第145話 一夜明けて
ロイ
大吹雪のうちは追撃も不可能だし、騎士団で強引に追いかけても吸魂剣テネブルで魔力を回復されて、雪原をそのまま踏破されかねない。
俺の投げナイフで背中に傷を負ってるはずだし、魔力を消耗したあの状態ならダークエルフと言えども、雪原を突っ切るのは不可能なはず。
近くの村に立ち寄り、何人か殺したあとテネブルで魔力を回復。そうすれば簡易的な治癒魔術でなんとかできる、俺ならそうする。
だが、翌日フレミーから聞かされた言葉によって、ロイの考察は破綻することになった。
「ダークエルフの死体が見つかった……だと!?」
「はい、怪我をしていると聞いていたので、大吹雪が止む少し前に猟犬を放っておいたのです。すると、1キロほど南下したところで発見されました」
「で、テネブルはどうなった?」
ロイの質問にフレミーは歯噛みして答えた。
「残念ながらテネブルのみ奪われていました。奪った相手は恐らく王国の者か、帝国から亡命する者のどちらかでしょう」
「なんでわかる?」
「ダークエルフは運び屋から雪避けの御守りを奪っていたようで、テネブルを奪って御守りを奪わないのはおかしいかと」
フレミーの言葉は正しかった。テネブルと雪避けの御守り、ただの盗賊に奪われたのならその2つは確実に奪う程に高価な物。
テネブルだけが奪われるなら、今回の騒動の裏にいる存在が直接関わってきたことの証しでもあった。
「運び屋の口は割らせたんだろ? 何て言ってた」
「何から話せばいいか、そうですね。まずは──」
フレミーは運び屋を拷問して得た情報から、当初の目的を聞き出してロイへと話した。
都市水循環型魔道具アクアヴェールから魔石を抜き出して、都市機能を麻痺させる。その後は地理に詳しい運び屋と共に御守りを使って1キロほど南下、転送魔方陣を用いて
あとは王国に大手を振って帰れば、ポーン貴族の地位と共に無事に成り上がりとなる。
「ちなみに転送魔方陣はすでに機能を停止されてました。直に魔方陣そのものも消滅するでしょう」
「だろうな、敵はすでに国境に着いてる頃だろうし、俺達にはもう手が出せないってわけか」
「アグラートの離反からダークエルフ殺害に至るまで、失敗前提で策を2重3重にも巡らせるとは……実に鮮やかな手口です。完敗と言ってもいいでしょう」
「もう、俺達にできることは無さそうだな」
ロイがそう言うと、フレミーは静かに首を振った。そして懐から地図を取り出してテーブルに広げ、王国の東にある国、聖王国グランツを指差した。
「アルスの塔を落とせなかった王国は、軍需産業で世界の覇権を握ることはできません。次に狙うはフォルトゥナ教の総本山である、聖王国グランツである可能性が高いかと。アグニの塔を解放した王国は経済的には世界有数の武器生産国となりましたが、禁忌を犯したが故に列強国からは疎まれている。理由さえ出来ればいつでも攻められる状況に、あの国王が耐えられるはずもないです」
「精神的支柱であるフォルトゥナ教の総本山、聖王国グランツを落とせば世界を牽引するほどの力は得られる。王国の内部事情を知らない列強国からすれば、急に強気になったように見えるよな」
「ええ、その実……臆病なだけで、その恐怖を取り除く為と称して大将軍・黒騎士カイロが裏で色々と進言しているのでしょう」
「カイロをどうにかしないと、安心して眠ることもできないな。……はぁ、次は聖王国か」
「ロイ殿、さすがにそこまでして頂くわけには……」
「じゃあ、聖王国に大軍送って警戒されるか?」
フレミーは他に策がないらしく、押し黙る。そして沈黙が少し流れたあと、ロイはフレミーの肩をバシバシと叩いた。
「タダでやるとか誰も言ってないからな? そうだな……マナブを正式にエデンギルドの支部長として任命されるよう計らってくれ」
「ぐぬ……ギルドに国が干渉するのは難しい、それを知ってて要求するとは、中々に重い報酬ですね。しかも、私がコネをフル活用して出来るギリギリのラインを狙ってくるとは……流石としか言いようがない」
ロイはニヤリと笑ったあと、席を立った。そして何か思い出したかのように振り返った。
「ただの一般人じゃ聖女に謁見は無理だから、新書を一筆書いて明日の朝に届けてくれ」
「ええ、そのくらいはさせてもらいますよ」
こうして、ロイは聖王国へ向けて旅をすることになった。一緒に行くのはユキノ、ソフィア、サリナ、アンジュ、そして何故かルフィーナまでついてくることになった。
Tips
聖王国グランツ
レグゼリア王国の東に位置する宗教国家。全世界において布教率7割を越えるフォルトゥナ教の総本山でもあり、頂点に君臨する聖女フィリアは精神的支柱となっている。
大国としては珍しく、常時展開型の切り札【アークバスティオン】展開しており、それが他国の侵攻を千年以上に渡って阻んでいる。
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