第106話 地下室
ロイは村長の息子を拷問する。
影の拘束を強くしてその身体に痛みを与えた。村長の息子は苦痛に顔を歪めてロイに屈服することとなった。
「この下の階層には何がある?」
「こ、ここと変わらない。【サキュバスの揺り籠】があるだけだ。まぁ、今から行っても完成された闇人形に殺されるだけだが──いでっ! あたたたたたっ!」
楽しそうに語り始めたので再度拘束を強化した。
「いつからこんなことをしてるんだ?」
「闇人形のことか? それならつい最近だよ。ダークマターの粉末だけじゃ定着しにくいって、キングストン様がヘルナデス様に相談したんだ。あそこの資料を見たんだろ? あれに書いてあること以上のことは知らないよ!」
コイツから得られた情報も予測の域を出ないレベル……嘘はついてないみたいだな。
「治療法は無いのか?」
「黒い筋みたいなのが侵食していただろ? あれが全身に行き渡るともう助からない。そうなったら、肉柱の中で生まれ変わり、ブラックステッキに操られることになる」
ブラックステッキ──ガナルキンと戦った時に、ガナルキンがダークスノーウルフを操っていたあれか。揺り籠の製造にダークマターを使うのは、生まれた後に操る為の手順ってわけか。
「そのブラックステッキはどこにあるんだ?」
「言えない! それだけは勘弁してく──ぐぁぁぁぁっ!」
ロイは情報を吐かせるためにかなり強めに拘束した。だが、村長の息子は中々情報を話さない。
見かねたアンジュがロイの肩に手を置いた。
「ロイ君、これ以上は死んじゃうよ?」
「……はぁ。仕方ないな。次の質問が俺の予想通りの答えなら、ブラックステッキの居場所は大体わかる。おい、お前! これで最後だ、これに答えたら痛めつけるのは止めてやる。言葉に出せないなら頷くだけでもいい」
「は、はいっ! なんでしょう……?」
村長の息子は安堵の表情を浮かべている。コイツは村長を糾弾するのに必要だからな、殺すわけにはいかないさ。
「お前……ダークマターを使われてるのか?」
ロイの質問に、村長の息子はコクリと頷いた。
「これで決まったな。情報漏洩しないように、ある程度ダークマターで制約を受けているみたいだ。コイツにそんなことができる立場の人間は、ヘルナデス以外にいないだろう」
「じゃあ、ヘルナデスお爺ちゃんを探さないとね」
「ああ、だがその前に下の階層を処理する必要がある」
血が出そうなほどの強さで握り拳を作り、ロイは下の階層へ向かった。
下の階層も同じようにサキュバスの揺り籠が展開されており、肉柱は素体となる女性を完全に取り込んでいた。
繭のように覆われた肉柱の膨らんだ部分から、ドクン、ドクンと鼓動のような音が聞こえてくる。
「ロイ君……私がやろうか?」
「いや、いい。これは俺の仕事だから」
魔族と人間のハーフではあるものの、罪無き人間を一方的に焼き殺すことにロイは罪悪感を感じていた。
「きっとコイツらにも家族がいるはずなんだ。でも……救うにはこれしか方法がない」
「……そうだね」
アンジュはロイの手を握った。なるべく心が痛まないように、優しく、暖かく、そして見守るように……。
シャドーポケットから油を取り出して、地面に注いでいく。次に炎の
「魂を穢したヘルナデスはきちんと殺してやるから──安らかに眠れ」
その言葉とともに
ロイは己の所業を焼き付けるようにしてただ眺めていた。
少しして、変化が起きた。生存本能故に、死から逃れようと暴れ始めたのだ。
繭から飛び出てきた一体がロイを襲う。一見すると黒い肌の女、だけど爪は長く背中にはコウモリのような小さな翼が生えている。
アンジュが間に入って腕を斬り落とし、そのまま胴体を蹴る。闇人形は炎に突っ込んでそのまま焼け死んだ。
「ロイ君……しっかりして! ユキノに怒られるよ?」
アンジュに抱き締められたロイはようやく我に返る。
「……すまん。もう大丈夫だ」
「もういいよ。それよりも、上に行こうよ。ヘルナデスを倒しにさ」
「ああ、そうだな」
ロイとアンジュは証拠をシャドーポケットに入れた後、隠し扉の部屋に戻った。アンジュは仕掛けを戻そうとしたロイを止める。
アンジュは隠し扉に向き直って言葉を紡ぐ──。
「岩壁よ、全ての災厄から我を守れ──ロックウォール」
アンジュがこの時代では珍しい詠唱式の魔術を放った。現れた岩壁は隠し扉を覆うようにして出口を塞いだ。
「詠唱式なんて珍しいな」
「実は魔方陣式よりこっちのが力を込められるの。これなら1階が火事になる心配もないでしょ?」
「俺は影以外一切使えないからな、羨ましいよ」
こうして、ロイとアンジュはヘルナデスの私室へと向かうことにした。
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