第23話 俺とお前のゲーム

 昼休みになってすぐ、俺は太陽たいように声をかけた。


愛美あいみ、少しいいか?」


 自席で弁当を取り出していた太陽が、俺を見る。


「……どしたの? 今日のお昼は一緒できないんでしょ?」

「ああ、それなんだが……」

「もしかして、やっぱり一緒に食べれることになったの!?」


 目をキラキラと輝かせながら、彼女は身を乗り出してくる。


「いや、そうじゃなくて……」

「……なぁーんだ。違うのか」

「お前今日、友達と食べるつもりなんだろ?」

「……まあ、そんな感じになると思う」


 目を泳がせながら、太陽は弱々しく言った。

 あれ? もしかして、今日の昼は何か別の用事でもあるのか?


「もし差し支えなければ、愛美とお昼を一緒に食いたいってやつがいるんだが」

「……え? ホント?」

「うん、ホント」

「え、それって誰? 男? 女?」

「女。クラスメートの姫川ひめかわさん」

「えっ!? ホントに?」

「ああ。それで、よければ姫川さんと一緒に食べてくれないか?」

「いいよ! ……助かったぁ。ありがとう、隼太はやた君!」


 太陽は両手で俺の右手を握り、感謝の意を示す。

 なんだこの反応は……。太陽も姫川さんとお昼を食べたかったってことか?


「……あれ? でもなんで、それを隼太君が?」

「まあ、姫川さんに頼まれてな……」


 俺は正直にそう答えた。


「え? 隼太君って姫川さんと仲良かったの?」

「いや、別に仲良くはないぞ? あくまで俺は、姫川さんから頼まれただけだ」

「へえ……ふーん。そうなんだ」


 え? なんなのこれは。もしかして俺、嫉妬でもされてるの?


「じゃあ、そういうわけだから、姫川さん呼んでくる」


 俺が姫川さんの席へ行こうとすると、


「いいよ。私が行く。隼太君は今日なんかあるんでしょ?」

「なんかあるっていうか……その……」

「……まあ、なんでもいいけどさ。あ、これお弁当。帰りに感想聞かせてね」


 太陽は俺に弁当の入った巾着袋を手渡してくる。


「おう、サンキュな」


 一週間限定の恋人とはいえ、毎日弁当を作ってもらうとなると、さすがに申し訳なくなってくる。

 俺も何かお礼くらいはした方がいいのかもしれない。

 そう考えているうちに、太陽は姫川さんに話しかけ、机を合わせ、一緒に昼食を摂るようだった。

 姫川さんは俺の方へ目を向けると、軽く会釈してきたので、俺はとりあえず、親指を立てサムズアップしておいた。

 太陽と姫川さんは笑顔で談笑しており、早くも打ち解けた様子だった。

 この調子なら、俺の仲介は必要なさそうだ。

 ……なんだよ。別に俺の協力なんて必要ないじゃないか。

 俺は一緒に食事を摂る二人を見て、微笑ましく思うのであった。


 ……さて。姫川さんの依頼についてはひとまず一段落といったところか。

 次は俺の番だ。

 俺──影谷かげたに隼太はやた──が、なぜ今日は太陽と昼休みを共にすることを断ったのか。

 その理由は、極めて単純。

 俺はとある男の席の前に立ち、そいつに話しかける。


「なあ、黒崎くろさき


 そいつの名は、黒崎くろさき洋介ようすけ

 彼は訝しげな眼差しを俺に向ける。


「……なんだよ、ラノベ主人公? 早くも彼女に見放されたか?」


 煽るように黒崎はそう言って、俺の顔を見ながら嘲笑する。

 つーか、てめえは俺と太陽が偽の恋人だって知ってるだろ。……知ってる上で冷やかしてるんだろうけど。


「ちげえよバカ。見ろよこれ、彼女からの愛妻弁当だ」


 俺は太陽にもらった弁当を見せつける。


「チッ。ああ、ムカつく。ホント、なんでお前なんだよ?」

「やっぱ、これが俺とお前の差ってやつかな?」


 俺は先程の黒崎のように、彼を煽り、嘲笑してみせる。

 黒崎は席から立ち上がり、俺を睨みつける。


「上等だてめえ。今すぐ表出ろ」

「あ? 喧嘩か? あいにく俺は、売られた喧嘩は買う主義だ」

「……バカヤロー! 僕が喧嘩で勝てるわけないだろ? ……くくくっ。ここは、頭を使うゲームといこうじゃないか」


 カッコつけてるけど、喧嘩を断る理由がものすごくかっこ悪い!

 確かに、喧嘩が強そうなタイプには見えねえな。体ヒョロいし。筋肉なさそうだし。

 っていうか、話が逸れまくって、俺の本来の目的が果たせてない!

 俺が黒崎に話しかけたのは、こんな言い合いをしたかったわけじゃないんだが……。今さら引き返すことも難しい。

 ここは、黒崎とのゲームをさっさと終わらせて、早く本題に入ろう。


「それで、ゲームの内容ってのは?」


 俺は黒崎に問いかける。

 すると彼は、不敵な笑みを浮かべる。


「くくくっ。はははっ! それはなあ、影谷!」


 ……なんかこいつ、めちゃくちゃ役に入り込んでるな。どういうキャラをモチーフにしてるのかは知らんけど。

 どうやら黒崎は、高二にもなって、いまだに中二病を卒業できていないらしい。

 黒崎は机の引き出しから何かを取り出した。


「こいつで勝負だ!」


 黒崎がバァンッ! という効果音が聞こえてきそう勢いで、机に何かを置いた。


「こ、こ、こいつはっ──!」


 俺はそれを見て、絶句する。


「ただのトランプじゃねえか!」


 なんの目新しさもねえ……。少し拍子抜けだった。


「ふははははっ! トランプを舐めるなよ! たった52枚のカードで、 ありとあらゆるゲームで遊べる! 最高のアナログゲームだ!」

「……ところでお前、そのキャラ恥ずかしくないの?」

「……恥ずかしくなってきたからもうやめる」


 やめるのかよ! そこは最後までその変なキャラ貫き通せよ!


「で、トランプでなにするわけ? 二人でできるゲームなんて限られるぞ?」

「それはだな。ブラックジャックをしようと思う」

「ブラックジャック……だと!?」

「……今度は影谷が変なキャラになってないか? そんな驚くほどでもないだろ……。ルールはわかるな?」

「ああ、問題ない。いざ尋常に勝負!」

「……だからキャラおかしいって」


 と、いうわけで。

 CMの後、黒崎VS俺のトランプ勝負、スタート!

 って、これ絶対誰にも需要ないよな?

 多分勝負は全カットだな、うん。

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