幕間小話 女の勘が囁いてる。委員長はヨッシーを気にしてるってね!
二宮姫子は高校指定の体操服へと着替えて、ウェーブがかった亜麻色の髪もシュシュでポニーテールにまとめて動きやすくして、体育の授業に臨んでいる。
女子は体育館でバレー、男子は運動場でサッカーと、男女で分かれて授業を受けるので、クラスメイトの吉屋衛司の姿はおらず、姫子は体育館で委員長相手に絡んでいた。
「委員長を見てると、この世は平等ではないって思い知らされるなぁ~」
「えっと……。人の胸元を見ながら、何を言っているのかしら」
腰まで伸びた黒髪を運動用におさげに結んだ委員長だが、その少々野暮ったいヘアアレンジとジャージ姿でも、校内一と噂されるスタイルの良さは隠し切れていない。
「私も委員長くらい背が高くて胸も大きければ、ヨッシーをあわあわさせることが出来るかもしれない……。圧倒的な力が……パワーが欲しい……」
「吉屋くんの何がそんなに貴女を駆り立てるのかしら。まあ吉屋くんに色仕掛けのような真似は通用しなさそうだけどね。私も彼からそういう視線を貰ったことは無いもの」
「目測Gカップの委員長でも
「あら、体育の先生が来たみたい。セクハラを告発しましょう」
「ええっ!?」
話を打ち切った委員長は、体育館にやってきた体育教師に何やら耳打ちする。
すると体育教師は姫子を呼び寄せて、コツリと軽く拳骨を喰らわせた。
「同級生に胸のサイズについてセクハラ発言するなんて、まったくもう……。姫子さんは罰として腕立て伏せとスクワットを限界までこなすこと! 良いわね?」
「これからバレーなのに、何という厳罰~!」
流れるように告げ口して事なきを得た委員長だが、バレーのチーム分けで姫子と一緒になってしまったので、まだまだ姫子からの追及は終わらない。
クラスの女子が三チームに分かれて行う体育授業のバレー総当たり戦。
他の二チームが戦っている間、姫子や委員長が所属する残り一チームは審判を務めることになったが、二人はジャンケンで審判役を免除され、十分以上の空き時間を得た。
姫子は体育教師から許可を貰ってバスケットボールで遊ぶことにした。
「へい、委員長! 空いてるコートでシュート対決しよ~!」
「筋トレさせられて手足がぷるぷる震えているのに、勝負とは勇猛果敢ね」
「委員長には聞きたいことがあるので! 負けたら質問に答えてもらおうか!」
「じゃあスリーポイントシュートを先に決めた人が勝ちということで」
「スリーポイントだなんて……。委員長がすごく強気だ!」
腕立て伏せとスクワットで弱っていた姫子は、全身の力を振り絞って「はふっ」という情けない声を漏らしながらシュートするも、方向も距離も壊滅的で、ゴールネットを揺らすことは無かった。
生まれたての小鹿のように足を震わせる姫子を横目に、次は委員長の番だ。
「さて。五本くらいシュートする間に入ってくれれば良いけど……あっ」
慣れた手つきで放たれた委員長のシュートは綺麗な放物線を描いていき、一本目にしてゴールネットに吸い込まれていった。
速攻で負けてしまった姫子が、信じられない様子で委員長に詰め寄る。
「バスケ経験者だったとは謀ったな~! 中学で学年成績トップなのは噂に聞いてたけど、運動神経まで抜群なんて! うぅ……委員長にヨッシーの質問をするはずが~!」
「また吉屋くん絡みだったのね。運動神経は別に良くないわよ? 塾に通っていなかった小学校中学年くらいまで、男子と混じってバスケしてただけ」
「だけってご謙遜を。天才おっぱいスポーツ黒髪ロング美人とか属性多すぎ☆」
「……」
委員長は無言で体育教師のもとへと早歩きしていった。
「あっ! このパターンは……嫌な予感!」
姫子は慌てて後を追ったが、全身の筋肉が疲労困憊で追いつけなかった。
「先生。二宮さんが『天才おっぱい』などと暴言を浴びせてくるのですが……」
「委員長~! その単語の抜き出し方は、ちょっと悪意があるのでは~!」
