第139話 事の経緯

 吸魂剣テネブルを回収したロイは、リーベスタと共に帝都インペリウムに向かった。


 取り壊し予定の閑散とした宿屋に入り、各々寛いでいると、貴族然とした風貌の男が入ってきた。


 一瞬、緊張が走り、リーベスタ達は武器を構えたが、その男は特に気にした様子もなくロイに話し掛けた。


「やあ、ロイ殿。今回は急な依頼を頼んでしまってすみません」


「フレミーか、払うもの払ってくれるなら構わない」


 相手がフレミーだと知ると、周囲のリーベスタは武器を収めた。


「はは、そう言うスタンスでしたね。後でエデンの方に1000万Gを送り届けておきます」


「気軽にそんな額を報酬にしてるのに、国庫は大丈夫か?」


「ロイ殿が倒した貴族を吸収したら国庫も潤いますから、1000万Gは少ない方なんですよ」


 フレミーの言葉にロイは内心驚いていた。


 ナイト貴族でも1000万Gは安い方って、全体からすれば総額どのくらいを保有していたのだろうか?


 聞いても、恐らく答えてはくれないだろう。


 フレミーと世間話をしていると、2階からユキノ達が下りてきた。フレミーの姿を見たアンジュが指をさして大きな声で言った。


「あっ、フレミー! あなたまたロイ君に依頼をする気?」


「アンジュさん、依頼はもう終わりました。次の依頼は当面ありませんね」


「あなたの依頼は緊急性が高くてしかも危ないから、止めてほしいんだけど。その度にロイ君が危険な目に遭うのは……嫌だよ」


 アンジュの言葉を受けて、フレミーはやれやれと肩を上げ下げした。


「時に……あなた方は冒険者ランクBに昇格したと聞きました。このままAランクを目指すつもりですか?」


「いや、それはない。俺達はランクBのまま上がるつもりはない」


 その言葉にユキノが疑問を投げ掛けた。


「Aには上がらないんですか?」


「ああ、それはその支部のギルドへ従属するって意味だからな」


「従属……?」


 未だ理由のわからないユキノに対し、ロイはランクAについて解説を始めた。


「冒険者ランクA以上は色々と優遇される反面、その支部のギルドと契約しないといけない。そして、国家が危機に直面した場合、騎士団と共に事に当たらなくてはならないんだ」


「なるほど……自由に動けなくなるからこれ以上は上がるつもりはないって事なんですね」


 フレミーは頷いて言った。


「私としては、その方が予算も少なくて済みますし、願ったり叶ったりなんですがね」


 ギルドを通せば手数料は取られるものの、少ない額で戦力を動かすことが出来る。それ故の言葉だった。


「さて」とフレミーはテネブルを手に立ち上がった。


「私はそろそろ戻ります。あなた方も折角帝都に来たのですから、観光でもされてはどうですか?」


「おい、護衛も無しに大丈夫かよ。あんた、戦えないんだろ?」


「王城は目と鼻の先ですから、ご心配なく。では」


 大人しく見送ったものの、ロイは胸騒ぎが止まらなかった。


「国庫からわざわざテネブルを選んでレグゼリア王国へ亡命か」


 ロイの呟きにソフィアが尋ねる。


「アグラートというナイト貴族、怪しいわね。テネブルでなくても、王国への手土産なんて他にもありそうなのに……」


 闇市の残骸から掘り起こされたテネブルは、国庫の1番奥に格納されたと言っていた。


 ロイは脳内の情報を整理するように呟いた。


「王国がテネブルを必要としている? なら、テネブルが必要だと誰が伝えた?」


 隣に立っていたソフィアは槍を手にロイを見据えた。


「ロイ、他にも内通者がいるかもしれないわ」


「ああ、やっぱり俺、行ってくる」


 ロイが駆け出すと、ユキノ達も各々の武器を持って後を追った。


 裏通りから大通りに出てフレミーを探していると、近くで悲鳴が聞こえてきた。


 人だかりを掻き分けて声の中心に行くと、フレミーが血を流して倒れていた。


 腹には短剣が深々と刺さっており、治療を行わなければ王城に辿り着く前に命を落とすかもしれない状態だった。


 急いで駆け寄り、ユキノにリジェネレイトでの治療を頼んだ。


「【フェオ・リジェネレイト】!」


 ユキノの神聖魔術によりフレミーの身体が光りに包まれる。


 剣が無いな。犯人が近くにいるかもしれない。


 そう思ったロイは【影衣焔】を纏って住居の屋根に上った。周囲を見渡して不自然に走ってる人間がいないか探していくと、遠目にこちらを見ていた男が突如として走り出した。


 その男の手には黒い長剣が。それこそ正しくテネブルだろう。


 屋根と屋根を飛び移りながらその男を追いかけるが、すぐに見失ってしまった。ロイは屋根に拳を打ち付けて憤る。


「くそっ! 風魔術による加速か。テネブルを奪われた!」


 間違いなく悪いことに利用される。あれを使って良いことに使われる未来が見えない。


 ロイは深呼吸をして冷静さを取り戻す。


「はぁ~。全く収穫が無いわけじゃない。髪は暗い銀髪、肌は浅黒い、体格は男、それに何より……耳が尖っていたな」


 情報を整理したロイは、1度ユキノ達のところへ戻ることにした。

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