第44話 魔王の配下

 僕は今、何故か城に通され玉座の間にいる。

 周りには数人の兵士と、一緒に来たガストンさん。それにあとは大臣のような人が数人いる。

 ちなみにクルルはお留守番だ。流石に用もないのにこんなところへは入れないと思う。


 しばらく待っていると、玉座の隣にある扉から、とても偉そうな人が現れた。

 その人は玉座にすわるなり、すぐさま僕に質問してきた。


「ふむ……お主が女神により召喚された異界からの勇者の一人か?」


 えっと……これは答えていいの?王様っぽい人から質問された場合て、勝手に発言してよかったっけ?

 そう考えていると、ガストンさんから助け舟が届いた。


「陛下、発言の許可を戴きたい」

「どうした? ガストン」

「はっ――この者は異界の勇者です。そのため我々の常識が当てはまらない様子。彼には自由に発言をする許可を戴きたい」


 やっぱりこの国も王様への発言は気を付けないといけないパターンだったか。


「よい、許可する」

「はっ――ナガヨシ君。これからは自由に発言したまえ。陛下の質問にそのまま回答するだけでいい」

「わかりました。ありがとうございます、ガストンさん」


 皇帝陛下の許可もいただいたので、さっそく僕は発言した。


「申し訳ありませんが、先にお名前を聞いてよろしいでしょか? 何分この国に来てまだ3日目のため、あまりこのあたりの事を知らないのです」

「ほう、それは失礼したな。わしの名はオーガスト=クルム=ガグンラース。このガグンラース帝国の皇帝を務めておる」


 やはり皇帝陛下でしたか。ま、玉座に座る人って王様以外は確かダメだった筈だから、当然今目の前にふんぞり返っている人は、この国の王様となるよね。


「私の名前は石田長慶。石田が家名で長慶が名となります。この世界の女神、アテナネーゼより召喚された者の一人です」


 そう僕が名乗ると、周りの偉そうな人たちがざわざわしだした。


「ふむ、では次の質問だ。先ほどお主は世界樹に触れて意識を失ったと報告を受けた。その際に起きた出来事を改めて確認したい。

 ――本当に聞いたのか? 魔王の存在を……」


 魔王の言葉が出た瞬間、周りのざわめきが止んだ。誰もが固唾を飲んで、僕の発言を気にしている。


「はい、確かに聞きました。この世界には魔王がおり、その配下には3体の強力な魔物がいると言ってました。

 申し訳ありませんが、どのような魔物かは教えていただけれませんでした」


 周りの空気が重い。それがどれ程重要な情報なのか判断ができないため、うかつに発言できない。


「そうか……魔王は本当におり、更に配下には3体の強力な魔物か……

 ダーウィンよ。確か強力な魔物の情報を何件か報告していたな。覚えているか?」

「はっ、覚えておりますとも。我が軍が直接交戦した訳ではありませんが、強力な魔物が丁度3体分、報告が何度も上がっております」


 皇帝は騎士がつける鎧を着た人と話をしている。もしかして、軍の偉い人かな?

