第2話 俺への距離感が近い陽キャ美少女の裏アカを偶然知ってしまう②

 翌日の昼休み。購買で適当に惣菜パンを買って、廊下を歩いている時だった。


 リア充カップルたちが平気な顔をして廊下の真ん中を闊歩するので、壁側に沿うように歩いていた俺に対して、突然距離を詰めてくる生徒が現れた。


「壁際で……はい、どーん! ヨッシーに壁ドンだ! 感想を聞かせて貰おう!」

「おわっ、二宮さん!?」


 今日もノルマ達成と言わんばかりに陽キャ美少女が俺に絡んできたが、二宮さんは校内一の美少女として有名なので、少しばかり男子生徒の視線が集まってくるのを感じる。


 だがコミュ力カンスト女子の二宮さんは、そんな周囲の反応などお構いなしだ。


「さあさあ、感想は? んん?」

「……昨日オススメされた『所持金チート』なら面白かった。これからも多分、更新分を読むと思うよ」

「おや、壁ドンの感想はスルー?」

「あ、いや、びっくりした」


 コミュ力MAXの二宮さんと真逆で、これぞコミュ障と言うべきつまらない返事をしてしまったが、二宮さんは至極満足そうに笑みを浮かべている。


 自分の立ち位置を理解できていない男子であれば、間違いなく恋に落ちてしまうような殺人的な可愛さのはにかみだ。


「子供みたいな可愛い感想いただき! 模範的な小並感だな~」

「壁ドンされるまで全く気配を感じなかった。さては、普段から皆にイタズラしてるな」

「ん~? それはどうでしょうね~?」


 二宮さんは俺に壁ドンした距離感のまま、人差し指を唇に当てて恍けて見せる。

 シャンプーの匂いなのか、はたまた香水の匂いなのか、二宮さんが動く度に、ふわりと女の子らしい甘い香りが漂ってくる。


 周囲の男子生徒から変なやっかみを頂戴してもつまらないので、俺は壁側から移動して二宮さんとの距離に気を付ける。


「ああそうだ、二宮さん。俺のスマホ、充電が切れちゃってさ。モバイルバッテリーとか持ってない?」

「あはは、なろうの見すぎだな~? 友達に聞けば持ってる子いるかも。でも購買でパン買わないとな~……。なので私のスマホを昼休みの間だけ貸したげよう」

「え、その、ありがたいけど良いのか?」


 躊躇する俺を横目に、二宮さんは自分のスマホを取り出して認証ロックを一時的に解除してから、俺にスマホを手渡してきた。


「写真フォルダは見ないでね~。えっちな自撮りがあったりするかもよ?」

「……うん、その反応からして無いのは分かったけど、余計な操作はしないようにする。なろうを読むだけだ。安心してくれ」

「それじゃあ私は、購買でタマゴまよパンを買いに行ってくる! またね~」

「おう、地味に人気のあるパン狙いだな。じゃあまた」


 俺にスマホを渡した二宮さんは、購買へと一直線に走っていく。

 セミロングの亜麻色の髪をふわふわと揺らしながら走る二宮さんを少しだけ眺めた後、俺は昼食を摂るべく、いつものように人気がない校舎裏のベンチに向かった。




 校舎裏には誰もいない。俺はその静けさを有難みながらベンチに腰を下ろした。

 クラスメイトに友人が一人いるが、その友人は俺以外に仲の良い友人が何人か居るし、何より昼飯を食べ終わるとリア充男子たちがバカ騒ぎし出すので、俺は静かなこの場所で毎日昼食を食べている。いわゆるぼっち飯だが実はこの場所、密かに穴場だ。


 この校舎裏は教師たちが餌付けした結果、半分飼い猫のような状態になった野良猫たちが集まるようになったので、若干猫カフェにでも居る気分になれるのだ。


「お前ら、良いもん食べさせてもらってるんだろうな。肉付き良すぎないか?」


 惣菜パンを手早く食べた俺は、さっそく二宮さんから借りたスマホを操作する。

 なろうにアクセスするためにWebブラウザのアイコンをタップするつもりだったが、よく似た色合いの隣のアイコンを誤タップしてしまった。


「やば、違うアプリが起動した! これって、呟きSNSのTuitter専用アプリ? しまったな、もろにプライバシー侵害じゃないか。早くアプリを閉じ……」


 そこまで言いかけた俺の口と、スマホを操作する指の動きが止まる。


 二宮さんのものと思しき『@76danshi_UraakaJoshi』という、意味深なアカウント名を目にしてしまったからだ。

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