第43話 俺たちの成績

 放課後、俺は愛美あいみとの約束を果たすため、教室に残っていた。

 教室にほとんど人がいなくなってきた頃、トイレにでも行っていたのか、姿を消していた愛美が教室に戻ってきた。


「やっほー隼太はやた君! 待った?」

「待ったな。早く勉強しようぜ」

「む~。隼太君はやっぱりわかってない!」


 愛美は腕を組み、怒ったような顔をする。


「え? 何が?」

「この前のデートの時も言ったよね!? 待った? ってかれたら、定番の流れがあるでしょ!?」


 愛美のその言葉を聞いて、俺は彼女が何を言わんとしているのか理解する。


「……面倒くせー」

「女の子は面倒臭いものなのっ!」

「……わかったよ。待ってないよ。今来たとこ」


 俺は改めてそう応える。

 普通に考えて、この状況で今来たとこってセリフはおかしい気がする。俺、ずっと教室にいたわけだし。


「まあ、及第点かな」

「待った? って訊かれる度にこのくだりするの?」

「そうだよ? テンプレってやつだよ」

「さいですか……」

「あっ! それとっ!」


 愛美は思い出したように声を張り上げる。


「実は今日の勉強会、他にも人を呼んだんだけど、いいよね?」


 俺に確認をとる愛美。今それを言うのって遅くない?

 というか、勉強会って人数多すぎると絶対勉強しなくなると思うんですけど。


「……まあ、別にいいけど」

「よかったぁ~! それじゃ、呼ぶね!」

「おう」


 愛美はスマホで誰かに電話をかけ、俺からも許可を取れた旨を伝える。

 わざわざ電話をかけているということは、俺が許可を出さなかったら、当初の予定通り2人で勉強するつもりだったのだろうか?

 数分後、どこかから2人の人物がやってくる。


「邪魔するぜ、影谷」

「ラブラブな所をお邪魔して申し訳ございません。今日はよろしくお願いします」


 片方は軽い挨拶。もう片方は、たかが勉強会に参加するにしては丁寧過ぎる挨拶。

 月宮つきみやよう姫川ひめかわ真莉愛まりあさんだ。


「……どういう組み合わせだよ」


 2人の姿を確認した俺は、最初にそういう感想を抱いた。


「ってか月宮、お前部活はいいのかよ?」


 俺がそう尋ねると、


「ああ。うちの部はテスト5日前から休みになるんだよ。俺はもっと練習したいけどな!」

「……そうなのか。えと、2人とも愛美に誘われたの?」

「おう! 俺は愛美に誘われた」


 笑顔でそう答える月宮。心做こころなしか、少し嬉しそうだ。まあ、好きな人に誘われたら嬉しいよね。


「そうそう! 私が誘ったの! 陽は1年の頃から勉強できるからね! 今日も期待してるよっ!」


 無邪気な笑顔でそう語る愛美。こいつは、月宮の恋心なんか知る由もないんだろうなぁ……。


「真莉愛ちゃんは、私が陽を誘ってる時の話を聞いてたみたいで、『私も参加したいです!』って言ってくれたの。だから、真莉愛ちゃんにも来てもらったの!」


 姫川さんは愛美と仲良くなりたがってるみたいだし、勉強会は仲良くなるのに良い機会だと思ったのだろう。

 そういう経緯で、こんなちょっと不思議な関係の4人が集まったわけか……。

 例えばここに黒崎がいたら、あいつはみんなと仲良くなれるのだろうか?

 いつかはあいつもみんなと仲良くなれる日が来ればいいななんて、お節介にも俺は思うのだった。


「……ところで、みんなの成績ってどんな感じなんだ?」


 俺は3人を一瞥いちべつし、1番気になっていた疑問を口にした。


「私は普通くらいかな? 学年順位はいつも50位前後をさまよってるよ」


 愛美がなんでもないことのようにそう言った。

 50位前後ってことは、いつも真ん中より上は維持しているってことか。


「俺はいつも30位以内だな。さすがに10位圏内に入ったのは1回しかない」


 月宮がそう言った。


「1回10位以内に入るだけでも充分すごいよ! 私は30位以内に入ったことすらないよ!」

「そ、そうか?」


 愛美が月宮を褒めると、月宮は顔を赤く染めて照れていた。わかりやすっ!


「真莉愛ちゃんは!?」

「……私は、常に5位以内はキープしてます」


 謙遜するように、姫川さんはそう言った。


「……え、すごい。すごいよ! 真莉愛ちゃん! これは、今日の勉強会は捗りそうだね!」

「マジか……。やっぱ上には上がいるな」


 2人共素直に感心していた。

 ちなみに俺は、言い出しっぺにも関わらず、終始無言を貫き通していた。


「……隼太君は?」


 興味津々な様子で、愛美は俺のことを見る。月宮と姫川さんも俺の方へと視線を向ける。


「い、言わなきゃダメ?」


 おどけるように、俺はそうく。


「みんな言ったんだから、隼太君も言おうよ!」

「お前が言い出したんだから、言えよ」

「私も、気になります!」


 みんなからの期待の眼差しが俺に集まる。やめて、そんな目で俺を見ないで! 俺のライフはもうゼロだから!


「……100位以下」


 俺はぼそりとつぶやいた。


「え? なんて?」


 愛美がそう聞き返す。

 ……………………。


「いっつも100位以下だよ! 具体的な順位は聞くな! 悪かったな、バカで! 俺は勉強もできなければ運動もできないダメ人間ですよ! どうせ!」


 俺は開き直ったようにそう叫んだ。

 くそ。こんなことなら、みんなの成績なんて聞かなきゃ良かった。なんでみんな揃って頭良いんだよ!


「……なんかごめんね、隼太君。それでも私は、隼太君のことが大好きだからっ!」

「気にすんなよ、影谷。人生は勉強だけで決まるわけじゃねぇよ」

「そうですよ影谷さん! 今はまだ順位が低くても、これから伸びますよ、きっと! まだまだ伸び代はあるはずです! ポジティブに考えましょう!」


 うん。なんかみんなごめんね?


「慰めてくれるのはありがたいけど……。……悪い、やっぱつれぇわ」

「ちゃんと言えたじゃねぇか……」


 俺の言葉に、月宮が腕を組みながら返してくれた。このネタ伝わる人いるんだ……。

 というわけで今日の勉強会は、主に姫川さんたちが俺に勉強を教える会になりそうです……。

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