暇を与えず
夜が明けた樹海の中で野営し、魔物や魔獣の強襲を警戒しながらアリアとエリクは樹海の中を移動し続ける。
二人は何度か魔物や魔獣に遭遇し、その度に戦闘を切り抜けた。
エリクは大剣を駆使した中で、大剣を振るのに適しない場所では、アリアが投げ渡したショートソードを使い、肉弾戦を用いつつ剣で切り伏せていく。
「素手で魔物を殴り倒してる……。魔法も使わず、こんな事が出来るなんて……」
狼の魔物の次に現れた
そして戦闘が終わった後、猿の魔物の死骸から目を逸らしたアリアが、エリクに聞くように問い質した。
「エリク。貴方、何でそんなに強いの?」
「どういう意味だ?」
「確かに貴方は、見た目からして強そうではあるんだけど。素手で魔物の頭蓋を砕ける人間なんて、聞いたことない。魔法には身体強化というモノもあるけど、貴方がそれを行ってる様子も見えない」
「ああ。俺は魔法なんて使えない」
「そんな魔法を使えない貴方が、なんで魔力を宿して肉体を強化している魔物や魔獣を、素手で倒してる。それだけの強さを身に付けるのに、どんなことをしたの?」
「……戦い続けたから、としか言えないな」
そう回答するしかないエリクに、疑問を浮かべるアリアは頬を膨らませつつ、樹海の中を進み続けた。
樹海の中を移動し始めて、既に三日が経つ。
手持ちの保存食の在庫も底が見え隠れし始め、苦心を思うアリアの様子とは裏腹に、エリクは慣れた様子で森の中で座りながら眠る。
途中で雨が降り、その雨を身に受けながらも二人は進んだ。
傭兵として森や荒野を始めとした外での野営に慣れているエリクと、旅の初心者で外の野営に慣れないアリアは、環境と地形の変化に対応しようとする中で、共に体力的にも精神的にも消耗に違いが見え始めた。
目に見えて疲労しているアリアに、エリクは声を掛けつつ心配した。
「アリア、そろそろ休むか?」
「ハァ……ハァ……。さっき、休憩した、ばっかりじゃない。まだ、まだ……」
「顔色が悪いぞ。休むべきだ」
「まだ、大丈夫……。大丈夫、だから……」
「……分かった」
心配するエリクの声を跳ね除け、アリアは息を乱しながらも回復魔法を自分にかける。
そしてエリクの後を付いて行く。
アリアを心配するエリクだったが、一定の距離を保ちながらアリアに合わせ、待ちながら移動をし続けた。
大きな崖と滝が見える場所を見つけた時、樹木に身を預けるように膝を着いたアリアに、エリクは驚きながら近付き、アリアを抱えた。
「アリア!」
「ハァ……ハァ……」
「……これは、熱か」
息を乱して呼び掛けても反応できないアリアが、汗を掻きつつ体温を高くしている様子に、エリクが知識として辛うじて持つ病気名が浮んだ。
その日はその場所を野営場所として選び、アリアが水の魔法で入れた水筒の水をアリア自身に飲ませた。
簡易テントを広げて敷き布を置き、その上にアリアを寝かせたエリクは、まずはアリアの防具を脱がせて楽な体勢にした。
そして周囲の枝葉を集めて火打石を使い、火を起こして野営準備を整えた。
エリクは魔物の気配を警戒しつつ見張り、夜になるとアリアが意識を戻した。
「――……エ、リク……?」
「起きたか?」
「わた、し……どうして……?」
「熱を出して倒れた。今日はテントでお前を寝かせる。熱が下がるまでは、休め」
「……ダメ、よ。早く、森を抜けないと……」
「このまま移動すれば、君が死ぬ」
「……」
「数の多い魔物や魔獣が出た場合に、君を守りながら戦うのは難しい。最低でも、君が自分の身を守れるくらいになってほしい」
「……それって、護衛としての、要求?」
「ああ」
「……分かった、休む。……ごめんね、足手まといで……」
「?」
「……私、浮かれてたんだと思う。……誰にも負けたこと、一度も無くて。子供の頃から、才女だとか持て囃されて……。でも、実際に旅に出たら、凄くきつくて……。でも、この程度でヘタレたら、ダメだって……。頑張らないといけないって、そう思って……」
「……」
「……今の私、足手まといよね……。エリク一人だったら、この森なんて、すぐに抜け出すこと、できるわよね……」
「君がいなければ、俺はここまで来れていない」
「……ッ」
熱で苦しみ弱気を見せるアリアの弱音に、エリクは本音で答えた。
そのエリクの一言を聞いたアリアが、エリクの服の裾を弱々しく指で掴みながら、声を押し殺すように涙を見せていた。
その後、アリアは静かに寝つつ、テントの外でエリクは座りながら大剣を抱え、緊張と警戒を持ちながら休んだ。
次の日の早朝、夜を越えた明け方。
緊張感を高めたまま寝ていたエリクが突如として目を開け、素早く立ち上がりながら黒い大剣を引き抜いた。
「誰だ」
滝の近くで霧に覆われる視界にも関わらず、何者かの気配を認識したエリクは、最大の警戒を持って自分達を見る相手に告げた。
その霧の中から現れたのは、一人の民族装束を着た短い黒髪の褐色女性。
褐色の肌には赤い塗料で模様が描かれ、右手に槍と思しき石の刃を着けた棒を持ち、口元を布で覆い隠す褐色女性に、エリクは大剣を構えつつ警戒した。
「……」
「追っ手か」
黙ったままの褐色女性が槍をエリクに向け、アリアか自分の追っ手だと判断したエリクは、黒い大剣を握る手に力を込める。
そして互いが示し合わせたように、同時に地面を蹴り上げて襲い掛かった。
槍使いの褐色女性と、大剣使いのエリクの戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます