第3話 そうか、貧乏だったんだ

 4歳の誕生日が近付いた私は、最近は母と一緒に外出するようになり、ようやくハムストンの町のことが少しずつ分かってきました。


【レムス王国】所属の人口約1万人の町―― それが『ハムストン』


『レムス王国』自体が謎だけど、そこはとりあえず置いておいて、ハムストンはレムス王国の王都から、南東のかなり離れた位置にある。そんな辺境の町であるハムストンだけど、ここは結構大きな町なんだとか。


 私の生まれる前に、何か大きな戦争があって、ハムストンは防衛拠点になっていたそうで、その名残で今も町のほとんどが壁に囲まれています。

 ほとんど―― というのは、町の北側は高い立派な城壁で守られているけれど、南へ向かうほど壁は壊れて低くなっていて、南側には全く壁がないのです。


 そして、私の家は『壁のない』南側の町外れ―― というより、完全に町の外にポツンと建っていて、私の家の周囲500m以内には他の家は全く存在しません。


 もしかして、町の人達から除け者扱いされているのかも、と心配したけど、そうではないらしい。私の家のすぐ側には、危険な魔物の出る森が広がっているため、私の家族以外は誰も住んでいないそうなんだ…… って、そんな危ない森の側に、家を建てないでくださいよ!


 でも、そのことを知った私は、全てを悟りました。


 人の寄り付かない危険な場所なら、税金がかなり安い筈です。そんな所に住んでいるということは、私の家はかなり貧しいに違いありません。


 私が町のことを尋ねても答えてもらえなかった理由は、きっと貧乏のせいだ!


 私がいろんな物に興味を持って、欲しがると困るから、町に行くこともなく、何も教えないようにしていたんだわ。


 でも、ハムストンの町では、4歳になった子供は【学び舎】―― 所謂、学校へ通うことが決められているから、最近になって私を外に慣らすために、仕方なく町へ連れて行くことにしたのだと思います。

 家の経済事情を理解している私は、市場で駄々をこねたり、物欲しそうな目で商品を見たりしない―― って、精神年齢16(+4)歳だからね。それに、興味を引くような物も特にないし。


 町に出て確認できたこと。それは――

 文明は、やっぱり地球の中世レベルのようです。

 その割りに識字率は意外に高そうで、文字の書かれた看板が普通に出ています。流石は4歳から学校へ通うだけのことはありますね。


 教育に力を入れているということは、レムス王国は人材を大事にする国に違いありません! きっと、庶民からでも成り上がれる機会チャンスがある筈です。


 私の知識と魔力で国の重要ポストについて、絶対に貧乏から脱出してやるんだ!

 そして、前世でできなかった親孝行をするぞ!



   ◇ ◇ ◇



 とうとう私が『学び舎』へ通う日がやってきました。


『学び舎』では、主に読み書きの勉強と基礎魔法の訓練を行うそうです。


 魔法の訓練――

 そう! ついに、私の華々しい魔法使いデビューのときが来たんです!


「マセル、準備はできてるか?」


「大丈夫だよ、父さん! 僕の準備はバッチリできてるよ!」


 3歳の間、言葉遣いと仕草を『男の子』っぽくするために努力してきた甲斐あって、今では一人称はしっかり『僕』が使えるようになっています。

 本当は前世の記憶を頼りに、自分に『僕っ娘』属性を付与しただけだけど。

 まさか、初めて役に立った前世の知識が『僕っ娘』だなんて…… 自分が情けないよ。

 仕草の方は、私の周りに男の子がいないから、手本がないだけにボロが出そうで不安だけど、これから周りの男の子達を観察して、覚えていくしかなさそうですね。


「今日はマセルの初めての登校だから、父さんが送ってやろう。じゃあ、そろそろ行こうか、マセル」


「マセル、気を付けていってらっしゃい! 帰りは母さんが迎えに行くわね!」


 両親共に過保護だよ。通学くらい1人で平気ですよ! とは思っていても、大人な私は折角の両親の申し出を断ったりしません。


「うん! 母さん、行ってきます!」


 私はまだ1度も学び舎までは行ったことがないけど、町の入口の真ん中の道を真っ直ぐ行くだけらしいから、迷うことは絶対にないです。


「ねえ、父さん。学び舎まではどれくらい歩くの?」


「そうだな…… ここから大体10kmくらいかな」


 10km!? 流石にちょっと遠すぎでしょ!? 4歳児の足じゃあ、3時間は掛かりますよ!?


「心配しなくても馬車が出てるから、普段は馬車を使えばいい。馬車なら30分で着けるさ。でも、今日は父さんが送ってやるから、もっと早いぞ!」


 そう言うと父は私を肩車し、いきなり走り出しました!


 速い! とんでもなく速いよ!


 景色がどんどん後ろに流れていく…… これ、人間の足じゃないでしょ!?

 そうか! これは魔法だ!


「すごいよ、父さん!」


「そうだろ! これが身体強化の魔法だぞ!」


 ほんの10分足らずで、学校らしき建物の前に到着しました。


 母の火や風の魔法もカッコいいけど、父の身体強化の魔法もスゴイ!

 特に学校へ通うには、身体強化は是非覚えたいです。


 馬車を使ったら絶対に料金が掛かる筈だし、家の経済事情を考えると、自力で行くに限ります。


 よーし! 学び舎で最初に覚える魔法は『身体強化』にしよう!


   ・・・・・・


「注目!」


 女性の言葉に、大勢の幼児達の目が一斉に私に注がれました。


「今日からこの学び舎で一緒にお勉強する『マセル』くんです。皆さん、仲良くしましょうね」


 私を紹介したのは、担任の【フレイヤ】先生。緑の長髪が優しい雰囲気を醸し出す癒し系美女。


「はーい!」


 幼児達の元気な声が返ってきます。


「それじゃあ、マセルくんはあっちのお席―― メルナちゃんのお隣で、お勉強しましょうね」


 私の隣に座るメルナちゃんは、セミロングの巻き髪で、お人形さんのような可愛らしい女の子。


「マセルくん、よろしくね。分からないことがあったら、私に何でも聞いてね」


「ありがとう! こちらこそ、よろしくね。メルナちゃん!」


 うふふふ―― 私の前世の夢は『保育士』になることだったんだ!

 ここは、可愛い幼児達に囲まれた夢の空間。


 転生、バンザイ!


   ・・・・・・


 お昼休み――


「おい! お前、なんでメルナの横に座ってたんだよ!」


 私が教室を出て、すぐに絡んできた男の子―― 私のクラスの子達より一回り大きな体格をしています。きっと年長の子だわ。


「お前、メルナにちょっかい出したら、只じゃおかないぞ!」


 あっ! きっとこの男の子は、メルナちゃんのことが好きなんだな? メルナちゃん、可愛いもんね!

 でも、この男の子もかなりのイケメンだよ。将来有望だよ。


「あの…… お兄さんは、僕をどうするつもりなんですか?」


「『お兄さん』だとおおぉぉぉ!? お前は絶対にブッ殺す! ついて来やがれ!」


 何か、地雷を踏んでしまったんだろうか? すごく怒らせてしまいました。


 でもこの展開は、絶対にテンプレ的なアレだから……


 ごめんね、って先に謝っておくね!

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