第208話 ハルオーネ村

 ロイ一行は西へ向けて旅をしていた。レグゼリア王国に侵略されたハルモニアを解放するためだ。


 まずは帝国とハルモニアの国橋に向かって帝国軍と合流し、そこから他国の軍と連携を取りながら進軍。最終的にはハルモニアとその周辺の小国を解放して、ゼピュロスの塔に人が入れないようにすることが大目標となった。


 とはいえ、エデンから西の国橋まで行くのは、いかにテスティードであってもかなりの日数かかってしまう。故に道中の村に滞在する必要があった。


 そんな旅の中、ルフィーナが前方に村を発見し、身体を少し後ろに向けて後部座席にいるロイ達へそれを報告した。


「ロイ殿! 前方に村がありますので、今日はあの村に泊まりましょう」


「村?」


「はい、あの村は確か……ハルオーネという村ですね。ある一点を除いたらごく普通の村ですよ」


「ある一点って……随分意味深な言い方するな」


「まぁ、私たちにとってはそこまで気になることではないので、お気になさらず」


 そう言ってルフィーナは運転に集中するべく前を向いた。


 気になる、かなり気になる。あんな会話の切り方をされたら気になって仕方ないだろ。そう思ったけど、顔には出さずにシュテンからもらった本を読むことにした。


「ロイ、ハルオーネはね……自分達の村に冒険者ギルドを作らなかったのよ」


 透き通るようなソフィアの声が聞こえて顔を上げると、いつの間にかソフィアが対面に座っていた。


「それって……治安の面でかなり危険じゃないか?」


「そうね、だけどハルオーネは村の近くに出た魔物とかは自分達の力でなんとかしてるのよ。何故かDランク程度の魔物しか出現しないという奇跡が起きてるけどね」


「そうか、教えてくれて助かる。ルフィーナの言う通り、俺達には関係のない話だったな」


 そう言って本に集中しようとするとソフィアが対面から隣に移動し、本の上に手を置いてきた。


「もう、私と話すときはいつもそうやって事務的なんだから。たまには私とお話ししてもいいと思うの」


「俺は平等に接してるつもりなんだが……」


「そうかしら? 私にだけなんのアクションもない気がするわ」


 ソフィアの頭がロイの肩に乗った。太もも同士が密着してるし、正直かなりドキドキする。心臓の鼓動が高鳴るのを我慢して、ソフィアの肩に腕を回そうとしたその時────すぅすぅと寝息が聞こえてきた。


 隣を見ると、案の定……眠っていた。そういえば昨夜の見張りはソフィアの番だったか。眠い時のソフィアはいつもらしくないことを言ってくる。でもそれはきっと、正しく本心で思ってることだろう。夜の触れ合いもソフィアから提案してきたし、俺はいつもそう言った面で疎いよな……。


 もっと気をつけないと、そう思ってソフィアの肩を抱いて自らの方へと寄せた。長い睫毛、陶器のような白い肌、そしてサラサラの銀髪……とても綺麗な寝顔に見惚れつつも、ハルオーネまでのひと時を満喫した。



 ☆☆☆



 ハルオーネに着くと村人が槍を持って出迎えてくれた。全員屈強そうな男だし、視線からはどす黒い感情をが滲み出ている。これは明らかに好意的ではない歓迎だ。いつもなら迂回して次の村に行くのだが……食糧に不安がある今の状況でそれはしたくなかった。

 ロイは敵対の意思はないことを示すために両手を上げて代表と思われる男の元へ向かった。


「この村に何しに来た?」


「俺達は旅をしている。安全な村で休もうと思ったけど……歓迎されてない感じか?」


「そうだな、お前達が冒険者であれば村への立ち入りは許可できない。明らかに行商には見えないし、冒険者だよな?」


 質問に質問で返すと、更に質問が返ってくる。なんとも面倒な腹の探り合いだ。村に入るだけでここまで精神的に疲れるのは初めてだぞ。


「じゃあせめて、買い物だけでもさせてくれないか? 食糧が少し厳しい状況なんだ」


 ロイの妥協案を聞いた男は他の村人と視線で会話を始めた。


「……良いだろう。村へ入ることを許可する。だが! 夕刻までに退去しなければ俺達はお前たちに対して攻撃を加えることになる。忘れるなよ?」


「ああ、それでいい」


 ロイが承諾すると、村人達は解散し始める。


 安全を確保できたのでテスティードに向けて下車の合図を送ると、ユキノ達がおずおずと言った様子で歩いてきた。ユキノは俺のことが心配なのか、俺の身体をペタペタ触りながら言った。


「ロイさん、何もされませんでしたか?」


「不意打ちでも俺を倒すのは無理だろ。取り敢えず、夕刻までにここ去らないと俺達はあいつらから攻撃されるらしい。必要なものだけ買い足したらすぐに出るぞ」


 全会一致で頷き合い、時間短縮のために手分けして必要なものを買いに行くことになった。

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