 他にも偉い人達がそれぞれの意見を言い合っているのが聞こえる。

 やれ「やはり魔王の噂は本当だった」とか「あれか? 噂に聞く鬼も魔王の配下ではないのか?」等、全員がそれぞれ不安を抱え込んいる事がわかる。


「情報をまとめよう。まず各地で確認できている魔王の配下らしき魔物の正体についてだ。

 分かっている3体は【金色のドラゴン】【何十万もの眷属を率いる海魔】そして【鬼】この3体に絞られる。それで間違いないな?」

「はっ! それ以外には大きな災害を起こしている魔物の発見例はございません」

「ふむ……どの魔物も一筋縄ではいかん。そもそも全人類の力を集結しても、勝てるか怪しい者ばかりだな」


 今この場にいる人たち全員に、3体の魔物にちての情報が共有された。


【金色のドラゴン】

 目撃された場所はバラバラだが、基本的にこの魔物が現れると、夜でも昼の様に明るくなると言われている。

 その竜鱗は矢でも投擲でも槍投げでも何をしても傷を負わすことができず、魔法に至っては全ての属性魔法が跳ね返されたらしい。

 さらにドラゴン定番のブレスを吐くこともできるらしく、そのブレス攻撃は何十もの魔法結界を破壊し、何百人もの戦士を一瞬で蒸発させるらしい。


【何十万もの眷属を率いる海魔】

 海魔自体の目撃例は未だに無いが、その魔物の群れは海から突然やって来て、あっという間に国を滅ぼしたと言われている。

 とある国では30万の軍隊がいたにも関わらず、その何倍もの大軍で攻撃され、滅んだ国も沢山あるみたいだ。

 そのため、その海魔が率いる魔物の総数は未だに謎であり、今のところ、130万の大軍から襲われたという情報が、最大の軍隊数らしい。


【鬼】

 決して他の魔物と群れず、たった1体のみで国を滅ぼしている恐ろしい魔物。

 しかも持っている武器も大剣のみであり、他に装備は無いが、何度も魔法を当てても霧散することから、魔法の無効化のスキルを持っていると予測されている。

 たった1体ではなあるが、先に紹介された魔物達よりも遭遇率が高く、何度も挑んでいるが、未だに傷一つ負わせた情報は無い。


 この3体の魔物の内の1体が、僕が求めているアイテムを持っているとの事だろう。

 しかし話を聞く限り、【鬼】はともかく、他に2体だったら、とてもきつそう。

 僕の能力では全てを切ることができると思うが、あくまでもそれは近接戦闘の話だ。

 もしも僕が相手のボスのところまで辿り着く前に、武器を壊されたり、疲れ果てたりした場合は、倒せない可能性がある。


【鬼】に関しては、僕に分があると思っている。何でも切れる能力だ。

 相手が防御をしたら、そのまま防御ごと切り倒せばいいしね。


 そんな事を思っていると、皇帝が再び質問に戻った。


「ナガヨシよ。勇者たちの様子を改めて教えてくれ」


 僕はガストンさんに伝えた事を改めて説明した。

 その際に、彼らは彼らの意思があり、魔王退治はきっと積極的に頑張るが、その他の事は時間が短すぎてどうなるかはわからない事を伝えた。

 一応納得してくれたのか、皇帝は最後にこんな質問をしてきた。


「して、どうする? お前の目的はガストンから聞いているが、世界樹の調査については終わったのか?」

「はい。僕の目的には世界樹が必要なため、まだ調査を行う予定ですが、さらに目標達成のためには配下の魔物も倒さないといけないみたいです。

【鬼】はともかく、あと2体を倒すには手数が足りないみたいなので、ここでしばらくは滞在させていただき、準備に取り掛かる予定です」

「なるほど。ではナガヨシよ。この城の訓練施設を自由に使うがよい。その際にわが国の兵達を鍛え上げてくれたら幸いだ」


 なるほど、今回も等価交換か。僕は戦闘訓練ができる場所の確保ができるし、帝国は僕は勇者じゃないけど、勇者の一味が国に滞在しているという抑止力として繋ぎとめていたいと思っているのかな?

 その条件なら別に問題ない。むしろまだまだ僕には無駄が多いらしいから、模擬戦が自由にできる環境はありがたい。


「わかりました。ついでに図書館とかありますか? あるのであればいろいろと調べごとをしたいので、利用したいのですが?」

「構わん。後でお主を何時でも資料室に行けるように手配してやる。存分に活用しろ」

「ありがとうございます」


 その後、少しの雑談を行って僕は玉座を離れた。ガストンさんはまだ中でお話合いをするらしい。

 僕はエクレール家に帰宅するが、その帰宅途中ずっと考えていた。

 どうしたら、3体の魔物に出会えるのか、出会えた場合の対処法、どこの場所で出会えたら一番いいのか等、いろいろシミュレーションするのであった。

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