第39話 俺たちのデート
「それで、映画は何を観るの?」
映画館に到着すると、
「これを観ようと思う」
俺は館内に貼ってあるどデカいポスターを指さしながら、そう言った。
「恋愛映画かぁ……。
「好きっていうか……。やっぱデートで映画を観るなら、恋愛映画なのかな……と」
かなり安直な理由だが、これでも相当悩んだのだ。
「ふむふむ。なるほどねぇー。ちなみに、隼太君が1人で映画を観るなら、どれを選ぶの?」
愛美にそう訊かれ、俺は公開中の映画のラインナップを確認する。
「まあ、1人で観るならこれかなぁ……」
俺が選んだのは、SF系のアニメーション映画だ。
この映画は前から少し気になっていたが、映画館に行って観るほどではないかなと思い、スルーしていた。そもそもこの映画は、完全に男性向けに作られている。
俺はこの映画に興味があるが、愛美が観ても全く楽しめないだろう。
「ふーん。なら、これ観ようか」
あっさりとそんな決断をしてしまった愛美に、俺は虚をつかれる。
「え? いや、この映画、多分愛美が観ても楽しめないぞ?」
「そーかなぁ? 私SFアクションって結構好きだけど?」
「そうなのか?」
「うん。少年マンガもよく読むし、問題ないと思うけど」
それなら別にいいのだろうか……。
俺がそう考えていると、愛美は俺に笑顔を向けて、
「それに、隼太君も楽しめる映画を観る方が、私も嬉しいし」
そう言った。
これで、本当に良いのだろうか……と俺は思う。
今日のデートは、俺が愛美をエスコートするという約束だった。
しかし俺は、愛美の優しさに甘えてはいないだろうか?
それは、俺の考え過ぎなのだろうか。
「……わかったよ。じゃあ、この映画を観るか」
「うん! 楽しみだね!」
結局俺たちは、恋愛映画ではなく、SF映画を観ることになった。
◇◇◇
上映中。
大迫力のアクションシーンに、俺は圧倒されていた。
そして、映画の終盤。
主人公の男の子が、ヒロインを助けるシーン。
そのシーンが流れ始めた時、隣に座る愛美が、俺の手を静かに握ってきた。
俺がそれに驚き、愛美の方に視線をやると、愛美と目が合った。
そして愛美は俺に、優しく微笑んだ。
その一連の流れに、俺は既視感を覚えていた。
中学の頃にも、こういうことがあった。
昔の女のことを思い出すなんて、俺はまだまだ元カノに未練があるということなんだろうか。
俺を裏切った、最低な元カノに。あんなやつ、思い出したくもないのに。
◇◇◇
映画観賞後、俺と愛美は近くのカフェに寄り、先ほどの映画の感想を言い合う。
「すごく面白かったね!」
興奮した様子でそう言う愛美を見て、俺は安堵する。
「お気に召したようでなにより」
「隼太君は? どうだった?」
「当然、俺も面白かった」
特に俺が印象に残ったのは、終盤のシーン。
終盤まで一緒に戦ってきた主人公の親友が、自らの欲望のために主人公を裏切り、主人公と対峙するシーン。
あのシーンに、俺は
かつての俺の親友も、俺を裏切った。
新庄優希と
この2人のせいで、俺の人生は狂った。
例え、俺が過去のトラウマを乗り越えたとしても、俺は彼らを許したわけじゃない。
だから、きっと、いつまでも。
俺の心に、彼らの存在は残り続ける。
「どしたの? 隼太君?」
俺が無言でいると、愛美が俺のことを心配そうに
「いや、なんでもない。それより、この後どうする? 行きたい所とかある? 何もないなら、俺の考えた予定通り行くけど」
「隼太君の予定では、この後どこに行くつもりなの?」
「ゲーセン……とか?」
これまた面白みのない、無難な場所だった。
「いいよー! プリクラ撮ろうよ! プリクラっ!」
プリクラ……か。
そう言えば、プリクラは美優とは撮ったことなかったな。お互い、そういうのに興味がなかったんだよな。
って、俺はまた元カノのことを考えて……! 今は愛美とデート中なんだ。昔のことは考えるな!
