第22話 俺は彼女に協力する

姫川ひめかわさんと愛美あいみを仲良く……? 俺が?」


 人気ひとけの少ない特別棟にて、俺は姫川ひめかわ真莉愛まりあから頼まれ事を受けていた。

 内容は、姫川さんと太陽の仲を俺が取り持つというもの。


「って、なんでそんなことを俺に? わざわざ俺の力を借りなくたって、姫川さんが自分で話しかければいいだろ?」


 俺がそう言うと、姫川さんはどこかもじもじとした様子で、


「だって……太陽たいようさんって、控えめに言って、リア充じゃないですか!?」


 と、最後の方は興奮した様子で彼女は言った。


「…………わかる!」


 俺はそれに激しく同意する。

 そうなんだよな。あいつと話すようになる前から思ってたけど、太陽ってリア充オーラ半端ないんだよな。名前からして直視できないほど眩しい。

 太陽が言うには、中学の頃はぼっちだったらしいが、はっきり言ってそんな面影は全く感じさせない。

 まさにクラスカースト最上位って感じだ。

 太陽の友達も、どちらかと言うと派手な人が多い気がするしな。


「やっぱり! 影谷かげたにさんならわかってくれると思ってました! ホント、なんであんなにも明るくて可愛くて女神のような御方おかたと、影谷さんのような根暗野郎に接点があるのか理解できません!」

「おい、さりげなく俺の悪口言ってんじゃねえぞ」

「とにかく、私はあのお方──太陽さんと! とっても仲良くなりたいのですよ!」

「……それはなぜ?」

「……! そ、それは……。ちょっと、言いたくないかもです……」


 姫川さんは途端に口ごもる。

 まあ、言いたくないなら無理に聞き出す必要もないだろう。


「つまり、姫川さんの話をまとめるとこうだな。愛美と仲良くなりたいが、話しかける勇気がでないと」

「……はい。少し壁を感じてしまって……」


 姫川さんの言いたいことはわかる。

 俺は二年に進学してからの一週間、クラスのことをよく観察していたが、姫川さんと太陽は明らかにタイプが違う。

 太陽が所属するグループは、誰とでも分け隔てなく話すことができ、クラスの中心になってみんなを引っ張っていくようなグループだ。クラスカーストでいえば女子の中では最上位。リア充グループだ。

 一方、姫川さんが所属するグループは、みんな控えめで、クラスの隅で趣味の話に没頭するようなグループ。クラスカーストでいえば、底辺とまではいかなくとも、確実に下の方に位置するだろう。いわゆるオタクグループだ。


「確かに、愛美のようなリア充グループに話しかけるのは、俺たち非リアグループじゃ難しいよな……」

「……はい。そうなんです。太陽さんから私たちに話しかけることはできても、私から太陽さんに話しかけることは極めて困難です」

「……わかるわかる。わかるぞぉ」

「わかって頂けますか! さすが影谷さん! 生粋のぼっち!」

「ホントさりげなく俺のメンタル削ってくるよね君! 一応誤解のないように言っておくと、俺は友達を作れないわけではなく、あえて作ってないだけだから!」

「……はいはい。ぼっちはみんなそう言うんですよ」

「だからちげぇって! なんなら俺、昨日友達作ったし! ぼっち脱却したし! しかも俺、彼女いるし!」


 偽の彼女だけど! とはいえ、姫川さんにはそのことは知られていない。ここは、彼女持ちというアドバンテージを存分に活用させてもらおう。


「そういえばそうでしたね。訂正します。影谷さんは生粋のぼっちなどではなく、太陽さんという最高の彼女を持ちながら、黒崎くろさき君という男に浮気する最低なケダモノでしたね!」

「いやそれも全く違う! 言ったよね!? 黒崎とはただの友達だって、俺言ったよね!?」

「やはりにわかには信じがたいです。この際ですから、脅迫材料として以外にも、少し面白いので、私が飽きるまでとことんいじり倒してさしあげます」

「そんな迷惑な配慮はいらねえ……」


 そこまで話すと、姫川さんは改めて俺にスマホで撮った写真を見せつけてくる。


「この写真を流出させられたくなかったら、大人しく私に協力してください」


 彼女のスマホに収めてある俺と黒崎の抱擁写真を見ながら、俺はポリポリと頭を搔く。


「……わかったよ。別に協力するのが嫌なわけじゃねえ。協力してやんよ」

「ありがとうございます! 影谷さんならそう言ってくださると信じてました!」


 選択肢は『はい』か『YES』しかなかったけどね! 俺の人生における重大なバグを見つけた瞬間だったよ……。なんで人生というゲームはデバッグできないの?


「さっそくだが、今日の昼にでも愛美との距離を詰めてみるか?」

「えっ? よろしいのですか? お二人の大切なお昼休みをお邪魔して」

「ああ。むしろ丁度良かった。今日は俺の方に事情があって、愛美と俺は昼は一緒に食わないつもりだったんだ」

「え……? それってつまり、太陽さんのグループに、私一人で潜入しろと?」


 姫川さんが困惑の表情を浮かべる。


「……きついか?」

「きついに決まってるじゃないですか! 話しかけることすら難航している私が、あのリア充グループにいきなり放り込まれて、太陽さんと仲良くなれるわけないじゃないですか!? せめて、あなたが仲介してくださいよ!?」


 目に涙を溜めながら抗議してくる姫川さん。そりゃそうだよな。


「なら愛美に頼んで、今日は友達とではなく、姫川さんと二人で飯を食うように頼んでみようか?」

「……確かにそれなら、あのリア充グループに放り込まれるよりかはマシですが……。いきなり二人きりですか?」

「そもそも、俺が仲介して仲良くなっても意味ないだろ? 俺はあくまできっかけで、仲良くなれるかどうかは姫川さん自身の問題じゃないか?」


 俺の言葉に納得したのか、姫川さんは渋い顔をしながらも、こくりと頷いた。


「……そうですね。確かに、あなたの言うことは正しいです。では、そちらの方向でお願いします」

「おう、愛美に頼んでみるわ」

「で、ですが、最初くらいは一緒にいてくださいよ!? さすがにいきなり二人きりは間がもたないので!」

「オーケー。とりあえず、最初のほうは俺も頑張るから、その後は自分でなんとかしてくれ」

「恩に着ます、影谷さん!」

「ま、ホモと勘違いされるよりはマシだからな」

「お言葉ですが、ホモが嫌いな女子なんていませんよ?」

「……聞かなかったことにしよう」


 と、いうわけで。

 今日の昼休みは、姫川さんと太陽で食事をしてもらう運びとなりました。

 

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