第57話 ある男の過ち1・ソフィアの看護
~ある男の過去~
私は騎士だった。小さい頃の夢だったが、普通に入団試験を受けて、普通に騎士養成学校に通い、普通に卒業した。
入団したはいいが、守るべきものに優先順位があり、それは貴族と重役が上位に位置してそれ以外は結局のところ”目につけば守れば良い”程度のものだった。
その結果、叶えた夢も徐々に磨耗し、民衆を守る気持ちも薄れていった。
いや、薄れているだけで心の奥底にはまだ残っていたのだ。成し遂げるのなら上に行くしかない……そう考えて”帝国闘技祭”に出場してみた。
参加条件は下級騎士であること、そして貴族の推薦者であること、この2つのうちどちらかだ。優勝者には”最後の大戦”で使われたとする”聖槍・ロンギヌス”を貰えるとのことだった。
下級騎士であれば即座に昇格し、貴族の推薦者であれば主の名誉となる。そんな戦いで私はある少女に負けた。銀の髪は風に揺れ、年中”青の節”とされるこの帝国においてスリットの入った白いドレスを着た少女。
地に伏す私のことなど眼中にないかのように少女は去っていった。ソフィアと呼ばれたその少女は名字がなく、イグニアという貴族の推薦であることがわかった。
結局、ほとんどの試合をストレート勝ちしたソフィアは、ロンギヌスを手にイグニアの名誉として献上した。美しい戦い方ではあったが、きっと運も強かったのだろう。
なぜなら、今回の帝国闘技祭は若手下級騎士にとっては最も狙い目でもあったからだ。
というのも、帝国闘技祭が開催される前、帝国領内にある”ウラスの塔”周辺に魔族が攻撃を仕掛けてきたと急報が入った。当然、個体的にも上位に位置する魔族の相手なので上級騎士とその従者である下級騎士は討伐に出向いており、結果的に帝国闘技祭で勝ち上がりやすくなったのだ。
もちろん、ソフィアが弱いというわけではない。腰や腕を巧みに操って槍のリーチを誤魔化す防戦槍術は”スキル”ではなく”技量”であり、それはスキルに頼りすぎる昨今の戦いに革新をもたらすほどだった。
帝国闘技祭が終わり、また普遍的な日常へ戻った私はある願望を抱いた。
”もう一度ソフィアに会いたい”
だが、名誉を手にした彼女はこれから多くの名声を挙げていき、下級騎士の自分など、関わりようがない────このときの私はそう思っていた。
☆☆☆
~イグニア邸にて~
朝食後ロイはベッドで寝込み、ソフィアの看護を受けていた。
「ごめんね、ロイ。あなたがここまでトマトが苦手だなんて、知らなかったわ」
ソフィアは半泣きの状態でロイの額にあるタオルを交換した。
「いや、いつかは克服しなくちゃって思ってはいたんだ。これを期に一口ずつでも食べれるように頑張ってみるよ」
「そ、そう? ワタクシも協力するわ。固形じゃなくて、飲み物にしたらどうかしら?」
「お、それは良い案だな!」
ソフィアの提案にロイは手を打って納得した。
「だけどなあ、味が……」
「量も少なくするし、味もわかりにくいように工夫するわ」
「そっか、それならいけそうだな」
「でしょ? 任せておいて!」
2人はまるで過去に戻ったかのように笑い合った。
不意に懐かしくなったロイはソフィアが影の村に来たときの話しから、エイデンに引き取られるまでの話しをした。再会してからというものの、今の今まで一度もゆっくり話す機会が無かったから余計に懐かしく感じたのだろう。
「ねえ、ワタクシが来たのは10歳、エイデンに引き取られたのは13歳……たった3年しか一緒にいなかったけれど、まるで小さい頃から一緒にいた感じだったわね」
「そうだな……お前もその変な喋り方してなかったしな」
「んなっ! この喋りかたが殿方に好かれるって聞いたのよ! ……あなたに会うまでの5年間、色々努力したんだから……少しは褒めてくれても──」
再会したとき、ソフィアはロイよりも強かった。王国最強と名高い黒騎士カイロの一撃を受け止めるほどの実力になっていた。そしてここまでの戦いで隣で戦っていたロイ自身が、それをよくわかっていた。
「……そっか、ソフィア頑張ったな」
ロイはそう言ってソフィアの頭を撫でた。ソフィアはいつものように反発的な態度を取らず、ベッドにいるロイの膝に頭を乗せる。いわゆる膝枕というやつだ。
ロイの視点からはソフィアの綺麗なSラインが見渡せる位置にあり、彼女が5年間で魅力的な女性へと成長したのが見て取れた。
だが、2人のゆったりとしたこの空間は唐突な乱入者によって崩壊することになった。
ガチャンッ!
「ボス! 次の任務、なんで僕は別行動なんですか!」
マナブはノックもせずにそう言った。ソフィアがロイの膝に頭を乗せて撫でられる、この光景を見たマナブは衝撃を受けて絶句する。反面、飛び退いたソフィアはみるみる顔を赤くして、ロンギヌスを手に取り構えた。
「マ~ナ~ブ~!」
「ちょっと待ってソフィアさん! わかんないよね? こんな状況だって、わかりようがないよね?」
「あなたはノックする習慣がないのかしら? まぁいいわ、これからあなたは記憶を失うんですもの、ふふふふふふ……」
マナブは後退り、そして悲鳴を上げながら逃げていったのだった。
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