間章② 高嶺の花と付き合えました(前編)

 僕は今ラケーテン旅団の人達と別れて、クルルと一緒に帝都に向かっている。

 既に帝国に入って8日目になり、あと1週間程度で帝都に到着する予定だ。

 そのため日中は帝都に向けて移動し、夜は近くの町の宿屋1泊している。

 その際によく2人部屋を案内されてしまうが、1人部屋を2部屋借りる説明を何度もしていた。


 どうやら僕とクルルで宿にチェックインしようとすると、明らかに恋人通しに見えるらしく、2人部屋を案内するのは自然だと、何時かの宿屋の主人に教えてもらった事がある。

 実際にクルルさんはよく僕に抱き着いてくるし、手を繋ごうともしてくる。手は何とか阻止しているが、抱き着きは阻止できていない。

 何故なら急に抱き着こうとしてくるので、僕が避けると必ずコケる角度から来るため、仕方なく受け止めている。

 ――別に女体を少しでも堪能したくて避けないなんて、少しだけしか考えてません。


 この日も何とか町の宿屋に到着し、何時もの説明をした後、僕は部屋に行きベットに寝ころんでいた。

 すると――


「ナガヨシ? 今いい?」


 ノックの夫の後、クルルが部屋に入ってきた。返事も聞かずに。


「いいけど、返事をしてから入ってね?」

「以後気を付けるよ。そんな事よりさ、奥さんの事を教えて?」


 いきなりクルルさんは僕の嫁であるみなもについて聞きたいと言ってきた。何故だ?そう思っていると――


「だって、恋敵の情報を知るのは常識だよ? しかも奥さんの事知ってるのナガヨシだけだし? じゃあナガヨシから情報を聞き取るしか他に方法がないじゃん? だからね?」

「――ほうほう。つまり惚気を聞きたいと? よしわかった! 僕もみなもの事誰かに話したいと思っていた事だし、丁度良かった」


 ちなみに僕は惚気が大好きだ。いかにみなもが可愛いかを僕以外の人にも教えてあげたい。みなものそう言ったところ、「みなもなーくんの惚気話するの好きだよー」と乗ってくれる。

 どっちが惚気れるかを勝負したこともあるし、第三者を巻き込んで如何に僕がみなもを、みなもが僕を好きかを語り合い、友達から「もう呼ばないで、お願い……」と懇願されるぐらいだ。


「じゃあそうだね――みなもと付き合えるようになるまでを話すね」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 カラオケで僕はみなもと劇的な出会いをしたと思う。

 しかもその帰道でみなもと連絡先交換もした。交換したその日の夜にはお礼の連絡と取り留めのない会話を沢山した。

 その際に、呼び方を月代先輩と呼んでいたら「みなもって呼んで?」と可愛らしく言われたので、照れながらも僕達はお互いの名前を慣れるまで言い合い続けた。

 だからと言って今までの僕の生活が変わるわけではなく、相変わらずみなもは皆のアイドルとして君臨し、僕はそれを遠くで眺めているだけだった。


「なぁ、長慶。お前みなも先輩と連絡先交換したんだろ?どんな会話してんだ?」

 久秀(僕の親友)が興味津々な様子で僕に聞いてきた。


「いや、普通の会話だよ?今日何があったとか、今何してる? とか」

「羨ましいなおい! 俺だって年上の女の人と会話したい!」

「あれ? あの時帰り道で先輩達の連絡先聞いてなかった?」

「……聞いたけど教えてくれなかった……」


 あ、がっつき過ぎて引かれたかなこれは。


「でもさぁ。聞いた話だと、みなも先輩って男と全然喋らないって聞くぜ?」

「ん? 僕とは普通に喋ってるよ? この前も電話したし」

「はぁ! お前電話までしてんの? マジ俺と変わってくれない?」


 そんな風にすぐに興奮するから、女性に引かれるんじゃないかな? ほら、現時点で周りの女子が「こいつうるさい」って目を向けてるし。


「みなも先輩って男と話す場合は事務的な会話しかしないってよ? ほとんどこの前あったお友達とか、たまに別のグループと話すぐらいしかしないんだって」


 それの元情報は何所から仕入れた?僕は普通にみなもと会話できてるし、他の男子と全然話してないとか言われても想像できないんだけど?


