第38話 オンブラの痕跡
なるべく街を避けて村から村へと移動した。1つの村での滞在日数は2日以内を厳守として行動した。やる気のない黒騎士様がいつ本気を出すかわからないからだ。
そんなロイ
ソフィアに宿の手配を任せ、ロイがギルドのクエストボードを眺めていた時、入り口から何かが倒れるような音がした。
音のする方向へ視線を向けると、上質の服を着た中年の男がロイを指差しながら
「こ、この男を殺せ!コイツは暗殺者だ!」
中々声がでなかったこの男、ようやく発した言葉はある意味においては当たっている。しかし、ロイは暗殺の訓練を受けていたが、まだ1度もその仕事をしたことがない。
村がハルトに襲われなければ、いよいよ大人に混じってその仕事をする予定だった。ただ、殺しの経験がない訳ではない。
オーパーツが安置された遺跡に盗賊が現れるので、その時にすでに殺しは経験している。
騒ぎを聞きつけたギルドの受付嬢が駆けつける。
「何か問題でも起きましたか?」
「こ、コイツを……殺せ!依頼だ依頼!1万G出す!」
受付嬢はロイに向き直って問いただす。
「あなた、冒険者ですよね?」
「そうだ」
「暗殺と言う言葉が聞こえましたが?ここは非戦闘区域で暗殺ギルドではありませんよ?」
「聞いてくれ、俺は冒険者だ。ここにはクエストを受けに来ただけだ。なぜかいきなりその男が騒ぎだしたから、正直俺も驚いてる」
「嘘だ!俺の兄貴は黒い髪で赤い瞳の男に殺された、姪が見ていたんだ!こ、今度は、俺を殺しに来たに違いない!」
「あのな、俺はさっきここに着いたばかりなんだぞ?そんなこと、できるわけないだろ?」
一方的に主張する中年の男とそれを否定するロイ、そこで受付嬢が提案をする。
「コホン、取り敢えず別々の部屋で話を聞くとします。よろしいですね?」
「わかった」
「待て、その男を自由にさせるなぁ~~!」
聞き分けのない中年の男はロイの視界からフェードアウトしていく。言うことを聞かないからスキンヘッドで筋肉モリモリの職員に連れていかれたのだ。
別室に連れていかれたロイは、受付嬢から事情を聞かれる。
「それで?彼は明確にあなたの特徴を指摘していたようですが?」
「親戚が……そんな仕事をしていた、と言う話しを聞いた事がある───確認したわけじゃないがな。その人と勘違いしてるんじゃないのか?」
「ふむふむ、それならそうと、あの場で言えば良かったのでは?」
「あの手の人間は話しを聞かんだろ?」
「言わなければわからないことって多いのです。もしかしたら納得したかもしれないじゃないですか。話し合う、この下地抜きに判断してはいけません!リスクは可能な限り避けるのがリーダーの務めですよ?」
まだクエストボードを眺めていただけで、実際にギルドカードを見せたわけでもない。なのにロイをリーダーと断ずる目の前の受付嬢にロイは警戒心を抱いた。
もしかして、カイロの手の者……か?
ギルド職員は最難関と謳われる狭き門を潜り抜けてようやくなれる職業。だが、一般人でもなることができる。つまり、カイロの手の者が潜り込む可能性は0ではない。
ロイは聖剣を出す準備をして受付嬢に言った。
「なぜ、リーダーと知っている……?」
「ん?……ああ!そんなに警戒しないで下さい。あなた、最近冒険者になったばかりでしょ?なら、知らないかもしれませんが。受付嬢は数多くのパーティを見てるんですよ?見た目と雰囲気でなんとなくわかります!」
「……はぁ。わりぃ、仰る通り、最近リーダーになってな。疑い深くなりすぎてるかもしれない」
「ふふ、誰もが通る道ですよ。ただ、あなたのような方がパーティを率いると生き残りやすいのも事実です。肩の力を抜いて、もう少しパーティの人に仕事を分配してあげてください。私からのアドバイスです」
受付嬢の笑顔に少しだけ心が軽くなった気がする。
「先程の方ですが、元貴族なんです。兄が死んでから没落したようなのですが、今では唯一生き残った姪を育てるのに必死で働いてます」
「……そうか」
可能な限り1人になったところを暗殺する。それが鉄則だが、目撃されれば始末しなくてはいけない。特徴を知っていると言うことは、姪が暗殺現場を目撃した可能性が高い。
まさか、こんなところで一族の痕跡を目の当たりにするとは思わなかった。生きていると言うことは……
レグルス王家は時を重ねると共に影の一族へ敬意を払わなくなった。王家から敬遠されていると感じた影の一族は、暗殺に適したジョブをメリットとして提示することで今代まで切り捨てられずに生き延びた。
全てはオーパーツを守護するために。だが、その為に次代を担う子供だけは手にかけられなかった。全部憶測の範囲に過ぎないが、ロイはそうでありたいと思った。
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