第4話 憧れのシチュエーションです

「ここなら、誰の邪魔も入らないぜ!」


 イケメン男の子に連れていかれた場所は、定番の校舎裏。


 これが告白だったら、前世では1度も経験のなかった、憧れのシチュエーションだよ!


 でも現実は、イケメン君は、これから私を怖い目に合わせる気なんだよね。

 折角のイケメンなんだから、告白の方にしてくれないかな? ソレはソレで、男同士だから十分怖いけど。


「お兄さん、こんな場所に連れてきて、一体僕をどうする気ですか?」


 分かっているけど、一応確認する私。


「また言いやがったな! お前は、これから俺にズタボロのギタギタにされて、2度とメルナに近付けなくするんだ!」


 折角のイケメンなのに、言動がソレでは残念だぞ。そんなんじゃ、メルナちゃんのハートを射止められないぞ。

 ちょっとお姉さんがお仕置きして、性根を叩き直してあげましょう! って、今の私は男の子だったわ。


「チビの癖にニヤニヤしやがって! 見て驚くなよ!」


 そう言うと、イケメンくんは呪文を唱え出しました。


 おお! 私の家族以外の魔法を見るのは初めてだよ。


「これは基礎魔法じゃないんだぞ! 戦闘魔法だから、当たったら怪我するぞ!

『メルナに2度と近付かない』と誓って謝るのなら、今のうちだからな!」


 私は勿論、そんな理不尽な要求に応える気はないから、黙って立っていると


「もう遅いぞ…… ファイヤーボール!」


 ピンポン玉くらいの小さな可愛らしい火の玉が、私に向かって飛んできました。当たっても、怪我しないような気もするけど、服が焦げて穴が空くと困る!

 何せ、私の家は貧乏だから……


 ということで、私はそのファイヤーボールを迎撃しました。

 勿論、魔法で!


 そうだよ! 私もファイヤーボールが使えるんだよ!

 母が魔法を使うところをジックリと観察しているうちに、『魔力の流れ』が感じ取れるようになったから、試しに火の玉をイメージしてみたら、出せるようになったんだ。ソフトボールくらいの大きさの火の玉を!


「う、嘘だ!? 俺のファイヤーボールよりも大きな魔法を、お前みたいなチビが使える筈がないんだああぁぁぁ!」


 プライドを傷つけちゃったかな? 今度は半分泣きそうな顔で、両腕をグルグル回しながら突っ込んできましたよ。

 駄々っ子攻撃―― 可愛いけど、ここは心を鬼にして格の違いを見せつけて、反省してもらうからね。


 私は、今度は風魔法を使って、イケメンくんを軽く浮き上がらせました。これは、母が私に何度も使った風魔法で、私は見様見真似でそれを覚えたのです。

 怪我させないように、ほんの50cm程浮かしただけだったけど、イケメンくんは物凄く驚いたんだね?


「うわーん!」


 泣かせちゃった…… ちょっと大人気なかったかな?


 その時、足音が近付いてきました。


「あっ!? やっぱりここにいた!」


 現れたのはメルナちゃん。

 その途端、さっきまで泣いていたイケメンくんは、ピタッと泣き止んだよ。

 流石、男の子! 好きな女の子の前では泣きたくないよね。


「また、私の隣に座った子を苛めてたんでしょ!? お兄ちゃん!」


 えっ!? お兄ちゃん?


「だ、だってメルナに変な奴がちょっかい出したら困るし……」


「ごめんね、マセルくん。大丈夫だった?」


 メルナちゃんは心配してくれたけど、私は大丈夫だよ。


 私がイケメンくんの方を見ると、イケメンくんは、ばつが悪そうに私から目を反らして、


「俺の名前は【クリス】だからな! 二度と『お兄さん』なんて呼ぶなよ! 分かったな!」


 そう叫んで、走って行っちゃった。


 イケメンくん改め『クリス』くんは、シスコンだったんだね?

 だから、私の『お兄さん』の言葉に異常な反応を見せたのか。



 クリスくんは、メルナちゃんの1歳上のお兄さんで、メルナちゃんの隣に座った男の子を、毎回校舎裏に連れていって、脅していたそうです。

 どうりで、メルナちゃんの隣の席が空いていたわけだよ。


   ・・・・・・


 その日の帰りは、約束通り母が迎えに来てくれました。


 馬車で帰るのかな? と思っていたら、母の風魔法で空を飛んで家まで帰ってきました。

 やっぱり、父の身体強化魔法よりも、母の風魔法の方がカッコいい!


 結局私は、風魔法の『飛行魔法』を最初に覚えよう、って思ったのでした。



   ◇ ◇ ◇



 私が学び舎に通うようになって、半年が経ちました。


 私には『どんな言葉や文字も分かる』スキルがあるから、今のところ態々学ぶ必要が全くありません。

 それに、基礎魔法の訓練も、本当に基礎的な生活魔法の使い方を教わるだけで、私の望む『戦闘魔法』や『強化魔法』は全然教えてもらっていません。


 学び舎に通うのは10歳までだから、戦闘魔法はもっと大きくなってから教えてもらうのかな? と思っていたら、この学び舎では生活に必要な基礎魔法しか教えないのだとか。

 そういった戦闘系の魔法は、王都にある学校でしか教えていないらしいのです。


 ラノベ大好きな私にとって、魔物や魔族を相手に『戦闘魔法で無双する』ことは、前世で何度も夢想した憧れのシチュエーション。

 その夢を叶えるためには、戦闘魔法を覚える必要があり、絶対に王都の学校へ入学したいのです!


 地方の学び舎で優秀と認められて、推薦状をもらった子供だけが、王都の学校の入学試験を受験できる――

 それを聞いた私は、何とかして自分の優秀さをアピールしようと考えたんだけど、読み書きと基礎魔法だけじゃあ、他の子供達と差が付かないんだよね……


 他にアピールする課題といえば芸術系! まずは『お絵描き』だ!


「うわあ! そのお花の絵、すごく上手だね!」


「ほんとだ! 本物みたい!」


「素敵!」


「流石はメルナちゃん!」


 絶賛されているのは、私の隣に座るメルナちゃん。そして、私は……


「これ、何の絵なの?」


「マセルくんは…… 見本の花を描かなかったのかな?」


 うん! 私は前世でも絵の才能は皆無だったよ…… 隣の子の似顔絵を描いたときは、あまりにも酷すぎて、モデルの子を泣かしたことがあるほどです。それ以来、私の絵のモデルはいつも先生になったのでした……


 じゃあ、次は『音楽』だ!

 私は、前世では歌にはそれなりに自信があったんだよ。


 でも、この学び舎にはピアノやオルガンがありません。唯一、太鼓だけは存在したんだけど…… 太鼓の伴奏じゃ、歌えませんよ!



 私は能力をアピールすることができないまま、月日だけが経っていったのでした。



 ところが! 遂に私に転機が訪れたのです!

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