第70話 料理上手な陽キャ美少女は、俺を美味しく頂くつもりらしい②

 真後ろの席の友木と雑談していた椅子から、俺の身体はビクとも動かない。


 ご丁寧に俺の正面へと椅子を向き直し座った二宮さんは、さながら包丁で食材を捌く直前の料理人のように思えた。


「おっとヨッシー。良き友人として好き、そう言いたいのは分かるよ」

「……さすが二宮さん! 以心伝心だね」


 有無を言わさず『異性として好きなのかな~?』と攻められなくて助かった。

 そうしなかったのは、ある意味では不自然ともいえる。


「だからこそ、良き友人のヨッシーには正直に答えてほしいな」

「な、何を……?」


「ヨッシー的にも今の関係、友達以上恋人未満と言っても差し支えないかな?」

「……! それは、そうだね。二宮さんを好きな男子の一人だよ俺も」


 校内一の陽キャ美少女たる二宮さんに、異性として惹かれていると公言しても、あまりおかしくは無いだろう。異性として魅力がないと言う方が失礼だよな?


 むしろ二宮さんも俺なんかを、友達以上恋人未満と思っているのが意外だ。


「つまりヨッシーは私を異性として好きだけど、私がヨッシーを見ていないから、友達以上恋人未満と言い表すのが妥当。っていう考えなんだ?」


「概ね、その考えで合ってる。俗に言う高嶺の花だね」

「そっかそっか~。でもその考えって間違いじゃないかな?」


 二宮さんはそう呟くと椅子から離れて、いつもの陽キャ的距離感で、お互いとも吐息が感じられるくらい、思い切り顔を近づけてきた。


「普段からヨッシーにだけ、この距離感だよ? 高嶺じゃないよ?」

「……っ」


 あれ? いつの間にか俺は二宮さんのことを友人『以上』と認めていて、対する二宮さんからは、俺の発言を否定されている。


 次から次へと考えなければいけないことが飛んできて、判断力が鈍っていく。


 まさしく目の前にいる二宮さんは、どこか緊張感も混じっているような、でも、普段のイタズラっぽい笑みのまま、俺に囁いた。


「最後の質問~。私はヨッシーのこと、見てると思う?」


 やはり俺の脳裏によぎった、あの直感めいたものは正しかった。

 今以上に『まな板の鯉』という諺が合う状況に、これまで出遭ったことがない。


 二宮さんの陽キャ的振る舞いは、どうとでも解釈できるので曲解したくなる。


 事に至ったキッカケ――聞かれていた友木との会話をよく思い出すんだ俺。

 引越しの件を『風の噂』と誤魔化し切れずに『裏アカを見た』とバレかけてる?


「俺のことを……疑いの目で見てる、とか?」

「……えっ??」


 あまりに予想外な回答だったのか目を丸くして、二宮さんは席に座り直した。


 そしてしばらく黙考した後、何かに気付いたらしく一気に頬を紅潮させながら、大慌てで帰り支度を始めた。


「は、恥ずかしくなってきたから、今日はもう帰るねっ!」


 危うく包丁で捌かれる寸前の鯉だった俺は、間一髪で池の中に戻れたと思って、気を緩めながら二宮さんを見送った。


 ――まだ気を緩めるには早いとも知らずに。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 引っ越し時期までピタリと言い当てるとか、

 よく考えなくても神がかり的では!?

 この裏アカ、バレてたりする? まさかね~。

 もしそうなら、恥ずかしすぎる~!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 二宮さんの様子が気になって帰宅後、裏アカを確認した俺に衝撃が走った。

「し、しまった! 誤魔化し切れてなかったのを、後押しする形になってる!」

 当の本人に「誤魔化したと疑ってる?」と尋ねるなんてコミュ障過ぎた!

 最後の質問『俺を見てるか』の答えは、分からず仕舞いとなった。

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