第9話 この試練、厳しすぎない?
壁の向こうは、今までとは比べ物にならない程道が悪くて、流石の無警戒な3人も、進む速さが遅くなっています。
そのまま慎重に行こうね。
と思っていると、先を行く3人の足が急に止まりました。どうしたんだろう?
「あれっ? この先、道がないわ?」
「途中に別の道なんて、なかったぞ?」
「また壁に仕掛けがあるのかもしれないよ」
どうやら、この先が行き止まりになってるみたい。
「あっ! ここに隙間があるわ。ディアナの言う通り、これが仕掛けだと思うわ」
エミリさんは、そのまま左手を隙間に入れてしまいました。
「おかしいわね…… ちゃんと左手を入れて、土系の魔力を流したのに、何も起きないわよ?」
迷宮に、同じ答えの仕掛けがある筈がないです。絶対に嫌な予感がする……
そして、悪い予感は的中!
ガガガガガガ……
私達の来た方向から、大きな音が聞こえてきました。何かが近付いてきてるようです。
げっ!? 通路いっぱいの大きさの壁が、後ろから迫ってきてるよ!?
「な、何あれ!?」
「早く逃げないと! このままじゃ、ペシャンコに潰されるぞ!?」
「逃げ場なんて、どこにあるんだよ!?」
皆パニックになってる。こんな時こそ、私が冷静にならなくちゃ―― そうだ! 仕掛けを解くんだ!
私が慌てて前の壁を見ると、やっぱり文字が書かれていました。
『右手を入れて、風系の魔力を流せ』って!
私は急いで壁の隙間に右手を入れて、風系の魔力を流す!
ゴゴゴゴゴ……
前の壁が真ん中で割れて、左右に開いていく。
そして、その2秒後―― 私達は後ろから動く壁に押されて、全員前のめりに倒されました!
もうダメ…… と思ったら、動く壁はそこで止まっています。
皆、へたり込んだまま、しばらく動けませんでした。
・・・・・・
「エミリさん…… 次に仕掛けを見つけたときは、絶対に勝手に仕掛けに触らないでくださいよ!」
「わ、分かったわ。気を付けるわ……」
ようやく立ち上がった私達。
後ろは壁に閉ざされて、進むしかないけど、今の仕掛けは絶対に『私達を殺す気』でしたよね? 入学試験にしては過酷じゃないですか? 戻ったら、絶対に文句言ってやる!
あんな目に合ったから、流石に皆無口になっています。あれから30分くらい歩いたけど、真っ暗な道が続いているだけでした。
グウッ!
誰かのお腹が鳴ったよ。
「お腹空いてきたね」
「そうね。そろそろ12時を過ぎた頃かしら?」
その時、先頭を歩いていたリックくんが、何かに気付いたみたい。
「ん? 何か良い匂いがしてきたぞ?」
「ホントだわ。甘い香り―― 果物の匂いみたいだわ!」
「果物!? 行ってみよう!」
3人は一斉に走り出しました。
ダメ! 後先考えずに行動するのは危険だよ!
とはいえ、彼らだけで行かせるのは、もっと危険―― 仕方なく私も走って追いかけました。
「あそこからだ!」
今までと違う広い空間―― その真ん中には、果物が成っている光った木が、1本だけ立っています。
もうね、これ以上ないほど怪しいよ。
丸見えの地雷―― なのに、3人は躊躇なく踏んじゃったよ……
ガシャン!
