第74話 エイデン・イグニア奪還作戦

 ロイ達はヴォルガ王が最後にエイデンと会っていた拠点へと向かった。


 一応他の貴族の領土を通過するため、細心の注意を払うべく少数精鋭で行動している。イグニア領の守りはアンジュのユニオンナイトとスタークのメンバーの9割、防衛の指揮は村長シュテンが執ることになっていた。


 そしていよいよエイデンを最後に見た場所に着こうとしたとき、ヴォルガ王が制止した。


「この先からキングストン家の領地となる、それ故に警戒を怠ってはならん」


「ガナルキンは投獄中だろ? 位も剥奪されて領地は近隣のポーン貴族に分配されるんじゃ?」


「本来ならこの先は容易に通過できるはずじゃった。だが先程影武者から文が送れてきた。それには”ガナルキン、護送中に死亡”と書かれていたんじゃ」


 その言葉を聞いたロイは大体の全容を掴み、納得した。


「ああ、なるほど……奴が死んだにも関わらずこの先がキングストンの領地ってことは継承関係で裏をかかれたって訳か?」


 ヴォルガ王は頷くが、ユキノは混乱していた。


「ちょっと待ってください! 私には全然わからないんですが!? ガナルキンさんが死んでも領地は分配されないんですか?」


 ヴォルガ王は指を左右に振ってキザったらしく答えた。


「ガナルキンはな? ──何者かに殺されたんじゃ。しかもその時、同時に護送されていた”キングストンの剣”も奪取されてしまったようなんじゃ」


「えっ! 誰に、ですか?」


「持つ者が持てば効果を発揮する”誓約魔術ゲッシュの武器”……新たに継承したのはリディア・キングストンじゃ。これにより発動中だった誓約魔術ゲッシュもキャンセルされ、分配途中の領地も現段階のままになったんじゃ……」


 ヴォルガ王の話によれば位を継承するにはそれなりに時間がかかるはずだった。だが運の悪いことに、帝国はガナルキンの投獄と同時に位を剥奪したため、継承時間が無くなり、剣を次に持った者が正統な後継者だった場合、即刻引き継がれる形となった。


「この先が敵地なら、王のアンタは引き返した方が良いんじゃないか?」


「王が動かねば誰も後には続かぬ。レグルスの小僧レグゼリア王のように、玉座にふんぞり返っとるだけの無能な王ではないぞ!!」


 その言葉にアンジュが爆笑し、ユニオンナイト達も一緒に元君主を笑っている。その光景を見たロイは戦慄した。


 お姫様が敵と言えば敵にするこの狂信者達、なんかちょっと怖いな……。


「ま、戦死しても俺は帝国の人間じゃないから困らないけどな」


「くくく、知っておるぞ? 聞いておるぞ? そんな風につっけんどんな態度を取りながらも、絶妙な手助けをするそうじゃないか。そうやって若い娘を1人、また1人と落としていったんじゃろ? ワシもその仲間ハーレムに加えてくれよぉ~」


「知るか!! 誰に聞いたんだよ!? 俺はそんなことしてないぞ!」


 ヴォルガ王は自動車テスティードの方を指差した。その先にいたマナブはビクッ! と驚いたあと『ボス、すみません!』とジェスチャーを送ってきた。


 その後、ロイはマナブのマッシュルームのような髪型を無茶苦茶にすることで憂さ晴らしを行った。


 ☆☆☆


 自動車テスティードの車内で戦力を確認する。ロイのパーティ、スタークのメンバー少数、ユニオンナイト少数、影の一族オンブラ多数……それぞれのメンバーが数ヶ月間生活を共にしたため、割と打ち解けていた。


 うむ、連携は問題ないか。そうやってあらゆる事を想定するため思案に耽っていると、肩に何かが当たってきた。


 ──ピト。


 その方向を見ると、隣に座っていたユキノがロイの肩に頭を乗せて眠りかけていた。


 起こそうとすると、対面のアンジュがシーッと指を立てている。ロイは起こすことを諦めて腕を組み、顔を伏せて自身も休憩することにした。


 …

 ……

 ………


 ──ガタンッ!


「ロイさん!? 今日は胸はやめて!」


 などと寝惚けたユキノを叩き起こしてパルコの元へ向かった。


「何があった?」


「ロイの旦那、道のど真ん中に騎士のような奴が立ってるんだが……どうします?」


「ダート──じゃないな。見たこと無い奴だ。ソフィア! こっち来てくれ、アイツ誰だか知ってるか? 進路妨害してるんだが」


「あの方は……ウォーレン様ですわね。わたくし達の北東に領地を構えるポーンの貴族ですわ。帝都に近いここに、何故いるのでしょう?」


「嫌な予感しかしねえな……仕方ない、俺達のパーティだけ出るぞ」


 自動車テスティードから降りたロイは騎士の正面に立った。


「何故ここに? ──そう言いたげな顔だな」


「実際、うちとアンタはお隣様らしいじゃねえか……"何故ここに?"」


 ロイは敢えて挑発目的で敵の欲しているであろう言葉をかけた。すると、ウォーレンは前髪を人差し指で華麗に払ったあと──抜剣した。


「ヴォルガの爺さん、1ついいか?」


「なんじゃ?」


「イグニアの血を引いてない俺でも"誓約魔術ゲッシュ"は使えるのか?」


「ああ、イグニアが望んで貸したなら使えるはずじゃ──ってまさか!?」


 ロイはヴォルガ王に対し、後ろ向きに手を振りながら前に出た。それに反応して近くの木々から部下らしき騎士がぞろぞろと現れた。


「……はぁ、闇討ち前提かよ、騎士が聞いて呆れる。──ウォーレン!」


「平民が、気安く呼ぶな!」


「どうせ戦うならコレをやってから戦おうぜ。そっちの方が、後処理を魔術がやってくれるから楽だろ?」


 ロイは"イグニアの短剣"を眼前に掲げて"誓約魔術ゲッシュ"を起動した。


「な、何故! お前がそれを!?」


「通行止めついでにお小遣い稼ぐ、なんて山賊みたいな貴族様に渇を入れたくてな。どうする? 俺を倒せば装備どころか領地まで手に入るぞ?」


 ウォーレンは少しの間考えたあと、手下に誓約魔術ゲッシュ用の武器を持ってこさせた。その間、ロイはヴォルガ王を自動車テスティードに放り込んだ。


 口を塞がれムームー言ってたがヴォルガ王の存在を知られる訳にはいかないので、車内から見学してもらうことになった。


 敵は林から出てきた伏兵15名、こちらはロイ、ユキノ、ソフィア、サリナ、マナブ、アンジュの6名……これで参戦者は決まった。


 ──「さて、次は条件を決めようか」


 こうしていきなり現れたお隣さんとロイ達は戦うことになった。

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