第12話 ゴブリン討伐?

 ゴブリン……それは基本的に群れて行動し、数の暴力で相手を仕留める女の敵。

 生息域が幅広く、スライムを除けば屈指の発見率である。


 セプテンから離れすぎないようにロイのパーティは街道を散策していた。


「確認だ。受けたクエストは『ゴブリン討伐×3』これまでは分かるな?」


 ロイの確認にローブを目深に被ったユキノが答える。


「はい。あの……何か追加事項でも?」


「勘が良いな、その通りだ。今日は追加で2体倒すことにした。俺達は2人ともまだFランクだ。昇級条件が『ゴブリン5体討伐』だから丁度良いだろ?」


「もしかして……村を出てすぐに倒したのはカウントされない系ですかね?」


 ロイはヤレヤレという感じにジェスチャーをしたあと答える。


「冒険者登録してなかったんだからそうなるだろ」


「そうですよね……。そんな都合良くいかないですよね」


 打ち合わせをしつつ街道を進んでいると、1匹のゴブリンが道のど真ん中でキョロキョロしているのを発見した。


「ロイさん、居ましたよ。早速やっちゃいましょう!」


 ユキノが魔杖テュルソスを手に突撃しそうになるのをロイは止めた。


「まぁ待て。あれは罠だ、突っ込めば包囲されて一網打尽だ。にしても、罠を仕掛けるということは"ホブゴブリン"か"ハイゴブリン"が居るかもしれない。見分け方は色だ」


「色、ですか?」


「ああ、経験を積んだゴブリンが1つ上のランクに上がるとホブゴブリンになるんだが、稀にハイゴブリンにもなる。あれは……黒だからハイゴブリンだな。知能が高いから伏兵や罠に気を付けろ」


 ロイは周囲に隠れる事ができそうな場所を探す。


 街道を挟んで両端に風化して朽ちた遺跡の残骸があるな、きっとそこに隠れているんだろう。

 ロイはユキノにゴブリンについて説明することにした。


「知能が強化されてはいても、部下が無能なら意味がない。見張りのゴブリンを見ろ、疲れてるだろ?人間なら見張りは交代制だが誰も交代する気配がない。やれと言われたらそれをやるだけなんだよ」


「なるほど、確かに言われてみるとそうですね。それに見張りゴブリン、かなり疲弊してるように見えます」


「ってことでお前はアイツを倒せ」


 ユキノの予想してた台詞はこうだった。

『俺が今回もやるからお前は隠れてろ』


 ──故にユキノは驚いた。


「……ええええええ!?無理です!」


 ロイはユキノの両肩に手を乗せ、目線を合わせて言った。


「父さんが言ってたんだ。『挑戦しろ。挑戦を恐れるのはそれができない自分をイメージしてるからだ』ってな。安心しろ、あれ以外は俺がやるから」


「ロイさん1人で複数を相手にするのは無謀なんじゃ……?」


影一族オンブラは王国から定期的に暗殺依頼を受けていたんだよ。だから俺も将来に備えて色々鍛えられてる。この程度なら大丈夫だ」


 王国と影一族オンブラ、オーパーツを守護する代わりに王国が管理する森に住まわせると言う盟約を交わしたが、時が経つにつれて王国側はメリットについて疑問視するようになった。


 影一族オンブラ側もそれを感じ取り、村から定期的に暗殺者を貸し出すことでメリットを確保した。それも王国側の裏切りにより破られた形になってしまったが……。


 ☆☆☆


 ロイは戦闘準備のために街道を大きく外れて遺跡の外側に向かっていった。

 ユキノの出番は後半なので近くの木に隠れて様子を伺った。


「挑戦か……よしッ!私も頑張る!」


 自身に渇を入れて最大限できることを考える。


 私のジョブは治癒術師、長所はもちろん回復。次点で補助もできる。


 異世界に来て騎士団からレクチャーされた事を思い出す。


 短所は攻撃スキルが乏しく接近されると劣勢になること。


 でも───攻撃スキルはある!!


