第140話 暗中模索

 ロイがユキノ達の元へ戻ると、ユキノが額に玉のような汗を浮かばせながらフレミーの治療を行っていた。


「……くっ! フレミーさん、頑張って下さい!」


 意識レベルを下げないように必死に声をかけてはいるが、ユキノの回復力では横這いが限界のようだった。


 治癒術師ヒーラーには即時回復型と継続回復型の2種類があって、前者はサポート能力は無いが回復力に富んだ能力。


 後者は回復能力こそ劣るものの、祝福盾ブレスシールドや簡単な強化魔術バフによるサポートが出来る。


 後者であるユキノは継続回復型であり、今の状況においては些か厳しいものがあった。


「フレミーさん、頑張って下さい!」


 必死に頑張るユキノを見て、ロイも何か出来ないか思考を巡らせることにした。


 フレミーはこの帝国において必要な存在だ。それに、ここでフレミーを助けることが出来なければ、ユキノは自分自身を責め続けることになるかもしれない。


 治癒術師ヒーラーである以上、乗り越えなければならない課題だが、避けられるならそれに越したことはない。


 状況を確認するに、フレミーの出血が止まってないな。回復魔術は被術者の体力に依存する、もしフレミーが身体を鍛えていたならきっと今よりも状況が好転していたはずだ。


 ならば、フレミーの身体を強化すれば良いということか。


 活路を見いだしたロイはユキノの背後に座り込んで、後ろからそっと胸に触れた。大きさ、柔らかさ、張り、全てが最高水準の乳房をタプンタプンともてあそんだ。


 流石のユキノも艶のある声を上げるわけもなく、抗議の意味も込めてロイの名を呼んだ。


「え? ちょっとロイさん!?」


「しっ! 動揺するな、フレミーを助けるにはこれしかないんだ──【月光剣アルテミス】!」


 愛のある接触、もしくは性的な触れ合いによって神剣は変化する。


「ユキノ、回復と強化を同時に使え。そうすれば、今よりも回復するはずだ」


「……わかりました。【祝福盾・月読ブレスシールド・ルナ】」


 月の紋様が施された半透明の盾が、フレミーの身体を通過する。


 すると、フェオ・リジェネレイトによる継続回復と、月の祝福盾ブレスシールドによる強化と継続回復が重なって、みるみる傷が塞がり始めた。


 10分程が経ち、肉体内部の見えない部分も修復し、フレミーは無事に峠を越えることが出来た。


 ユキノは安堵の溜め息を吐いた後、大の字に倒れ伏した。ずっと見守っていた周囲の民衆から歓声が上がった。


「ユキノ、よく頑張ったな」


「ロイさんの機転のお陰ですよぉー」


 疲れた為か、いつもより間延びした声でユキノは答えた。そんなロイ一行の元に、バタバタと騎士が足音を立てて登場した。


 金髪に透き通るような白い肌、そして特徴的な長い耳を持つエルフの女性が前に出て言った。


「私は帝国騎士団第一部隊隊長、ルフィーナ。あなた方がフレミー様を助けてくれた。間違いないですか?」


「ああ、そうだな。傷は治したんだが、まだ体力の面で不安が残る。暖かい安全な場所で寝かせてやるべきだ」


「わかりました。──フレミー様を丁重に運びなさい!」


「ハッ!」


 ルフィーナと名乗る指揮官が部下に指示を出し、フレミーは王城へと運ばれていった。


「事情を窺いたいので、あなた方も王城へ来てはもらえませんか?」


「俺達もフレミーに聞きたいことがあるしな。起きるまで城に居させてくれ」


 ルフィーナは承諾し、ロイ達は客分待遇で王城に招かれることとなった。


 ☆☆☆


 王城の客室で冷えた身体を暖炉で暖める。


 ギイッと扉が開き、先程の騎士団隊長が入ってきた。


「フレミー様が目を覚ましました。すぐにお会いしたいとの事なので、付いてきてください」


 一同は頷き、ルフィーナの後を付いていくことにした。


 移動中、玉座の間を横切った時に、ヴォルガ王の姿を見かけた。左右に並ぶ大臣達と何やら会議のようなものをしていた。


 一緒に旅をしていた時はシュテンと同じく飄々ひょうひょうとした爺さんって感じだったが、真面目に仕事をしている姿を見ると、本当に王様だったんだな~って、再認識させられた。


「ここです」


 ルフィーナに案内されて部屋に入ると、フレミーがベッドから上体を起こして手を振ってきた。


「起きて大丈夫なのか?」


「ええ、お陰様で傷は塞がってますから大丈夫です。ある意味、久々に休暇を取ることが出来ましたね」


「何言ってんだよ。あんたは少し働きすぎな気がする。もっと休んでも良いんだぜ?」


「その言葉、そっくりそのままお返しします。女性陣もそう思っているでしょう?」


 ロイの背後に立っていた女性陣は、フレミーの問いかけに強く頷いた。


「……はぁ、世間話はもういいだろ。本題に入ろうぜ」


「そうですね。まずは状況についてですが、私を襲った刺客の正体は不明、帝都インペリウムの外は未だ大吹雪なので、まだ帝都に潜んでる可能性が高いです」


「アグラートのような【雪避けの御守り】を持っていたら、すでに出てる可能性があるんじゃないか?」


「ふむ、それもそうですが……私を殺し損ねる程度の刺客に、高価な魔道具を託すでしょうか?」


 フレミーの指摘にロイは納得した。


 戦闘経験の浅いフレミー相手なら、首を掻き切れば一瞬で殺すことが出来たはずだ。追手を撒く意味でもそうするべきなのに、奪うことに集中し過ぎてそこを怠っている。


「それで、刺客の姿を見かけたんだが……肌が浅黒くて、銀髪、体格と顔の感じから男みたいなんだが、心当たりはあるか?」


「闇人形……は有り得ませんね。あれは女性でしか作れませんから」


 闇人形の生成には生命を生み出す【女】という属性が不可欠。それ故に男であることは不自然だった。


「だとすれば……魔族、なのか?」


 ロイがそう言うと、それまで黙って見守っていたルフィーナが手を上げた。


「魔族は人間を利用する事はありますが、ポテンシャルの高さから捨て石のような関係は有り得ません。この場合、ダークエルフの可能性が高いかもしれません」


「ダークエルフか……」


 エルフと同じ起源でありながら、遥か太古に袂を分かった種族。魔術に特化したエルフに対し、ダークエルフは物理に特化した戦いをするといわれている。


 フレミーは何か思い当たったのか、指をパチンと鳴らした。


「帝国民は皆色白です。耳や髪を隠すことは出来ても、口元は隠せません。必ず情報がどこかに残っているはずなんです。スラム街に子飼の情報屋がいますから、彼なら何かわかるかもしれません」


「……わかった。ソイツの居場所を教えてくれ」


 ロイはフレミーから情報屋の居場所を教えてもらい、スラム街へと向かうことになった。



Tips


ルフィーナ

種族エルフ。貧乳で細身。ジョブは魔術剣士。

職業は帝国騎士団第一部隊隊長。戦闘力は冒険者ランクA相当。

年齢、約200歳。

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