第72話 俺の知らぬ間に、スク水や妹は進化しているらしい
俺たちの住んでいる地域は田舎のため、水着なんかを買いに行くためには、電車や車を使って大きな街に出る必要がある。
近くに大きめのデパートがないというのは、少し不便だ。
そんなこんなで、電車を使って大きな街に行き、俺たちはデパートに到着した。
デパートで俺たちが足を運んだのは、女性用の水着が売られている店だ。
「え、俺もここ入るの?」
女性用の水着がズラリと並ぶ店内を指差して、俺は愛美に訊いた。
「え、逆に入んないの?」
愛美が首を傾げてそう告げる。
「いやいやいや! 男はここ入りづらいって!」
「えー? 確かに、男一人だったら入りづらいかもだけど、私も一緒だから大丈夫だよー」
「いや、しかし……」
「いいからいいから!」
「え!? ちょっ!?」
俺は愛美に腕を引っ張られ、強引に店内へと入れられてしまった。
「ねえねえ、隼太君。どれがいいかなー?」
店内に並べれれた水着を見ながら、愛美が訊いてくる。
俺はといえば、気恥ずかしさから店内の水着をまともに直視できずにいた。
「す、スク水なんてどれも一緒だろ? どれでもいいだろ」
この店から早く出たい一心で、俺はそんな風に答える。
「そんなことないよー! 最近はね、スパッツ型のスク水とか、セパレート型のスク水とか、スク水にも色々あるんだからね!」
と、愛美がスク水について熱心に語りだした。
「ほら見てよ隼太君! これがスパッツ型!」
愛美が手にした水着を見ると、それは確かに、俺が知っているスク水とは少しデザインが違っていた。
普通のスク水よりも露出度が低めで、なんというか、レスリングのユニフォームのような形状だった。
「隼太君はこういうの好き?」
愛美に問われ、俺は少し考える。
「俺は……普通のスク水のほうが好きかな」
「なるほど! 隼太君はそういうのが好きなんだね!」
「ん。まあ、愛美がスパッツ型の方がいいっていうなら、それでいいと思うけど……」
「私は、隼太君の好きな水着が好きです!」
「そ、そうか……」
そういうことを面と向かって言われると、少し照れる……というか。もうちょっと自分の意見を大事にしてもいいのでは……と思ったりもする。
「セパレート型はどう?」
次に愛美は、セパレート型とやらのスク水を見せてくる。
そのスク水は上下に別れておりおり、下に関しては男子の水着と大差ないように見えた。上の方も、水着というよりは、シャツという感覚が強い。上に関しては、袖なしの水着や、半そで、長そで等、種類はさまざまあるようだった。
「へえ……。水着ってここまで進化してるんだなぁ……」
おっさんみたいなことを呟く俺。
「やっぱ普通のスク水が好きだなぁ、俺は」
もしかしたらいずれ、セパレート型やスパッツ型の水着が主流になって、俺たちが幼い頃に見ていたスク水は廃れてしまうのかもしれない。そう思うと、少しだけ悲しくなった。
「わかった! 隼太君がそういうなら、普通のスク水にするよ! 色は何がいい? と言っても、授業で使うやつだから、あんまり派手な色には出来ないけど」
「まあ、紺色でいいんじゃね? それが普通な気がするし」
「オッケー! じゃあ、紺にしようかな?」
「……って、愛美。そんな決め方でいいのかよ? 俺の好みに合わせなくても、自分が好きなやつ買えばいいんだぞ?」
「いいのいいの! 隼太君の好みが、私の好みだからね!」
「そ、そうかよ……」
俺は照れくさくなって、愛美から目を逸らした。
「あれー? なんか顔赤いよー? 私に惚れ直しちゃったかな?」
「うっせえな。別に、俺の好みが好みとか言ってくれる俺の彼女可愛いとか思ってねえし!」
「それはそう思ってる人の反応だよね? もー、素直じゃない隼太君、可愛いぞ! このこの~」
愛美は俺の頬を人差し指でつんつんしてくる。
「やめろって」
「もっと素直になっていいんだよ? 愛美超好き! 好き好き大好き! 今すぐ結婚して! って叫んでもいいんだよ? 世界の中心で愛を叫んでもいいんだよ?」
「さすがにそこまで思ってねーよバカ!」
「ってことは、少しは思ってるんだね? 私のこと可愛いって、少しは思ってるんだね?」
「くっ……。いいから、早く水着買ってこい!」
俺は逃げるように愛美から距離を取り、店の外へ出た。
「もう、もっとデレてくれてもいいのにっ!」
後ろから愛美のそんな声が聞こえた気がしたけど、俺は無視した。
◇◇◇
愛美との買い物を終え、帰宅した俺。
玄関の扉を開け、俺は家の中に入る。
「ただいまー」
家に入ると、玄関で妹の
「おかえりー、隼太」
やだ、玄関で俺のこと出待ちしてるとか、俺の妹可愛すぎない!?
「じゃあ、舞衣で」
と、俺は先走ってそう口にしてしまった。
「は? 何が?」
舞衣は怪訝な顔をして俺を見る。
「いや、舞衣の言いたいことはわかってる。アレだよな? 俺の事出待ちしてたってことは、次に来るセリフは十中八九アレだよな? ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し? って伝説のあのセリフだよな? ならば俺は、迷わず舞衣を選ぶぜ!(洗脳済み)」
俺がそう告げると、舞衣は身震いして、全力で俺から距離を取る。
「キッモ!? キッモ!? え? マジでキモ過ぎなんだけど……。うわぁ……。鳥肌やば……。隼太がここまで落ちぶれてたとは……。童貞という称号はここまで人を変えるんだね……」
………………。
舞衣に全力で拒絶される俺。
お兄ちゃん普通に傷つきました。
明日死のうかな……。
「ま、隼太お兄ちゃんがキモいのは昔から知ってたから別にいいけどね。それより隼太、聞いてほしいんだけど」
茶番はここまでとでも言うように、舞衣は即座に態度を切り替える。
ちなみに、俺はしばらく立ち直れそうにない。愛する妹にキモいと罵倒された俺に、生きる希望はなくなりました。
「死にたい……」
「もう、ごめんって。お兄ちゃん大好きー。超好きー。だから機嫌直して?」
「大好きの言い方が棒読み過ぎなんだよなぁ……」
「とにかく、私の話を聞いて!」
「アッハイ」
舞衣の有無を言わせぬ圧力に負け、俺は舞衣の話を聞くことにする。
そういえば、いつの間にかいつもの舞衣に戻ってるな。土曜日にちょっと様子がおかしかったのはなんだったんだ?
「今度の休み、父の日のプレゼント買いに行くから!」
「え?」
舞衣の突然の提案に、俺は目を見開く。
「え……。でも、今年はそういうのしないってことになったんじゃ……?」
「気が変わった。
舞衣にそう問われ、俺は困惑しながらも考える。
「そうだな……。予定はいつでも空いてるんだが……。来週からはテストだから、出来ればテスト終わってからがいいかな」
「了解。それじゃ、隼太のテストが終わったら、父の日のプレゼント買いに行くから! そのつもりでよろしく!」
舞衣はそれだけ言うと、自分の部屋に戻って行ってしまった。
「気が変わった……か」
何はともあれ、俺が知らぬ間に、舞衣はいつもの調子に戻ってくれたようだ。
また兄妹三人で出かけられることを嬉しく思いながら、俺は自分の部屋に向かった。
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