4陽咲のクラスメイトが家にやってきます⑥

「どうしたの?家の前で話し声が聞こえると思ったら、ああ、荒太、帰ってきていたのね。そちらが荒太とお付き合いしている彼女ね。荒太の言った通り、とても可愛らしい女の子ね」


 この状況にさらに面倒な相手がやってきた。荒太も面倒な相手がやってきたと思ったのだろうか。新たに登場した人物にさっさと退場するよう言葉をかける。


「なんで家から出てくんだよ。今から家に入ろうと思ってたんだ。さっさと家に戻れよ。くそばば」


「自分の母親になんて物言いをするのかしら。あら、そこにいるのは」


 新たに登場した彼女は荒太の母親だった。息子との会話の最中、ようやく私たちの存在に気付いたようだ。目があったので、軽く会釈するが、荒太の母親は目があった途端、顔をしかめた。




「あら、汐留さんの家の子が、私の息子に何の用事かしら?確か、息子と違って進学校に入学したと聞いたわよ。さぞかし、ご両親は喜んでいるでしょうね」


 開口一番、荒太の母親は嫌味を私たちに向けてきた。幼稚園の頃までは、荒太の母親と私たち家族は良好な関係だったと、くそ母からは聞いている。理由はわからないが、隣の家の私たちに向ける視線がそれ以降、厳しいものになったらしい。


「いえ、両親はこれくらいでは喜びませんよ。それにしても、息子さんに彼女ができたようですね。おめでとうございます。荒太君と同等レベルで、お似合いです。とても可愛らしい彼女さんで、私がもし男だったら、絶対に選ばないタイプの子ですけど」


 向こうが嫌味を言ってきたのなら、私もそれ同様の嫌味を返すまで。もともと、荒太に会った時点で、イライラはたまっている。大人でも子供でも関係ない。そもそも、隣の家との関係が崩れたのは、おそらく、十中八九あのくそ両親のせいだと私は思っている。だとしたら、そのおかしな両親の娘、というレッテルを貼られた私たちが、良い目で見てもらえるはずがない。


 私の嫌味返しを受け取った隣の家の母親は、もうこれ以上の会話はしたくないとばかりに、息子に話しかける。


「こんなところで話していたら、風邪をひいてしまうわ。あなたが今日、荒太が紹介してくれると言っていた彼女さんね。さあさあ、あの子たちのことは放っておいて、さっさと家の中に入りましょう。あなたのために、今日は張り切ってご飯を作って待っていたのよ」




「ええと……」


 ちらと荒太の彼女が麗華の方を振り向いて、その場から離れることを躊躇する。それに気づいた麗華は、にっこりと極上スマイルを顔に張り付けて彼女に優しく語りかける。


「レディ、そんな悲しそうな顔をしないでください。あなたの彼氏さんが戸惑ってしまうでしょう。今は、あなたの彼氏さんを優先すべきです。それに私は」


 麗華が私たちに目配せする。そして、彼女の淡い期待を打ち砕く発言をした。


「私は、彼女たちとお付き合いしておりますので、レディがどんなに私に焦がれ、愛してくれようとも、私の心は変わることはありません」


 そう言うと、まるで我が家のような足取りで、私たちの家に歩き去っていく。あまりの颯爽とした歩き方に、私だけでなく、妹の陽咲も、荒太たちの陣営も驚きで固まってしまった。




 お互いが固まってしまい、その場は静けさが覆っていた。


「ピンポーン」


 休日の昼間ということもあり、静けさ満ちる住宅街に響き渡る、インターホン。


「あの、汐留陽咲さんのクラスメイトの鈴木麗華と申します。本日は……」



「あなたが噂の陽咲の友達ね。悠乃さん!やっと来たわよ。陽咲のお友達!」


 その沈黙を壊したのは、静けさをもたらした張本人と、私たちのくそ親だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る