第58話 隣の領主は狙っている
この世界の貴族はポーンを一番下に、ナイト、ビショップ、ルーク、クイーン、キングの6つの位に分かれている。
ただ、その在り方や運用はその国によって大きく異なっている。例えば、レグゼリア王国はビショップまでの貴族が領地を有しており、それ以上の貴族は王宮に居を構えて重役に就いている。
そして、レグルス王家は代を重ねる毎に謀反に怯え、目の届かない所での反乱を防ぐために、力ある者を近くに置くようにした。
今では王宮に住むことが大変名誉なことになっている。
対して帝国は最古参の国故にその広大な領土をもて余していたため、ほとんどの貴族がある程度の領地を所有している。
その中でもイグニア領は東の辺境に位置しており、鉄鉱石が取れる鉱山が1つあるだけの小さな領地だった。
☆☆☆
「それがね、僕の位は
馬で先頭をゆっくりと走るエイデンは自嘲気味に言った。同伴するのはロイ、ユキノ、ソフィアの3名と他スタークのメンバー10名ほど。
マナブとサリナはスノーウルフの変異種が現れたと情報を受けたため、その討伐に向かっている。
そしてロイ一行は現在、唯一の資金源である鉱山の権利を守るために交渉へ向かっていた。
「それじゃあ、今までは見向きもされなかったのか?」
ロイがエイデンに質問をした。隣の領主がいきなり権利を主張したと聞いたからだ。
「多分だけど、お隣さんは自分所の鉄鉱石を堀尽くしたんだと思うんだ。ほら、アグニの塔解放に伴って世界的に武器が作られ始めたでしょ?」
「それで大量生産したはいいが資源が底を尽き、領地境界線ギリギリにあるアンタの鉱山を自分の物にしようってことか?」
「そうなんだよ、しかも土魔術師を何十人も雇って山を傾けてさ。それでちょっと相手方に入ったから自分の物って……横暴だよ!」
エイデンは眼鏡を直しながら憤慨し始めた。線が細く、白衣を羽織ってるのであまり驚異を感じなかった。
そして、いよいよ目的の鉱山が見えてきた。エイデンの言うとおり、岩山が若干傾いており、中腹にある入り口付近で武装した騎士が見張りをしているのが見て取れた。
ロイ一行が辿り着くと、鉱山内部からぞろぞろと騎士が出て来てすぐに周囲を取り囲まれてしまった。
騎士の間を掻き分けて、1人の男がエイデンの前に歩いてきた。
「久しぶりだな、イグニア殿。ここに来たということは、最後にこの鉱山を一目でも見ておきたいからかな?」
下卑た笑みを浮かべ、エイデンの周囲をゆったりと歩き始めた。
「ガナルキン殿、僕はこの鉱山を手放すつもりはありません。何故なら、ここは僕の領地であり、そこに存在する鉱山はイグニアの物だからです」
エイデンの毅然とした態度を他所に、隣の領主ガナルキンは肩に手を乗せて顔を近付けた。
「いつもはのらりくらりと逃げ回る癖に、今日はやけに威勢が良いですなぁ」
「逃げ回るもなにも、あなたの領地はここから100mほど先ではないですか。にもかかわらず、無断で侵入し鉱山に入って一体何をしていたのですか?」
ロイ達が到着した時、ガナルキンは鉱山から出てきた。非は完全に向こうにあり、誰が見ても迷いましたとは思えない人数を引き連れていた。
そして、依然として譲らないエイデンにガナルキンは怒り始め、装飾過多な剣を抜いた。
それを見たロイが戦闘態勢に入ろうとしたとき、ソフィアがロイの肩に手を置いて首を振った。
「ロイ、これは領地と領地が頻繁に争う帝国ならではの儀式、だからまだあなたの出番ではないわ」
「だがアイツは剣を抜いたぞ?」
「いいから見ておきなさい。家紋が施された剣を抜き、それを正眼で構えることで"
ガナルキンが正眼で剣を構えた瞬間、奴の前に赤い文字が次々と立ち並んだ。
「あれは……"
「そうよ、帝国は
「あ、あの……
「ええっとそうね……起源とか色々あるけど、う~ん、ザックリ言うとルールを破ったら死んじゃう魔術って考えると良いわ。王国と違って帝国は余程のことがない限り動かない、それはこの魔術があるからなの」
だが、無理矢理に
そのため、圧倒的に不利な状況で
「では僕も応じるとしようか」
エイデンは自身の家紋が刻まれた短剣を眼前に掲げて
経済力で劣るこちらは傭兵を雇ってもマネーゲームの面で負けてしまう。だが今は違う、元々の私兵もグレンツァート砦で経験を積み、更にはロイという勇者を倒した逸材だって仲間にしている。
だからこそ、敵が油断しているところに訪問したのだ。
そして、誓約は結ばれ────
☆☆☆
多数の異世界ファンタジーがあるなか拙作を手に取っていただき、ありがとうございます。
☆評価もいただき、本当に感謝しかありません。
これからも”影魔術師と勇者の彼女”をよろしくお願いします!
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