第52話 勇者一行の作戦会議
今俺達は何時ものリビングに集まっている。しかも今回は町で暮らしだした正さんも一緒だ。
進行は一応まだリーダーである俺がやっている。
「じゃあ、皆も聞いたと思うけど、この王都に魔物の軍団が迫ってきている。数は今確認出来ているだけでも30万は越えているらしい。
しかも、あくまで確認できている数だ。まだ増える予定らしい」
最初は20万の数が迫っていると教えてもらった。ただこの王都周辺まで来るまでにあと15日程あるとの事だった。
それが日を追うごとに魔物の数の報告が増え、あと10日程で決戦だというのに、今では30万、しかももっと増えているらし。
「栄治さん。俺達は当日どうしたらいいのか言われてます?」
光君は真面目に質問してきた。こんなに真面目な光君は初めて見る。
流石に今回ばかりは真面目に取り組んでいるみたいだな。
「いや、まだ正確には決まっていないらしい。なにせ30万以上の大軍だ。何所にどういう風に兵を配置するかもまだ決まっていないらしい」
「栄治さん。こちらの兵力はどれくらい揃う見込み何ですか?」
正さんから質問来た。その顔は険しく、事態の深刻さが嫌でもわかってしまう。
「主力として正面に20万。そして別の領地にいる兵達を呼んでおり、それが側面から30万。合計50万がとりあえずの人数らしいです。
ただ魔物も増えているため、もう10万ずつ増えて合計70万は確実に行くと予想されているらしいです」
「70万か……かなりの大軍だけど、総大将誰だい?」
「皇太子であるファージン様が総大将に着くそうです。一応あの人も軍属らしいんで」
俺達はこの国に来てまだ約4カ月も経っていない。その間に軍隊が動くような大きな事件とかはなく、平和そのものだった。
それがいきなり国を総動員して対峙しないといけない戦いが始まるのだ。緊張しても仕方がない。
「教会で聞いた話によると、どうやら帝国側にも応援を呼ぶみたいね」
「帝国ですか? 果たしてすぐに応じてくれるんですかね?」
沙良さんが追加情報を出し、光君が疑問を呈した。
「だって、帝国からしたら、お隣の大国が滅びる可能性があるんです。俺が見た漫画だと、王国が苦しくなって本当にヤバイタイミングで、颯爽と援軍を引き連れて敵を倒す。
そうすることで恩を最大限に売れるし、最悪王国が滅んでも、援軍は出したって言えますしね。
むしろ滅んでくれた方が領土拡大がやりやすいとか言って援軍を出し渋りするかもしれませんね」
光君の意見はある意味考えられる意見である。だがしかし――
「恐らくそれは無いわ。だって帝国は王国と隣接しているのだから、王国が滅べば次に狙われるのは帝国の可能性が出てくる。
そうなった場合、早い段階で魔物の数を減らさないといけなくなるから、出し渋りはしないと思うわ」
沙良さんは俺が思っている事を代弁して言ってくれた。
相手は魔王である。しかも王国と帝国は友好的な国だ。それを見捨てたとなったら、国のイメージが台無しになってしまう。なんとしても王国を助けるだろう。
「恐らくなんだけど、俺達召喚者組は一緒に行動するか、もしくは前衛と後衛に分けられると思う」
そう言うと、凜々花さんと佳織ちゃんがビクッと反応した。
「正直俺達は強すぎる。だから一般の兵士さん達とは一緒に行動するのではなく、遊撃隊扱いになるんじゃないかと思っている。
俺と光君、そして小音子ちゃんの場合、並みの兵士さん達が一緒にいても邪魔なだけになる可能性が高いしね」
「そして、もし前衛と後衛に分かれる場合、正さん、凜々花さん、佳織ちゃんが後衛として、大規模魔法とかで敵軍に攻撃し、その隙に兵達で牽制、そして魔力が回復次第魔法の斉射の繰り返しになるんじゃないかな?」
俺がそう説明すると、魔法使い組の3人は神妙に頷いた。
「あと沙良さんなんだけど……」
俺や光君、そして小音子ちゃんは前衛。正さんに凜々花さん、そして佳織ちゃんは後衛だけど、沙良さんはどうなるんだろうか?
「私は多分回復に専念すると思うわ。あまり私の力は攻撃に向いていないから。だから負傷した兵士さん達をいっぺんに回復できる場所に配属されると思う」
なるほど、確かに理に適っているな。沙良さんの回復魔法は他の3人より群を抜いている。
という事は沙良さんは比較的安全な場所に配置される可能性が高いのか――良かった。
「恐らく今回の敵の正体は魔王、または魔王の側近クラスの可能性が高い。流石に何十万もの魔物を率いていいるんだ。これでただの中ボスクラスとは考えにくいしね」
「そうですね。ていうか、異世界召喚モノでいきなり幹部クラスがこちらに攻めてくるとか、滅多に見られないパターンのヤツが来ましたね。
ま、栄治さんが俺並みに強くなってくれているおかげで、恐らく大丈夫と思いますけど」
どうしてこのタイミングで俺をディスるのか、少しイラっと来たが、光君を見てその考えは霧散した。
震えているんだ、光君の腕が。恐らく無意識だと思うが、本人はかなり怖がっているんだろう。そう思うとイライラが少し減少した。
「いいか皆。この世界に来た時、女神は言っていた――この世界を頼む――と。まさに今がその時だ。俺達はこの日の為にこの世界に呼ばれたと言われても過言ではない」
俺が真剣に言うと、皆が俺に注目してくれた。
「本当は魔王討伐は俺達側から仕掛ける予定だったんだけど、事情が変わっただけだ。やる事は変わらない。必ず敵の大将を倒す。それだけだ」
俺はおもむろに拳を前に突き出した。
「いいか! 俺達は今から決死の戦に挑む! だけどお願いだ! 誰一人として死ぬな! 全員生き抜こう!」
そう言うと、光君は俺の出した拳に合わせるように拳を突き出した。
「当たり前です。ここからが俺の英雄伝説の幕開けなんですから。いきなり終了とはなりませんよ」
次に正さんと佳織ちゃんが拳を突き出してくれた。
「私にはまだやりたい事があるんです。ここでは死にませんよ」
「私も! 私もまだ叶えたい夢があるんです! だから頑張ります!」
凜々花さんと沙良さん、そしてなんと小音子ちゃんも拳を出してくれた。
「あたしもがんばるよ。絶対に生き延びてやる――」
「私も非力だけど、皆をサポートするわ」
「大丈夫。栄治は私が守る」
全員の拳を合わせ、皆の顔を人通り見てから、俺は宣言した。
「勝つぞ!」
「「「「「「おお‼」」」」」」
そして俺達は部屋を出た。それぞれが決戦の日に向け心を落ち着かせれるように――または心を燃え上がらせる為に――
「俺が絶対に敵の首魁の首を取る――何故なら俺は――俺はーー」
――勇者だからだ――他の誰でもない、俺が勇者だ――
そう心を燃やしていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます