第45話 邪神降臨

 ――ここはとある海の中。朽ち果てた海底神殿とでもいうべき場所なのだろうか。

 その場所に数百体の魔物が集まり、魔方陣を形成し、祈りを捧げている。


『オォーー我ラノ神ヨ、応エ賜エ』

『『『『『応エ賜エ』』』』』

『マタ一ツ、人間ノ住処ヲ滅ボシマシタ。沢山ノ血ガ流レタ』

『我ラノ神ヨ! 新タナ贄ヲ! 全テハ我ラノ神ノ為ニ!』


 魔物達は魔方陣に向かって称える言葉を常に発している。

 その魔法陣の中央には3人の人間がいた。3人とも意識はなく、横になっている状態だ。


『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』

『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』

『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』


 魔物達の興奮が高まり、魔方陣に魔力が集まっていく。


『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』

『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』

『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』


 全ての魔物が荒ぶっていた。魔方陣に魔力が集まり、赤黒い光が魔方陣から迸っている。

 その魔力に中てられてか、魔方陣の中心にいた人間たちが目を覚ました。


「――ここは何所だ? 何で俺はここに?」

「っぐ……確か私は、魔物に食われ……」

「うぅ……お父さん……お母さん……ここどこ?」


 3人は親子であった。彼らの暮らしていた国は大量の魔物に襲われ滅んだ。

 その際、この親子は非難するために大勢の人間と一緒に国の外へ向けて移動していた。

 しかし、魔物の勢いが強すぎたため、避難民の一団と遭遇してしまい、彼らは襲われた。

 この親子は、その際に魔物に襲われ、ここまで攫われてきた人間の一部である。


『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』

「ッヒ!? なんだ――なんだここは!」

「っま、魔物!? え!? 何で!? 魔物!?」

「おかーさーん!! ――おとーさーん!! ――助けて!!」

『贄ヲ! 贄ヲ! 贄ヲ!』


 親子はあまりの光景に、叫ぶ事しかできなかった。

 周りには見渡す限りの魔物の群れ。ここは海底のために地上からの光があまり届かない場所である。

 しかし、魔物が180度全て溢れかえっており、そこにある光は魔方陣から漏れている光と、魔物がこちらに向けている目の光のみであった。


『贄ヨ! モット怯エルガイイ! 絶望スルガイイ! ソノ感情ガ我ラノ神ヘノ供物トナル。サア、モット怯エロ! 絶望シロ!』

『オオ! 我ラノ神ヨ! 今ココニ新タナ肉ヲ捧ゲマス! イザココニ、再ビ降臨ナサレヨ!』


 魔法陣の光が更に大きくなった。中にいる親子は更に泣き叫んでいる。

 そして光が失くなった。魔物達の声も聞こえなくなった。

 ――もしかして助かったのか? そんな思いがこの親子に渦巻いた。しかし――


 ――ちゃぷん――


 そんな音が、彼らの後ろから聞こえた。

 その後も後ろからずぶずぶと音が聞こえる。まるで魔法陣から水か溢れ出ているかのような音がする。

 父親が音のなる方へゆっくりと振り返った。

 既に魔方陣から光が消えているため、何が起きているのかが見えない。しかし、未だに水が溢れ出てくる音は止まらない。

 父親は意を決して手を伸ばした。すると――


 ――父親の腕は簡単に喰い千切られた――


「ッ! ギャー―!!」

「あなた!?」「おとーさん!?」


 父親の右手は肘から下は、噛み千切られたせいか、夥しい量の血が流れていく。

 流れた血は魔方陣の中央に這うように集まっていく。

 そして、魔方陣の中央に溜まった血は、溢れていた水と合わさり、ナニかを形成していく。

 そして――


 ーー魔方陣の中央から、夥しい量の触手が現れた――


「ギャー!!」「イヤー!!」


 最初こそそのような悲鳴が聞こえていたが、触手が彼らを覆いつくすと、そんな悲鳴も聞けなくなった。

 時間にして3分程だろうか、触手は大人しくなり、魔方陣の中央に戻っていった。

 固唾を飲む魔物達。しばらくすると、再び魔方陣が光りだした。それも先ほど光っていた時よりももっと激しく。


『オオ! トウトウ我ラノ神ガ降臨サレル! ヨウヤクダ! ヨウヤクオ目ニカカレル!』


 彼らは永い時の中、ずっと待っていた。自分たちの神が現れる事を。

 今までは神の一部のみ、それこそ先ほどの触手のようなものだけが表面に出ていた。

 しかし、今回の儀式でとうとう神を降臨させる条件が整ったのである。


『長カッタ――今回ノ生贄デヲ必要トシタガ、ソレモ終ワリダ!」


 魔物達は1体残らず歓喜に震えていた。この時を待っていた。彼らは1万5千年も待っていたのだ。

 ようやく願いが叶う。神と一緒になら達成できる。絶対にこの世界を我らの楽園にできる。

 その思いで彼らは待っていたのだ。神が降臨される事を。


『全テノ体ガ出テクルマデ時間ガ掛カル。ソレマデニ同胞達ニ伝エルノダ。我ラノ神ガ復活シタト』

『残ッテイル人間ハドウスル?』

『好キニスルガイイ』


 この場には多くの人間が捕らえられていた。全て生贄にするために、わざわざ難民たちを襲い、この海の底まで攫ってきたのだ。

 しかし、40人目で神が復活することがわかったため、これ以上の贄は必要ない。

 そのため、残りの3257人は、必要がない贄として、他に魔物達に食われることが決定した。


『アァ――早ク地上ヲ蹂躙シタイ――マズハ手始メニコノ国ヲ攻メヨウ……」


 そう言って魔物は、神殿の壁に描かれている世界地図のある場所を指差した。

 それは、今現在勇者たちが活動をしているブライアンジュ王国を指差しているのであった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


『どうやら【海】が完全に復活するようだ』


 魔王がいる大地にて、再び【鬼】と【金色竜】が邂逅していた。


『ほぅ? あ奴がこちらの世界に来て7000年ぐらいか。ようやくこの世界の地に足を着くことができるのか』

『今までは奴の一部のみがこの世界に侵攻していたが、ようやく本体がお出ましだ』


 今いる【鬼】【金色竜】そして【海魔】、この3体が多くの国を滅ぼし、それぞれの個体が魔王と恐れられていた魔物の正体だ。

 しかし、この3体も所詮は魔王の配下に過ぎないが、それぞれがそれぞれの思惑で魔王に従っている。


【鬼】は最強の力を手に入れるため。

【金色竜】はこの世界の全てを支配するため。

 そして【海魔】、いや【邪神】はこの世界を滅ぼすために、魔王の元に集っているに過ぎない。


『さて、どうするかのぉ? まさかあ奴がこの世界に来れる程の魔力を蓄えていたとはのう』

『確かに想定外ではあった。復活できるほどの魔力をとは、もう少し先だと思っていたがな。配下の眷属どももやりおる』

『ふむ……奴はいったい復活したら、まず何所を狙うかの? 王国か? 帝国か? それともこちらか?』

『復活したら動けばいい。それに、こちらの場合は手間が省ける』

『なんじゃ? あ奴に勝てるのか?』

『今は無理だ。今はな――』


 2体の魔物はそんな会話をしていたが、後ろで未だに黒い靄に包まれている魔王には反応がない。

 まるで2体の話を聞いていない、または興味がないのか、微動だにしない状態だ。


『さて、ここから時代が動き出す。人間どもは耐えられるか――今から楽しみだ』


 ――【邪神】の復活。それが、新たな動乱の幕開けとなった――

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