第194話 話し合い

 夕食後、ロイは共用スペースにユキノ達を呼び出した。


 普段なら各部屋でのんびり過ごしている時間だが、深夜に差し掛かろうとしてる時に緊急で呼び出されるのは初めてだった。


 全員テーブルにつくと、アンジュが一番最初に口を開く。


「ロイ君、こんな時間にどうしたの?」


「いきなりで悪いな、少し思うところがあってみんなの意見を聞きたいと思ったんだ」


 ユキノが心配そうにロイを見つめる。


「ロイさん、夕食の時もずっと考え込んでましたよね。昼にトール君のお母さんと話したのが原因ですか?」


 あの時、ユキノは近くにいたので俺が母親から情報を聞き出していたのは知っている、それゆえの発言だった。ユキノの言葉を肯定するようにして頷き、みんなに向けて提案する。


「ハルモニアでのレグゼリア軍の動きが思ったより早いんだ。聞いた話によると、かなり綿密な準備をして襲撃をしていたらしく、盟主たる商会長交代の時を狙って迅速に制圧されたみたいだ」


 ソフィアが顎に手を当てて思案する。


「そうね、その後すぐにゼピュロスの塔を攻略したみたいだし。オーパーツの代用品を向こうが所有してる辺り、かなり前から準備していたはずだわ」


「ああ、そこは安心しきっていた。オーパーツが俺の手の中にあるからこれ以上の解放はないってな。これは明らかに油断であり、俺の責任だ……」


「そうかしら? 何かある度に全ての可能性を考慮していたら頭が痛くなるわ。あなたのせいでもないし、むしろあなたはもっと気を抜いて生きるべきだと思うの」


 言われてみると、スタークに入った辺りからずっと気を張り続けていたような気がする。本当なら、ソフィアの言う通りある程度は人に任せて楽をするべきなんだと思う。


「近いうちにハルモニアに行くのでしょう? これまでの旅ではあなたに色々任せてばかりだったから、せめてこれからはみんなで分担しましょう」


「……ソフィア」


 ソフィアに限らず、ユキノ達はわかっていたのかもしれない。俺がハルモニアに行きたがっていると。


 平穏は贅沢だ。だけどそれは奪われた人間だからこそわかること。レグゼリアの侵略に大義はなく、そのために平穏に暮らす人々の生活を壊してはならない。平穏は贅沢だ、なんて思わなくていいようにしないといけないんだ。


「多分、女性の身体を使った実験をまたしてるんでしょ? ううん、女性じゃなくてもそういうのはよくないって私は思う。お父様にはケジメをつけさせたいし、私はハルモニアに行くの賛成だよ」


「アンジュの言う通り、それらしき実験を行っていたとトールの母親からは聞いている。闇の子供……いや、正式には魔人と認定されたんだったか。魔人を戦線に投入されると連携の取れていない連合は壊滅するかもしれない。連合に任せっきりには出来ないんだ」


 伝承保管機関は正式に闇の子供とそこから派生する存在を【魔人】というカテゴリーに認定し、世界に公表した。レグゼリア王国への批判は更に高まり、ハルモニア襲撃の件と併せて戦争に対する大義名分を諸外国に与える結果となった。


「あたしは────」


「サリナ、お前は意地でも連れていく。俺のものだからな」


「……なんだろう。普通なら怒るところなんだけど、どこか心地いい……まさか、Ḿに目覚めてしまった!?」


 サリナのいうエムとやらの意味はわからないが、異論はないみたいなんで放っておこう。さて、最後はユキノか。


 ロイは意見を聞くべくユキノへと視線を向ける。しかし、ユキノは「ん?」と小首をかしげている。仕方がないので発言を促すことにした。


「ユキノはどう思う?」


「私? 私は賛成に決まってるじゃないですか。ずっと一緒に旅をしてきたんだし、今更ですよ!」


 思えばユキノは常に俺の傍にいてくれた。見てくれと胸の大きさは一流なのに、たまにこけたり甘えたりして、見た目とのギャップが良いと感じる。辛いときは優しく抱きしめてくれるし、愚痴を静かに聞いてくれる……一緒にいるのが当たり前なのに今更聞くまでもないことだった。


 話し合った結果、全会一致となりハルモニアへ向かうことが決まった。連れて行くのはユキノ達と御者のルフィーナで、マナブは引き続きエデンの防衛とギルドの運営を担うことになった。



Tips


魔人・種族

伝承保管機関により新たな種族と認定された。サキュバスの揺り籠や魔族の種子を用いて作られた存在を指す。今後似た手法で作られた存在は全てこのカテゴリーに分類され、伝承保管機関によって情報を保管されることになる。


人間の成長力と増殖、そして魔族のポテンシャルを兼ね備えており、急造でも冒険者ランクBに相当する戦闘力を誇っている。


人間、エルフ、ドワーフ、魔族、それらを含めたヒトの脅威となる存在として認知されていくことになる。

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