入口が閉ざされましたよ……
「これ、バナップだね! 美味しい!」
「美味い! 最高だ!」
「こんな所で、バナップが食べられるなんて、幸せ!」
閉じ込められたことに気付かず、無邪気に喜んでいる3人――
「あなたも早く食べなさいよ!」
「早く来いよ! 美味いぞ!」
「キミも食べなよ!」
皆が私を呼んでいます。
そうだよ。彼らはまだ10歳の子供だ。ここは私が大人の余裕を見せて、この状況を脱するしかない。
・・・・・・
「嘘っ? 私達、閉じ込められたの?」
「大丈夫! きっとここにも、仕掛けを解くヒントがある筈ですよ」
すると、すぐにディアナさんが見つけました。
「木の後ろに何か掘ってあるよ!」
皆が木の後ろに回り込むと、文字が掘ってあります。
「これも神聖文字だな。『四隅にある松明に、魔法で火を点けろ』と書いてあるな」
よく見ると、この広間の四隅には、火の消えた松明が飾られています。広間の広さはだいたい20m四方。
「私以外に火魔法は使える?」
「僕が使えます」
「私は風魔法しか使えないよ」
「俺は土魔法だけだ」
「それじゃあ、私とあなたで2つずつ点けましょう」
松明に近付いてみると、動かせないように固定されていました。きっと無理に外すと、罠が発動するんだろうな……
「2つとも点け終わったわよ!」
「僕も終わりました!」
ところが、何も起こらないよ? もう一度松明を見てみると
「どういうことよ? 火が消えてるわ?」
これ、同時に点けないといけないヤツだ!
まるで『ゼ●ダの謎解き』みたいだよ。
「多分、同時に点けないとダメみたいですね」
「同時に? これだけ離れていては、2人じゃ無理だよ……」
「松明を1箇所に集めればいいだろ!」
「それは名案だね!」
「ダメですよ。松明は壁に固定されていますし、多分外そうとすると罠が発動すると思います」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」
大丈夫! 私には『あの特技』があります!
「えっ!? 火の球が4つ!」
そう! 私の特技――
ギギギギギギ……
4つの松明に火球を命中させると、入口の鉄格子がゆっくりと開きました。
「なあ…… お前の名前、何て言うんだ」
「名前、まだ聞いてなかったね」
「キミの名前も教えてくれないか」
えーっと…… これって、皆が私のことを認めてくれた―― って、ことですよね!?
「僕はマセルです。皆さん、よろしくお願いします!」
私は満面の笑顔で答えたよ!
「マセル、よろしくな」
「マセル、頑張ろうね」
「マセル、協力していこう」
えへへ、疲れがいっぺんに吹き飛んだよ。
・・・・・・
「それにしても、この迷宮、どこまで続くんだ?」
あれから更に1時間近く歩いているのに、何も見つからない。と思っていると、また行き止まりだよ……
「これも、きっとどこかに仕掛けがあるのよね?」
「ここに、神聖文字が書いてある…… 『10個の数字を覚えろ』って、どういうことだ? 数字なんてどこにも書いてないぞ?」
「こっちには、また隙間があるよ」
壁の端のほうに手が入る隙間と
「ここには、『隙間に左手を入れて、水系の魔法を流せ』と書いてますね」
やっぱり、神聖文字が書いてあります。
「とりあえず、私が水魔法を流すわね」
エミリさんがそう言って、隙間に左手を入れました。
「じゃあ、魔法を流すわよ!」
エミリさんの声と同時に、目の前の壁に数字が浮かび上がった! なるほど、この数字を覚えろ、っていうことか!
「よし! 僕が覚えるから大丈夫だ!」
リックくんがそう言ったけど―― 目の前の数字は、パッパッパッと次々に切り替わっていく。そして、最後の数字が消えました。
「くそっ! 速すぎて8つまでしか覚えられなかった……」
リックくん、8つでも十分すごいよ! 私は1つも覚えてないし。
「大丈夫! そんなこともあるかと思って、最後の3つは私が覚えておいたよ」
ディアナさん、偉い!
すると、再び壁に文字が浮かんできました。
『すべての数字の合計を、10秒以内に答えろ』って。
「5233!」
私は反射的に答えてしまいました。
ゴゴゴゴゴ……
壁が開いた! 正解だったようですね。
「マセル…… お前、あの数字を全部覚えられたのか? しかも、一瞬で計算したなんて……」
「すごいな! マセル!」
「マセル、やるじゃない!」
いいえ、違うの…… 前世の癖で、数字を見ると思わず足しちゃうのよ。それに、フラッシュ暗算みたいだったし。出てきた数字は1つも覚えてないの…… 何かごめん……
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