抗議も空しく、体育教師は姫子に厳罰を下した。
「自分の試合の番になるまで、腕立て十回とスクワット十回を繰り返すこと!」
「既に生まれたての小鹿状態なのですが! 許してください先生~!」
姫子がヘトヘトになった頃、彼女が所属するチームの二連戦が始まった。
現役運動部ではない普通の図書委員で、特別運動が出来る訳でもない姫子は、試合前から全身の筋力を使い果たし、へっぴり腰になりながらバレーをプレイした。
「ぷっくく……w ヒメっちがプルプル震えてるしw ヒメっちバイブ機能w」
「私は生まれながらにして死にかけの小鹿さ。憐れ過ぎて攻撃できまい~」
「笑えて攻撃できないw 誰かヒメっちにスパイク打って介錯してあげてw」
「やめて~っ! 生まれたばかりの小鹿が死んじゃう! 情けはないのか~っ!」
結局、真正面から姫子を目視しなければいけない相手チームは、笑いをこらえながらでまともにプレイできず、姫子の所属するチームは二戦二勝を達成することが出来た。
こうして試合は終わり、姫子は屍のように体育館の床に寝転がった。
「二宮さんお疲れ様。そこまでして私にしたかった質問って何かしら?」
「おやおや? 委員長、質問したら素直に答えてくれるんですか」
体力が尽き果てて倒れ伏す姫子だが、委員長の問いかけに気力だけは復活し、いつものテンションを取り戻して勢いよく立ち上がる。
「吉屋くんについての質問でしょう? それならそこまで不都合じゃないから」
「よし言ったな~♪ ではズバリ! なぜ委員長はヨッシーに好きアピールしないのか! はい、回答どうぞ!」
「貴女と吉屋くんを取り合いっこするのは大変そうだから。なんてね」
「ひゅ~っ! さすが美人は冗談で話を受け流すのが上手だね~。……って冗談回答じゃ意味ないんですけども!」
自分が聞きたいような回答が返ってこなかった姫子は、ぬか喜びだった反動か、力なくその場にへたり込んだ。
委員長もしゃがみこんで、姫子と目線を合わせて微笑み交じりに囁く。
「じゃあ、普通に回答してあげる。他の男子みたいに私の胸元を見てこない吉屋くんは、確かに好ましいかも。でも吉屋くんが目で追ってる子は二宮さんだけだから」
「なんてね……って最後につけ忘れてますぜ~」
「事実を述べただけだから、別につけ忘れたつもりはないけれど」
「……えっ?」
「つまり私が好きアピールしても……ねえ? 以上、回答おしまい」
姫子は呆然としていたが、体育教師がホイッスルを鳴らして集合をかけた。
オトナっぽい微笑みはそのままに、委員長は姫子に目配せする。
「二宮さんも早く整列しないと、また先生に怒られるんじゃないかしら?」
「い、委員長……。この私を手玉に取るなんて、なんて恐ろしい才女だ~!」
姫子も急いで整列に加わり、バレーの授業は終了した。
『教室で皆とお喋りして悪目立ちしてるから、自分は目で追われている』
そう結論付けた姫子だが、それと同時に『彼の視線に気付けるほど委員長も彼に視線を奪われていたのでは?』という推測にも至って、少しだけ胸がざわつくのであった。
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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き
美人なクラスメイトが、いつもの男子を目で追ってる疑惑!
恋かな、恋なのかな?
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吉屋衛司、自宅の一人部屋――。
今日の姫子の裏アカ呟きを見た衛司の感想は、色恋成分ゼロだった。
「委員長のことか? なろうを知ってたし、俺とラノベの話でもしたいのかな」
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