「お前、信じてないな? よし! じゃあ今日みなも先輩のクラスに行ってみようぜ! 実際に噂が正しいか確かめてやる!」

 その行動力をもっと別の方面に生かして、更に大人しくしていればモテる可能性もあるのに――性格ごと変わってしまってそれはもう久秀じゃなくなるか。


 そして昼休み。


「よし! 飯も食ったし、行くぞ長慶!」

「いや、僕まだ食べ終わってないからね? っておかず食べないで!」

 何とかおかずが取れれるのを阻止しながら、いつもより早めに昼食を完食した。


「いや~上級生の階ってなんか緊張するな!」

「いや、全然緊張しているようには見えないからね?むしろわくわくが勝ってんじゃん」


 僕の親友は何故こうもアグレッシブに行動できるのか――

 そうこうしているうちに、目的地であるクラスの前まで着いた。

 久秀はドアの窓からそっと教室の中を覗きだした。もちろん、今は昼休みだ。廊下には沢山の上級生が出ている中で覗きこんでいるのだ。物凄く目立つ。止めてほしい。


「どうした? うちのクラスに何かようか?」

 案の定、声を掛けられた。


「――あっと……えっと……あのぉ……」

 さっきまでの勢いは何所に行ったのか、久秀のテンションは駄々下がりだ。


「あ、もしかして月代に告白か? 無駄だと思うけど、呼ぶか?」

 どうやら今から告白する下級生に間違えられたみたいだ。しかもこの先輩の口振りからして、結構頻繁に告白イベントが起きているみたいだ。恐るべしみなも。

 そして先輩は、久秀の様子から恥ずかしがってる後輩だなと思ったのか、教室のドアを開け、みなもがいるグループまで移動した。


「おい、月代。また告白だぜ」

「えっ、本当? わざわざ教えてくれてありがとう」

 みなもは普通に男に返事をした。これだとまだ事務的な会話しかしないとかはわからないな。


「えっと、今日は下級生かな? 同級生の場合は普通に教室の中に入って来るもんね。じゃあちょっとごめんね?」

「いいよいいよ。行ってらー」「泣かさない様に気を付けてね~」


 そんな返事を聞き、みなもは立ち上がり、僕達の方へと歩いてきた。そして――


「えっと君かな? ――ってなーくん? どうしたの? わざわざ教室まで会いに来るなんて?」


 みなもは久秀の姿を一瞬見た後、すぐに僕がいる事に気付いたようだ。ただどうやら久秀の事は覚えていないらしい……ドンマイ久秀!

 とりあえず、みなもに今回の趣旨を説明した。そうすると、みなもの友達であるこの前カラオケで一緒だった友達がこちらまで来た。


「何みなも、珍しく男子と話してるじゃない? 知り合い?」

「彩ちゃん、この前のカラオケ店の子だよ。こっちが石田長慶君、でこっちが……えっとごめんね?名前を教えてもらっていいかな?」

「はい! 俺は高町久秀って言います!」

「だって」

「あ~この前の。その節はありがとうね。私は竹内彩(たけうちあや)。この子の友達よ。気軽に彩って呼んで」

「はい! 彩先輩!」

「わかりました。彩せんぱ「ダメ―!」――みなもっ!?」


 僕が竹内先輩を下の名前で呼ぼうとすると、みなもに止められた。しかもその際に抱きしめられる状態で。

 みなものまだ発達していない胸に僕は顔をいきなり押し当てられ、軽い混乱を起こしていた。


「わー! 大胆! みなもってこんな公衆の面前で男子に抱き着くなんて!」

「どうしたの彩? ってみなちゃん!? 何で男の子を抱きしめてるの? 苦しそうだよ」 

「そうそう。離してあげなよみな。彩も困った顔してるよ」


 どうやらみなもと話していた残りの女子たちが合流したらしい。

 先輩たちに宥められ、ようやく僕を解放したみなも。その顔からは不満げな表情が窺えた。


「なーくんは下の名前を呼んじゃダメ。わかった?」

「え? じゃあみなもは?」

「みなは良いの! なーくんはみなの名前以外は呼んじゃダメなの。わかった?


 そう可愛らしく注意された。今みなもは顔を赤らめながら、僕の顔に右手の人差し指を指して「っめ」のポーズをしている。凄く可愛い。


「――みなも? あんたいつの間に彼氏を?」

「あ、この子あの時の子だ。え? あれから連絡取り合ってたんだ」

「うわ~。みなもったら独占欲強すぎ~!」


 とうとう友達から揶揄われだしたみなも。特に彼氏の一言に敏感に反応した。


「彼氏じゃないよ? お友達だよ?」

「そうですよ? みなもとはお付き合いしてませんから、彼氏彼女の関係じゃないですよ?」

 そう2人で否定をしたが、お友達さん達はますますニヤニヤしながら詰め寄ってきた。

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