第2話 嫁救出/そして異世界へ……(後編)
帰宅後、僕は自分の身に起きてしまった状況を整理し始めた。
「(えっと――神様的な人からすごい力を貰って、後でお願いをしに来ると言ってたね……いつ来るんだろう? さすがに力を貰って貰いっぱなしはないだろうし。ていうかなんで僕? ラッキーボーイとか言われていたから、たまたまなんだろうか?)」
そう物思いに更けていると、玄関からチャイムが鳴った。
「はーい――えっと主人のお知り合い? ええ、今部屋で着替えてると思いますけど……ちょっと待ってくださいね――まーくん。カミサマ? って人が来ているけど知り合い?」
まさかの玄関からやってきた。急いで玄関に向かう。
「え、神様? なんで玄関から?」
「いや、後で尋ねるって言ったよ? 言ってない? ま、いいじゃん。ちょっと長話になるし中に入らせてもらっていい?」
「え、あ、はい。いいですけど」
「じゃあお邪魔しますねー」
ものすごい軽い神様にの登場に混乱した。しかも神様、現代ファッションとか着こなしているし。
そう僕は若干の現実逃避をながらリビングに通した。リビングではみなもがソファーでくつろぎながらテレビを見ていた。
「あれ? 上がってもらったんだ。なーくんの知り合い? カミサマだっけ? 初めましてですよね? えっと長慶君の妻のみなもといいます。いつも主人がお世話になっております」
みなもは妊娠中のため、少しだけ怠そうにしながらも、しっかりと神様に挨拶をした。
「あーちょっと前に旦那さんと知り合った神といいます。今回はちょっと旦那さんにお願いをしなくちゃならなくなったんで来ました。奥さんにも関わることなんで一緒に聞いてくださいね」
神はそのままリビングに胡坐をかぐと、空中に浮きだした。
「……なーくん。みなもてば疲れちゃったのかな? カミさんが浮いて見えるよ?」
「大丈夫。こっちも浮いて見えるから」
「あ、やっぱり浮いてるように見えるんだ……え、浮いてる?」
さすが神。こちらの常識には嵌らない。
そんな混乱している僕とみなもに対して神は空中で寝そべりながら言った。
「旦那さん、明日の15時ぐらいに異世界に召喚されるんで」
ものすごく軽い感じで意味が理解できないことを口走った神。
「いやー本当は召喚っていきなり呼ばれて無理やり向こうの世界に飛ばされるんだけど、今回召喚魔術を起こしたのが下位の世界でさー。手あたり次第召喚してたら、なんとこっちの世界の旦那さんに白羽の矢が当たったわけ。
ふつう下位の世界から上位の世界のモノを召喚する場合って、下位の神からお願いが来るんだけど、今回それがなかったわけよ。それだけ切羽詰まってるってことだからマジ困ったもんだよ」
いきなりそんな話をされても理解ができないんですけど。
ていうかプカプカ浮きながら言うような事じゃないと思う。
「あ、ちょっと急ぎすぎたね。ごめんね。ま、お茶でも飲みながらゆっくり教えるさ。奥さん、ごめんけどお茶くれる?」
いつの間にかテーブルの傍に座りなおしている神。
そんな言葉にみなももなんとか動き出し、お茶を入れに行った。
「えっと緑茶と紅茶とコーヒーがありますけど、どれにします?」
「コーヒーで。砂糖多めのミルクもできればお願いね」
神様はコーヒー党ですか。
みなもはきっちり3人分のコーヒーとお茶請けをテーブルに置き、ソファーに腰かけた。
「ありがとね奥さん。いやー神の業務って頭使うから甘いもの沢山欲しくなるんだよね。気が利く奥さんでいいねなーくん。うちの嫁もこれぐらい気が利けばね……」
「えっと、お話が突拍子すぎてよくわからなかったので、もう一度教えてもらっていいですか?」
砂糖を大量に入れたコーヒーを飲みながら、神様はおもむろに何もない場所から数枚の紙束を出してきた。
「ぶっちゃけ説明がだるいので、紙に書いたから。一応ザックリな説明しか書いてないから、質問があるなら都度してね。お茶請け全部食べていい?」
みなもの了承を貰って神様は嬉しそうにお菓子を頬張りだした。
神様からもらった紙束を読み解くとこんな感じだった。
・石田長慶は異世界召喚に選ばれてしまいました。
・召喚先の世界に魔王がいるので倒してください。
ここまではテンプレだと思う。問題はこの後だった。
・魔王を倒しただけでは元の世界に戻れません。
・元の世界に還りたい場合は、必要なモノを揃える必要があります。
・魔王を放置している場合、こちらの世界に侵攻してくる可能性が高いため、必ず倒すこと。
うん、酷い。魔王退治は必須項目になってしまった。
ていうより必要なモノがないと還れないとかどういう事?
