渉は出来るけど、内臓まで回復魔法が行き渡らなかった」
「……難しいな」
「そしてもう一つ。貴方が瀕死になると、無意識に閉じていた魔力が体内に充満して、貴方の肉体を癒す。でもそのせいで、体力や精神力を大きく消耗して意識が完全に途絶えてしまう。貴方が三日以上も寝たままだったのは、そのせいよ」
「……つまり。俺は君の魔法と同じ事を、自分の身体にもしていたのか?」
「ええ。これがどういう事かは私も知らないけど、魔族本来の生存本能がエリクの身体に作用して、そうしたのかもね」
そうして二人が互いの事を話し合う中で、森の周囲を見て回っていたケイルが戻って来た。
アリアはそれに気付いて魔族の話題を止め、話し掛けて来たケイルに対して意識を向けた。
「おーい、もうすぐ夕暮れだぞ」
「あら、もうそんな時間?」
「この辺は厄介な魔物がいないとはいえ、夜は色々と物騒になるかもしれないから、さっさと戻ったほうがいいだろ。他の連中も心配するだろうからな」
「そうですね。じゃあ、今日はここまで。戻りましょう、エリク」
ケイルの気遣いに素直に従ったアリアは、魔石を拾いつつ話を終わらせてケイルに付いて行きながら港までの帰路に戻った。
エリクもそれに従い、港に戻った。
こうしてエリクは、自分の魔法特性を知り得る事が出来た。
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