元カノと愛美を比べるなんて、愛美に失礼だ。
「りょ、了解。そんじゃ、会計済ませたら、さっそく行くか」
「ふふ。隼太君とのツーショット……。ヤバいこれニヤける。プリクラ撮ったら待ち受けにするね!」
「え、プリクラを待ち受けにするの?」
「うん。あれ、隼太君はあんまりそういうの好きじゃない?」
別に好きじゃないとかではないが……。
プリクラで撮った写真を待ち受けにするという発想はなかったなぁ……。
「プリクラはプリクラで撮ってもいいけど、待ち受けにするのは普通にスマホのカメラで撮った写真にすれば?」
俺がそう提案すると、愛美は、
「え……。それってつまり、今ここで! 隼太君とツーショットで写真撮っていいってこと!?」
確認するように、彼女は訊いてくる。
「ん……。ああ、写真撮りたいなら、撮るか?」
せっかくのデートだ。思い出に写真の1枚や2枚撮っておいてもいいだろう。
「マジですか隼太君っ! は、隼太君がそんな簡単に写真をオーケーしてくれるなんて……。なんかすっごい意外!」
「そんな意外か?」
「うん! 隼太君はね、なんていうか、『なんで付き合ってもないやつとツーショット撮らなくちゃいけないんだよ』とか言いそうだなって思ってたから」
「えぇ……。俺ってそんな冷酷なイメージなんだ」
「自覚ないの!?」
「いや、言っておくけど、俺が昔お前を突き放してたのはわざとだからな? 今はもう……その、愛美は大事な友達だと思ってるし、そんな酷いこと、お前にはもう言わねぇよ」
俺は自分の顔が熱くなるのを感じながら、そう言った。
「……隼太君がデレた」
「うっせぇな。でも、今の言葉に嘘はないから」
「は、隼太君ってば可愛い……。そっかぁー。隼太君はもう、私のことを好きになっちゃったってことかぁー。どうする? このまま結婚する?」
「なんでそうなるんだよ! 友達だって言っただろ!」
「アレだよね? 恋人以上友達未満ってことだよね?」
「いや全然違うけど……」
俺は愛美の言葉に呆れつつ、スマホのカメラアプリを起動させる。
「ほら、撮るなら早く撮るぞ。どうする? 店員さんに撮ってもらうか?」
「な、なんか今日の隼太君すごい積極的じゃない? そんなに私とのツーショットが撮りたいの?」
「今日は俺がエスコートするって約束なんだから、こんくらいはするよ。まあ、これがエスコートなのかは微妙だけどな」
「すっごい嬉しいよっ! 私たち、もういっそこのまま付き合っちゃおうか?」
「どさくさに紛れて変なこと言うな。俺はお前の告白を断っただろ」
「でもそろそろ隼太君も私に惚れたかなーって思って」
「それとこれとは話が別」
俺は別に、愛美が嫌いなわけじゃない。
だからぶっちゃけ、愛美と付き合うことになっても俺にとってはなんの問題もない。
しかし、今の俺と付き合って愛美は本当に幸せなのか? また、愛美のことを本気で好きな人に申し訳なくないか? そういうさまざまな疑問が、俺に待ったをかけるのだ。
その後、結局俺たちは店員さんに写真を撮ってもらった。
それからゲーセンに行き、プリクラを撮ったり、クレーンゲームをしたりして遊んだ。
そして何故か愛美の命令で、俺のスマホの待ち受けも愛美とのツーショットに変更することになってしまった。
帰り際、電車の中で、
「ふふ。これで私と隼太君の待ち受けはお揃いだね。いや~、本当に今日は超楽しかった~。隼太君、またデートしようねっ♡ 次は、本物の彼氏彼女としてっ!」
背伸びをしながらそう話す彼女の姿を見て、俺は思わず笑みをこぼす。
楽しんでくれたのなら良かった。
俺のエスコートは、案外悪くなかったということだろう。
愛美が楽しんでくれたことに俺は確かな満足感を抱きながら、帰路についた。
そして家に帰った後、
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