第46話 グレンツェに渦巻く陰謀

 宿でソフィアを呼び出した人物は貴族制反対派のスタークのメンバーだった。ソフィアはロイに合流する前にオンブラの村へ立ち寄っており、その際に付いてきた護衛に村人を帝国まで送るように指示していた。


 だが、アグニの塔が解放されたことによって国家間の緊張が高まり、通行する際に使用していた偽の通行証が使えなくなっていた。そのため、スタークのメンバーは国境に1番近い"グレンツェ"と言う街に潜伏していた。


 そして先日、グレンツェへ向けて最短距離で王国軍が進軍を始めたのだと言う。


 出発が同じ時期なら村から村へと移動するロイ達は間に合わない。だが今の位置からなら、距離的に全力で馬車を走らせれば少しだけロイ達が早く着く計算になる。


 ロイ一行はその日の内にシミュート村を発ってグレンツェへと向かった。


 道中、馬車の中でソフィアは涙を浮かべ、ロイの胸元へすがっていた。ロイはソフィアの肩を抱き、頭を優しく撫でる。


「ロイ、ごめんなさい!ワタクシが……もっと上手く立ち回っていれば──」


「ソフィアのせいじゃないさ。その頃ってまだ俺達がアグニに向かってるとか知らなかっただろ?それよりも、こちらの方が早く着くから良かったと思おうぜ」


「ごめんなさい……」


 パルコの話しでは、あと30分ほどで着くと言う。ソフィアはあれっきり俯いたままだ──これは良くない傾向だな。その場の空気に引きられてなのか、他の面子もドンヨリとした雰囲気を醸し出していた。


「サリナ、悪い。多分これから激戦になると思う。運良く帝国側に逃れたとしてもハルトに会うことは今よりも難しくなる……なんならグレンツェに着いたら──」


「バカにしないで。アンタ──ロイの一族の危機なんでしょ?アタシ、謝りたいの。だから協力する」


 サリナの罪を責めて怒らせ、ハルトを殺すかもしれないと脅すことでハルトを守ろうという感情を呼び起こし、生きる意味を与えていた。


 だが、サリナはこの間の散髪の一件から俺の予想よりも罪悪感が増している。


「……はぁ、俺のせいだな。今までそこを責めて悪かった。本当は闇の武器が原因だって俺は思ってる、お前だって被害者だ。だからもう、いいんだ」


「……別に、付いていきたいから行くだけ。どうせ──オーパーツ、だっけ?それをハルトが持ってる以上は回収しなくちゃいけないんでしょ?」


「ああ、その通りだ」


「じゃ、よろしく、ロイ」


 サリナから名前を呼ばれるのはこれで2回目、むず痒いような感覚を感じつつ2人は握手を交わした。2人を見て他のメンバーも適度な緊張感へ移行した気がした。



 ☆☆☆



 ─国境へ至る街グレンツェ─



 王国軍の本隊はまだ到着しておらず、ロイ達は無事に中に侵入するこたができた。スターク・メンバーの案内で親族が隠れているらしき貨物倉庫に向かうと、グレンツェ駐在軍がすでに包囲していた。


 そしてロイ達は近くの建物の影から、貨物倉庫を覗き込む。


「クソッ!思いっきりバレてやがるな」


 悪態を付くロイの横にユキノが並ぶ。


「もしかして、あえて私達に猛攻を加えなかったのは今回の事を狙ってたから、ですか?」


「その可能性が高いな。黒騎士カイロは過去にも恋人や家族を利用した策略を行ってることで有名だ。奴が今回最も力を入れたことは"通行証の変更"くらいだろうな」


「うぅ、性格が最悪です……」


「だが、計算というものは狂いが生じやすい、俺達が早く着いたのは誤算だろうし、ここから一気に巻き返すぞ!」


「そうですね!」


 物影から一気に飛び出し、王国駐在軍を背後から斬り倒す。軍といっても数は15ほどしかいないし、王都の軍よりは練度も低い、制圧は容易かった。


 ソフィアはロンギヌスの槍特性"魔力増幅オーバーロード"を使って穂先から衝撃波を放ち、弓兵と魔術師を一掃する。サリナは槍術師ランサー、ソフィアは聖騎士、共に槍を使うジョブではあるが、ソフィアはサリナのように突進して攻撃するタイプではなく、払いと突きで的確に防御を崩して仕留めるスタイルだ。


 そして接近戦なら勝てると勘違いした敵の兵士はことごとくソフィアの槍の前に敗北を重ねていった。


「撤退だ!撤退しろ!」


 指揮官らしき兵士が撤退を指示するが、時すでに遅し──紫電サリナが前に立ちはだかっていた。


「アンタが選ぶのは、撤退ではなく降伏よ」


 サリナへ何度か攻撃を仕掛けるが、打ち合った剣から電流が流れて指揮官は膝をついた。


「クッ!……生きてる者は降伏せよ!」


 こうしてなんとか制圧し、生き残った5名を縄で縛って貨物倉庫へ護送した。逃亡防止にロイがシミュート村で買っておいた、起爆の巻物スクロールを張り付けているので逃亡の心配はない。


 貨物倉庫に入ると剣を持った商人のようなスタークメンバー数人と、影の一族がこちらを警戒していた。


「村長っ!俺だ、ロイだ!」


「まさか、ロイなのか!?おお、少しみない間に、雰囲気変わったな~!」


 久しぶりの再会にロイは少しの間だけ、影の一族と抱擁を交わしていた。


「ソフィアちゃんも、生きていたんだね~」


「今回のことはごめんなさい」


 そして村長が何かに気付いてソフィアに聞いた。


「そう言えば、婚姻の──フガッ!」


 いち早く気付いたソフィアは村長の背後に回って口を塞ぎ、耳元で言った。「その続きを言わなければ、ワタクシとしても嬉しいのだけれど?」村長はコクコクと首を縦に振ってようやく解放された。


 その光景にロイは驚いたが、きっとセクハラ発言でも言おうとしたんだろうっと納得した。


 そして村長とスタークのメンバーはロイ一行に脱出計画について語るのだった。

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