第41話 鍛冶の村シミュート
ロイ一行はシミュート村に到着した。いつもならソフィアに宿の手配をさせて、そのうちにロイがギルドでクエストを受ける。これが日課だったが、前の村でハイゴブリンの時の報酬に迫るものを受け取ったため、この村ではある程度連泊する予定だ。
部屋で少し休憩したあと、ロイ達は通りにでた。
もうすぐ夕方だというのに煌々と煌めく村、あちらこちらで鉄を打つ音が鳴り響き、村全体は”青の節”だというのに熱気に包まれていた。建物は石造りで所々に赤を基調とした装飾が施されている。それは村全体を炎の村として盛り上げようという試みの象徴でもあった。
村全体から煙が昇っており、それは明らかに鍛冶によるものだけじゃなかった。この村に詳しいパルコの話しによれば、温泉と呼ばれるものも存在していて、そのおかげか湯気と煙の村という別称も存在するとのこと。
この時期のシミュートは火の魔素がアグニの塔に次いで集まりやすく、例年通り最も鍛冶が捗る時期だった。それに加えてアグニの塔解放によってさらにそれが拍車をかけており、村は武器を求めてやってくる冒険者や兵士で溢れていた。メインウェポンたる聖武器とそれに準ずる武器を所持していなければロイ達も目をキラキラさせてたことだろう。
そしてパルコイチオシの場所があると言うのでロイ達はその場所に向かった。
「ここを見てくだせい!この村にいくつか温泉はあるけれど、俺っちが紹介するここは
「”しっぽり湯”って書いてるんだが、本当に大丈夫なのか?」
「特にロイの旦那にはオススメだぜ」
嫌な予感がするが、仕方ない。俺一人の意見で決める訳にもいかないしな。
他の女性陣は”温泉”という言葉に目が無いのか目をキラキラさせてすでに受け付けの方に向かっている。
「おい、ユキノ!終わったら出口で集合な!」
「は~い、わかりました~!」
ユキノが返事したあと、全員温泉施設に入っていった。
「パルコ、みんな金払ってないんだが……」
「ああ。気にしなくていいです。感謝の意を込めて、ここは奢らせてください。それにすでに受け付けは済ませてあるんで」
いつの間に……。パーティの面々には一人一人に普通に接してるし、感謝されるような覚えはないんだが。
ロイはホンの少しだけ疑問を抱いたが、今日はハシャギ時と考えて案内のまま進んでいった。
男の暖簾を潜ってサッと脱いだあと、そこからさらに右か左に分かれ道があった。右の道には立て札で「パ」と書かれており、左は「ノ」と書かれていた。
「ロイの旦那は引き締まってますね~!なのに……マナブッ!もうちょい鍛えんか!そんなヒョロヒョロな──あ、ロイの旦那は”パ”の方へ進んでください」
「は?俺もそっちじゃないのか?」
「こっちは普通の湯、つまりノーマル湯と言われるやつで、ロイの旦那はリーダーに相応しいそちらの湯に行ってくだせえ」
「ノーマル湯だから”ノ”なのはわかったが、パってなんだ?」
「そこはサプライズってことで……じゃ、マナブ、俺っち達はノーマル湯の方へ行くか」
「えーっとボス?なんだか知らないけど、向こうでは頑張ってください」
そう言ってロイを置いて二人はノの湯に向かっていった。立ち往生するのもあれなので、パの湯に向かうとかなり広い露天風呂に出た。湯気が濃いくて視界は悪いが、空を見上げると、夜空の蒼と村の活気の象徴たるオレンジが混ざりあって幻想的な景色が広がっている。
ロイはタオルを頭に乗せて、湯船に浸かる。
「くあぁぁぁぁぁぁっ!気持ちいい!」
少しだけ熱かったけど、体の芯から生き返るような高揚感が沸き上がってきた。
「ふぃぃぃぃ!……にしても、他の客も見かけないし、仕切りも異常に高いな。ま、これだけ高いなら女連中が覗かれる心配もないだろう」
ロイはプカプカと浮かんでこれからの事を考える。
このままカイロが逃がしてくれればいいけど、そう上手くいくだろうか……。それに、帝国に着いて俺たちは何をするんだろう。ソフィアの庇護下で暮らす?それはヒモみたいで嫌だな。サリナだってこのまま帝国に行けば逆にハルトに会いにくくなるだろうし。本来は治療目的だったけど、なぜか根こそぎ浄化しちまったもんなぁ~
色々問題があって頭痛い……今日はもう忘れよう。
ロイが浮かんだまま目を瞑っていると、少しだけノンビリした声と、下手に上品ぶった声と、少しだけ反抗期拗らせたような声が聞こえてきた。
「お、他に誰か来るな」
その声は、蔑みの視線を向けられるか、普通にリーダーとしてやっていけるかの命運をわける隠密ミッション開幕を報せる声だった。
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