しかも魔王こっちの世界に侵攻するとか意味がわからない。
「あのー、一応確認なんですが、召喚されるのは僕一人なんでしょうか?」
「さぁ? 一応複数の召喚反応が確認できたから一人ではないと思うけど、どこの世界の誰が召喚されるかは現時点では確認できないよ」
「……どこの世界?」
「そうそう。ここは上の中ぐらいの世界でね。召喚魔術を起動した世界は中の中の世界なのさ。
しかも今回の召喚は複数世界の人間を呼び寄せてるからね。下の下の世界の場合もあれば上の上の世界から呼ばれる場合もあるってこと」
どうやら世界は僕たちが認識できない領域で動いているみたいだった。
「あのーカミサマ? なーくんが選ばれたのが偶然みたいですけど、こっちに無事に帰ってこれるのでしょうか?」
そうだ。僕の最愛の嫁は現在妊娠中。あと3カ月もあれば生まれる身だ。
できれば出産は立ち会いたいと思っていた矢先にだったので忘れていたが、向こうと時間の流れは同じなんだろうか。
「えーっと……無事に帰ってこれるかは旦那さんの頑張り次第だね。僕としては事件を解決してちゃんと帰ってきてほしいから力を与えたしね。
あと長慶君が気にしている時間軸に関しても君の頑張り次第だよ。
向こうの世界とこっちの世界の時間は流れが違うから。だいたい向こうの1年がこっちの1カ月ぐらいだったかな? だから向こうで3年以内に事が済めば出産には間に合うんじゃない?」
それは嬉しい情報だ。急いては事を仕損じるというが、早く還りたいと焦って死んでしまう可能性もあったので、時間の余裕が少しでもできるのであれば大変助かる。
「あのー……ていうかなーくんを向こうの世界に行かせないようにできないんですか? 一応上位? の世界の神様なんだし……」
それは僕も思った。しかし
「一応できたけどもう無理。理由は旦那が知っているから諦めてね」
そう、僕が神様からすでに力を貰っているし、約束だったから多分断れないと思っていた。
そのため、僕はみなもに力を貰った経緯を説明した。
「……そっか。さっき泣いてたのってそんな意味があったんだ。ありがとうねなーくん。助けてくれて」
「当たり前のことをしただけだよ。僕はみなもがいない世界では生きていけないからね」
「なーくん……」
「みなも……」
「ごほんと言ってみる」
「「あっ」すみません」
そうだった。二人きりじゃなかった。
「とにかく紙に書いた内容は理解できたかな? 本来は召喚された場合すぐに向こうの世界に飛ばされるんだけど、それは僕が今は邪魔してる。下位の世界に挨拶もせず連れていかれて、僕の世界のモノが壊されたらさすがに怒るからね。
だからできる限り壊れないように可能な限りサポートしている訳さ。肉体的にも精神的にもね」
なるほど、確かにもしみながあの時死んでいた場合、僕は向こうの世界ですぐに自殺していただろうし、逆に死ぬ前のあの時間が止まった状態で召喚された場合、みなのことが気になって世界を救うことはおろか、多分やはり死んでいただろう。
そう考えると、さすが神様。よくわかってらっしゃる。
というより神様にとって人間って神様の所有物扱いなんだ……
「てなわけで、今生の別れの夜となる可能性もあるんで今後の事はしっかりと二人で話し合ってね。
僕は帰るんで。あと長慶君、僕から力を与えたけど、向こうに行く際も召喚プレゼントとして何かしらの力がもらえると思うから。
頑張って魔王を倒して生き延びて帰ってきね。
魔王とかこの世界に来てもらっても困るから。頑張って退治して僕の面倒を減らしてください」
さすが神様。自己中である。しかし問題を解決するために能力をケチらないのは好印象だ。
「まったくもー。神が世界に直接手を出してはいけないからって放置してるから面倒な魔王なんて産まれるんじゃん。いっその事あの世界を滅ぼしたら……」
物騒なことを言いながら神は玄関から帰っていった。
やはり意外と律儀である。
「――みなを助けるのを手伝ってくれたし、頑張るしかないか……」
その夜、僕はみなもと今後について話し合った。
できるだけ出産には間に合うように頑張ってみるが、間に合わない場合はごめんなさい。
みなもも無事に帰ってこれたらそれでいいなんて泣きながら言われてしまった。
妊娠中のため行為は控えていますが、その日は何時もよりしっかりと抱きしめながら眠った。
このぬくもりは忘れないように。必ず生きて帰ってくることを決意しながら。
――異世界なんかに行きたくないです――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます