第78話 vs アンデッド指揮官&アンデッド取り巻きーず

 目の前にはアンデッドが3体いる。真ん中の服装がやや豪華な奴がここのトップに違いない。


「少しは私も出来るとこ見せないとね!」


 アンジュはそう言って前に出る。


「フォローくらいはしてやるよ」


「うん、頼りにしてるよ、ボ・ス!」


「…………」


「冗談だって! そんなムスっとした顔しないでよ!! ──じゃ、攻めます」


 アンジュは愛剣セレスティアルブレードを抜いて構えた。グレンツァート砦でロイ達と対峙した時とは違う武威を纏っている。


 普通の人間なら危険を感じて接近しない威圧だが、アンデッドは意に返さずヨロヨロと近付いてくる。


「……だずげで……」


 かろうじて残っていた意識でアンデッドはアンジュに救済を求める。アンデッドから見て、黄金のセレスティアルブレードは天上からの後光に見えたかもしれない。


 アンジュは死して尚生きる物体に答えた。


「──わかった」


 指揮官アンデッドは長剣を上から振り下ろす、だが当たらなかった。アンジュを象っていたシルエットが陽炎のように消える。


「──"残光剣・幻"」


 アンデッドの肩から胸にかけて光の線が現れて徐々に内側から光が溢れてきた。

 そしてアンデッドは笑みを浮かべて粒子となった。


「ロイ、コイツらは普通のアンデッドじゃないよ。弱点は心臓に埋め込まれたコレ」


 アンジュがロイへ向けて黒い玉のような物体を投げた。


「……ダークマターか。よくこれが埋め込まれてるってわかったな」


「相対した時に目が合ったからね。普通のアンデッドはどこ見てるかわかんないから……っと、それよりも残り2体よろしくー!」


 アンジュに斬りかかろうとしていたアンデッドをシャドーウィップで引き寄せて一閃──。


 残りのアンデッドをサリナとソフィアが心臓部を貫いて終幕となった。


 ──カランカラン。


 粒子となったアンデッドのあとに残るのは黒い玉ダークマター。それを傷付けたら呆気なく終わりとは、あまりにも兵器としては脆弱すぎる。


「ロイさーん! 机の上にさっきの人の日記みたいなのがありますよ?」


 アンデッドに恐怖していたユキノはすっかり元気になって周囲を漁っていた。


 ロイはユキノに手渡された日記を読んで色々と情報を得た。


「聞いてくれ──まず、このアンデッドだが指揮官とその取り巻きなのは違いない。リディア・キングストンに賛同して集まった貴族の配下で、この黒い玉を飲み込むことが指揮官クラスに求められた条件だったらしい」


「……この人達、徐々に自我が無くなってしまったんですね」


 同じく隣で日記を読んでいたユキノは悲しげな表情を浮かべた。


「"適合"しなかったコイツらは、多少魔力が向上しただけのようだな。しかも最後の日付が3日前だ、恐らくその日に1度絶命したんだろう」


「奇襲への対応が遅かったのは指揮系統が失われていたから、ですわね」


 ソフィアの指摘に各々頷く。そしてあることに気付いたユキノはソフィアに確認を取った。


「ソフィアさん、ダートさんって明らかに強くなりすぎてませんか?」


「……そうですわ。多少魔力が上がっただけとは思えない強さでしたわね」


 ソフィアとユキノはダートとの交戦経験があり、その時に見せた"黒い風"が本来のダートとかけ離れた強さを有している、と言っていた。


「と言うことは、ダートは"適合者"ってことになるな……」


 採取量も極僅かしかなく、ここ最近までは有効活用する技術も存在しなかった。過去に1度だけ魔物に適合した例があったことから、禁忌指定とされて使用を固く禁じられていた。


「ん? 待てよ、何故ウォーレンやその配下の騎士達には何も起きてないんだ?」


「ロイ、リディアが動き出したのは最近のことですわよ? 技術を得ても採掘量が今のままなら使用する相手はよく考えて使うはずですわ」


「なるほど、コイツらの主はリディアにとって、信用できる人間だったわけか」


 新技術の獲得、魔物から人間への使用、帝都への武装蜂起、リディアに協力する魔族らしき存在……。

 それらの背景には、不気味な何かがあるような気がしてならない。



 ──不意に扉が開いた。


「ロイ君、そっちは片付いたみたいだね」


 入ってきたのはエイデンだった。戦いの音が聞こえない、どうやらこの砦は無事に落ちたようだ。


「エイデン、そっちも無事みたいだな。アンタ一人に任せて少しだけ心配だったんだ」


「君は心配症だなぁ~、というかテスティードに入ったらヴォルガ王がいたから驚いたよ! 先に教えといてくれよ、心臓止まるかと思ったんだからな……」


 貴族なのに白衣を着て身振り手振りは大袈裟、他の領土を気に掛けて品種改良した種を開発したり、果てはトマホークを解析して穢れについて調べたり……なんつーか、色々とお人好しな人だな。


「僕の顔に何かついてるかい?」


「いや、なんでもない。それよりも、ソフィアが抱きしめたそうにしてるぞ?」


「なっ!? べ、別にそんなことないですわ!! って、抱きつかないで~」


 逃げ回るソフィア、追いかけるエイデン、知らない人から見たらきっとセクハラ親父にしか見えないだろう。


「エイデンさん、再開できて嬉しそうですね」


「ああ、本当は娘として引き取りたかったんだろ。だけどそれじゃあ色々としがらみに巻き込んでしまう……。エイデンの過去に何があったかはわからないが──きっと心の中では本当の娘のように思っていたに違いない」


「ロイさんはエイデンさんの事はよくわかるんですね~、どうせなら、私達のこともわかってくれたらいいのに……」


「パーティメンバーのことはよくわかってるに決まってるだろ。それとも、俺の知らない何かがあるってのか?」


「べっつに~、ありませんよ~だ」


 どこか棘のあるユキノに不満を覚えつつ、ロイは外へ視線を向けた。

 外は徐々に雪が吹雪始めており、これが止むまでキングストン領を進むのは難しいと判断した。

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