第三章 彼氏彼女の間柄?

序幕話 俺と委員長しか知らない。陽キャ美少女が引っ越し予定だとは①

 学校で五本の指に入る日常イベントに、必ず『席替え』は入ってくるだろう。

 その一大イベント席替えが、本日、今まさに行われようとしていた。


 入学当初は視力が低い人を優先的に最前列へ配置した後、残りの生徒の席は担任の先生が、くじ引きでランダムに決めたのだが、今回も同様らしい。


「じゃあまず、黒板が見えにくい人は挙手してくれー」


 先生が尋ねてみるも、誰も手を挙げる者は居ない。


 入学当初、最前列に配置された矢野くんと小池さんは、それぞれ眼鏡とコンタクト派になっていたので、どうやら俺しか裸眼視力が低い人は居ないようだ。


「先生。最近目が悪くなってきたので、最前列でお願いします」

「了解ー。席替え一番乗りは、吉屋に決定だな」


 スマホでなろう作品を読みすぎた代償が、授業で指名されやすい最前列席か。

 きっと矢野くんも小池さんも、それが嫌で裸眼派を卒業したに違いない。


 先生が黒板に『最前列の中央~吉屋』と書き込んでいると、俺の後ろの方から、エンジンフルスロットルな陽キャ美少女の声が轟いた。


「先生! 私も最前列でお願いします!」

「二宮もか。それなら『最前列の中央左~二宮』っと……」

「えっ?」


 俺は思わず、僅かながら声を漏らしてしまった。

 二週間ほど前に健康診断があったのだが、その際に二宮さんがドヤ顔で「視力一・五」と言っていたからだ。


 そのまま残りの席は、くじ引きでランダムに決められて席替えは終了。

 各自、机の中を綺麗にして新しい席へと引っ越し終わり、休み時間が訪れる。


「謎過ぎる」


 率直な感想を呟くと、さっそく左隣に越してきた二宮さんが微笑んできた。


「どうも新しく引っ越してきた二宮と申します。宜しくお願いします~」

「いえいえこちらこそ……じゃなくて、二宮さん目、良いよね?」


「そうなんですよ~。親戚の武蔵おじさんも、真ん丸お目目って太鼓判で!」

「いや、まあ、文字通り目も綺麗で良いと思うけど、視力も良いよね?」


 あの寿司屋の伯父さん懐かしいなあと思いつつ、ダメ押しでツッコんでみると、二宮さんは照れ臭そうに、制服のリボンを弄り始める。


「そこはまあ、恋は盲目という言葉がありまして……」

「あ、恋で思い出した。二宮さんに恋人が出来たって、まだ噂になってるよね」


 校内の噂話に言及してみたところ、二宮さんは制服のリボンを弄るのを止めて、小声ながらも力強い口調で、俺に囁いてきた。


「恋人は出来てないですし、当の本人からの手応えも薄いのが悩みです!」

「そうなの? 噂には尾ひれがつくものだね。恋路については何もアドバイスできないが、二宮さんだったら、その男子もいつか振り向いてくれると思うよ」


「う~ん……今はこっちを向いてくれてますね!」

「おお、興味を持ってもらうことには成功してるんだ。手応えあるのでは?」


 俺は真面目に答えたのだが、二宮さんは「なぁ~ぁ~ぃぃ~!!」と声にならない呻きを残して、机に突っ伏してしまった。


 たまたま俺の右隣の席に配置された委員長が、俺の顔を見て呟く。


「貴方って、ゲーム内の攻略不可キャラクターか何かなの?」

「恋愛ゲームの話? そういや、その手のゲームやったことないな……」


「とにかく貴方は、もっと積極的になりなさい。話しかけるだけではダメだわ」

「委員長が俺と二宮さんの心配をしてくれてることは分かった、ありがとう。光陰矢の如しって言うくらいだ。二宮さんとの貴重な時間は大事に過ごすよ」


 俺にそう返された委員長は、死に覚えゲーを延々と試行錯誤中の初級プレイヤーみたいな、諦念と僅かな希望が混じり合った表情で閉口した。


 左隣で二宮さんが机に突っ伏して撃沈し、右隣では委員長が沈黙を貫く。


 これまた奇遇なことに、俺の真後ろの席に配置された唯一の男友達・友木が、次の授業が始まるギリギリに話しかけてきた。……何故かヒソヒソと内緒話の形で。


「やるな衛司、両手に花じゃん。枯らすなよ?」

「別にこの席は偶然ランダムで……いや、二宮さんの席は違うか」


「もしかして二宮さんの噂の彼氏ってお前なのか? 友達だろ、隠すなよ」

「違うぞ。仲の良い友人ではあるけど。皆の目にもそう見えているはずだよな」


「えぇえー? まあクラスメイトとかは、そうだろうけどさ……。うーむ??」


 友木は友木で、謎解きゲームの序盤で行き詰まったかのような、頭の中が疑問符だらけという顔つきになってしまった。


 高校に入学するまでは、こんな学校生活が待っているとは思ってもいなかった。

 中学時代よりも楽しい生活になってきた、これからの高校生活も楽しみだ。


 そう思う俺であったが、自宅に帰って二宮さんの裏アカを見た直後、そんな俺の考えは一瞬で吹き飛んだ。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 本日は席替えで、隣にお引越し!

 リアルに引越し控えてるし、今が本当の攻め時!

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