 やることを明確にしたユキノは魔杖テュルソスに魔力を通し、見張りのゴブリンを倒すチャンスを狙って集中したのだった。


 ☆☆☆


 敵は囮役を立てている事を忘れて昼寝をしたり、昼食を食べてたりと割りとサボり気味だった。


 これなら正面から突撃してもいけてたな。


 ロイは呆れつつも弓を持ったゴブリンの背後に立ち、グラムを綺麗に振り抜いた。


「ギャ?」


 ザシュッ……ゴトン


 弓を持ったゴブリンは首だけが分離して絶命した。ロイはそのまま勢いを落とさず、点在する遺跡の影から影に移動を繰り返しながら次々とゴブリンを狩っていった。


 数体倒した辺りであることに気付いた。体が明らかに軽い、そして剣を振る速度も増している。


 ああ、なるほど。これが聖剣グラムの強化値の影響なのか。


「ギュエエエエッ!?」


 ガンッ!!


 最後のハイゴブリンを背後から仕留めようとしたとき、振り向き様にグラムが弾かれた。


通常種ノーマルなら異変に気付かないが、お前は流石に気付いたか」


 余程悔しいのか、ドンドンッとハイゴブリンは地団駄を踏み始めた。改めて見ると装備も通常種ノーマルとは違い、冒険者から奪ったらしき防具を装備している。


 先に仕掛けてきたのはハイゴブリンだった。手に持った短槍が突き出される。

 ロイは右へ左へと連続で避けた後、グラムで斬りつけた。


 ガヒンッ!


 ハイゴブリンの鉄の胸当てが真っ二つになり吹き飛んだが、ハイゴブリンが反撃の瞬間に少し後ろに後退した為に顔から胴にかけて傷は付いたものの、致命傷には至らなかった。


「ギギギ……」


「次はお前自身だ。覚悟しろ」


 ポタポタと血が流れながらもハイゴブリンは道具袋から何かを取り出した。

 ロイは飛び道具を想定して防御態勢に入る。そしてハイゴブリンは玉のような物体を投げた。


 パンッ!


 玉が双方の中間距離の地面に触れた後、眩い光が辺りを包み込んだ。


「目眩ましかッ!」


 光が収まり、視界が回復したロイは周囲を見渡すが、すでにハイゴブリンは退却したあとだった。


「……逃がしたか」


 少し周囲を捜索したが見付からなかったので、ロイはユキノの様子を確認するために街道の方に向かうのだった。


 ☆☆☆


「あ、ロイさんだ」


 街道を挟んで左側の遺跡から右側にロイが飛び移るのを確認したユキノは対するゴブリンを見据える。


「左側は全部倒したってことで良いんだよね?よしッ!右側もすぐ片付くと思うから、私は私のやれることをしよう」


 ゆっくりとユキノは背後から近付いた。


「ギャッ!ギャッ!」


 疲弊してる筈なのにゴブリンは急に元気になって振り返り、ユキノに短剣を振ってきた。


「え!?音しなかったよね?」


 元来ゴブリンは女の匂いに敏感な為、訓練を受けていない素人の近付き方では気付かれてしまうのだ。


「わっ……と、っとと。だ、段々防ぎ方……わかってきた……か、もっ!」


 カンカンと魔杖テュルソスで防御しながらユキノの思考は少しずつ落ち着きを取り戻した。

 視界の端にロイを捉えたユキノは愚痴を溢した。


「ロイさん早ッ!もうッ、終わったなら手伝ってくれても良いのに……」


 防御に必死で反撃できないユキノは相手の体力が尽きるのを待っていた。先程まで疲労困憊ひろうこんぱいだっただけにゴブリンも中々攻めきれなかった。


 だが……拮抗していた戦いも、ゴブリンが急に転けたことで終わりを告げた。


「今です!"ホーリースマイト"」


 光を帯びた魔杖テュルソスから放たれる強力な打撃により、ゴブリンの頭部は半分の大きさになった。


「やった!おーい、ロイさん!やりました!」


 ユキノが手を振るが、ロイはやれやれと言うジェスチャーをしながら合流した。


「見てるなら助けて下さいよー」


 ユキノはむくれながらロイに抗議した。


「まともに戦ったのは今回が初めてだろ?命を奪う時に躊躇しないように慣れる必要があるからな。次は魔石の取り出し方を教えるから付いてきてくれ」


 そう言ってロイはスタスタと歩いていく。


「あれ?……これって」


 ロイを追いかけようとしたユキノはさっき倒したゴブリンに違和感を感じた。

 なぜかゴブリンの足の甲に投げナイフが刺さっていたのだ。


 そう言えば、ゴブリンはいきなりけたような……。


 そしてユキノはある結論に至り、頬を緩ませて投げナイフを回収し、アイテムボックスに収納した。


「何してる?こっちだ」


「今行きまーーす!」


 先程まで少し不機嫌だったその心も、追いかける時には暖かいものとなっていた。

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