第146話 聖王国グランツに向けて

 ロイ一行いっこうは、帝都インペリウムの入口でテスティードに荷物を積み込んでいた。


 ルフィーナはテスティードが珍しいのか、車体の周りをグルグルと回っている。


「ロイ殿~、これが本当に動くのですか!?」


「ああ、火と風の魔石を燃料にして走るから馬要らずだ。速度も直線なら馬より速い。しかも今回の旅に合わせてうちのマナブが改良を加えていてな、【サスペンション】ってやつを搭載したらしいんだ。原理はわからないが、これで凸凹でこぼこ道で舌を噛むことは無くなるだろう」


 ロイの説明の半分ほどしかルフィーナは理解できなかったが、未知の技術に興味津々だった。


「ほえ~、そうなんですね~」


「てか、何でアンタまで俺達に同行するんだよ。テスティードをもう1台用意しなくちゃいけなくなっただろうが……」


 ルフィーナは肩を落とした後、苦笑いと共に頭を下げた。


「あ、はははは……。ごめんなさい、フレミー様が付いていきなさいと命令を下したので、第一部隊隊長として、拒否する訳にはいかないのです」


 ロイは溜め息を吐いてテスティードに乗り込み、そしてルフィーナに対して部下の面倒を頼んだ。


「私がリーベスタ達に指示を出すのですか!?」


「たかが5人だ。コイツらは本来ならエデンでのんびり出来たのに、アンタがついてくるというから、サポート役として呼び寄せたんだ。というか、アンタはテスティードを操縦できんだろ?」


 確かに、と頷いて予備のテスティードを見ると、リーベスタの5人が頭を下げていた。


「一応、アンタのことも考慮して、全員女性だ。こっちと違って仕切りをして着替える必要ないだけマシだろ」


 頬を掻きながら素っ気なく言うロイに対し、ルフィーナは目をキラキラさせていた。


「騎士団では種族や男女関係なく扱われます。とても嬉しい限りなのですが、やはりたまには女として扱われたいとも思っているのです。……ロイ殿の言葉は素直に嬉しいと感じてます!」


「……お、おう」


 押され気味のロイ、その背後から腕がニュっと伸びてきてロイの身体を抱き締めた。


 奥から現れたのはアンジュだった。少しだけ頬を膨らませてルフィーナへ敵愾心を向けている。そのままロイを背後から抱き締めながら、肩口から顔を出して言った。


「ルフィーナさん、ロイ君は私達のだからダメだよ!」


「そ、そう言うつもりでは……」


「奥から見てたけど、完全に女の顔になってた! これ以上は流石に──キャアッ!」


 話しが面倒な方向に向かいそうだと判断したロイはアンジュの腕を剥がし、お姫様抱っこで奥に向かう。


 ロイの背中はこれ以上語ることはないと物語っており、それを理解したルフィーナは踵を返して別のテスティードの方へ歩き出した。


「ルフィーナさん、ボスから話しは聞いています。ささ、我らがテスティードへお入りください」


「え、ええ……どうも」


 ルフィーナは女のリーベスタに促されてテスティードの中に入った。馬車よりも大きく、両サイドの壁に面して座席が配置されていた。奥にある大きな椅子は前方を向いていて、それが御者専用の席であることがわかった。


 全員が乗り込むと、テスティードが振動し始めて思わず剣を抜いてしまった。リーベスタはルフィーナの手を優しく握って諭すように言った。


「安心してください、テスティードが起動しただけですから。それと、もうすぐ発車しますから、走行中はあまり立たないでくださいね。転倒しますので」


「そ、そうですね。なんか、初めて帝都に来た時の田舎者の感覚がします。帝都に比べればエルフの住むヘイムダルは田舎ですから」


「ふふ、テスティードに乗った人はみんな最初はそんな感じになりますよ。すぐに慣れます」


 リーベスタの人がそういうと、静かにテスティードが動き始めた。窓から外を眺めると、帝都インペリウムはどんどん小さくなっていった。


 ルフィーナは心の中で祈った。


 フレミー様、ロイ殿の傍で勉強して大きくなって帰ってきます。帝国騎士団第一部隊隊長として、相応しい騎士となるために──。




Tips


リーベスタ

国境線である死の谷デスバレーの中層に作られた村、エデン。そのエデンの守護を務める組織をリーベといい、リーベのメンバーをリーベスタと呼称している。


影の一族、元近衛騎士、スタークで構成されており、ロイによって派閥なく混ぜられている。


金の刺繍で剣と影が描かれた黒い外套がシンボルマーク。

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