第10話 山道にて

 僕が意識を取り戻したのは、ロンベルに戻って3日経ったあとだった。イルガンドから事の顛末を知らされ、自分の無力を嘆いた。体のあちこちが痛むが、いつ天使たちがこの村を襲いに来るか分からないので、足早に街を出た。幸い、今回の依頼でまとまった金が入っていた。

 行く当てはないけれど、舗装された道に沿い、丘を巻く道を往く。

 「天使っていうのは、いったい何者なんだ?」

 「まぁ簡単に言えば、世界の秩序を何が何でも守る連中だな。とにかく世界に危機をもたらしうる   存在は片っ端から排除していくんだ。我のような悪魔は、世界を滅ぼすだけの力を持っているというだけの理由で奴らに狙われている。」

 「正義の存在…なんだね。」

 「そうだ。この上なく正しい。故に恐ろしい。奴らは己を疑うこともなく剣を向けてくる。人を殺そうが悪魔を殺そうが、奴らにとっちゃ等しく”悪”なんだ。」

 そう言われると、故郷アーデムは、悪魔が封印された地。天使の標的になってもおかしくはない、というわけだ。 だからといって無関係の人間を巻き込んでいい理由にはならない。鎮まっていた怒りが沸々と再燃する。

 「急ぐぞ。」

 「そうだな、立ち止まってる時間なんてない。」


 4つほど山を越え、夜が更けたので、山中で野営することにした。街が見当たらないのは由々しき事態だが、まだ焦るほどではない。

 「なぁレド、お前、弱いよな。」

 「なんだ藪から棒に。」

 「この間の話だ。天使に完膚なきまでに叩きのめされおって。」

 「仕方ないだろ、あんな相手初めてだったんだ。」

 「そうさな…圧倒的に経験が足らん。だから我が稽古をつけてやろう。」

 それはもっともだったが、

 「思念体でどうやって稽古つけるんだよ。」

 悪魔は少し時間を置いて言った。

 「夢だ。」

 「夢?」

 「ああ、夢ならば我も干渉できる。そこで模擬戦闘して、経験を積むのだ。ハハハ、寝ても覚めても修行だ、堪えるぞ。」

 「願ってもないさ。」

 それから毎日、歩いているときは魔法知識を詰め込まれ、夜はそれを実践に移す、という日々が続いた。休まる時間がないため、体力は絶え絶えだったが、少しずつでも強くなっているという実感が、僕を奮い立たせた。

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